第9話 何気に外堀を埋める華恋と埋められる太郎(笑)
少しだけ時間を戻そう。
華恋に引っ張られてコンビニに向かう…
筈が、何故か素通りして彼女が働くブティックまで連行されていった太郎(笑)
そこで華恋の同僚である例の三人組に自己紹介させられる羽目になったのである。
ただ彼にとってそこはかなり場違いな上に、彼女以外にも兎に角目のやり場に困る三人が居たせいで、どうリアクションをとってよいか解らず、思わず天を仰いてしまった。
すると…
「ねぇ〜ねぇ〜タッくん♪《あっち向いてホイ》って知ってる?」
さっきまで太郎の右隣に立っていた華恋が、不意に彼の眼の前に移動すると、そんな事を彼に尋ねてきた。
「え…も、もちろん…知…知ってるけど…」
「じゃ〜今やろ〜よ♡」
「え…え?」
テンパっている太郎にお構い無しで、流れる様に話を進める華恋は、ちょっとだけニヤリとしながら…
「そんじゃ〜イクし〜♪せ〜の♡」
「ちょ、ちょっと待って!」
「あっち向いてホイ♫」
まんまと華恋にノセられて流れるまま左に首を振る太郎。
すると…
【チュ♡♡♡】
無防備になった彼の頬にKissをする誰かさん♡
「あ!(☉。☉)」
「お!((´⊙ω⊙`)!」
「キャ(✿☉。☉)」
その不意を付く流れるような一連の手際に驚いて思わず声が出てしまった凛夜達三人。
「…………………………」
「ん?どうしたの…って、タッくん!タッくんてば!
目を覚ますしー!ほらタッくんってば!!」
一瞬で石化し、ゆっくりと後ろに倒れ転がる太郎。
そのリアクションを理解できない華恋…
今度は彼女がテンパって太郎を揺り動かしている。
一方…
『あれって確実に死んだ…な…』
『枯れオジにそれはキツイってば…』
『ん〜今晩キスの天ぷら食べたいかも…』
…約一名、変な呟きをしているのは気のせいだろうか?
「ハッ!これってもしや私的にチャンス♡」
『『『オイオイ…(汗)』』』
…何がチャンスか解らないが、少なくとも凛夜達三人のツッコミは間違っていないと思う。
そんなこんなでいきなり気絶している太郎の貞操を奪おうと、STAFFルームまで運ぼうとする華恋を制止する三人+帰って来たばかりの
たまたま店内にお客様が居ないから良かったものの、ちょっとした修羅場になっていた事は言うまでもなくであった。
そしてその後…
各々帰宅後、失礼なメールを受け取った次の日…
『…昨日は何て言ったらいいのやら…』
太郎のそのセリフ…
本日朝起きて出社するまでに既に五回目の溜息&呟きだったりする。
昨夜はあの後店長である華恋の母、冴子の往復ビンタのお陰で無事覚醒した太郎。
直ぐ様彼女に何度も平謝りをすると、足早に店を出てバス停に向った。
勿論本来の目的であるコンビニでのチャージなんか忘れてだ。
それも含めて、今朝は何時も以上に煤(すす)けた背中から中年の哀愁を漂わせている。
本当に今までに無いシチュエーションを体験し過ぎて疲れを隠す事ができずにいた太郎…
「おはようございます…」
猫丸産業ビルの自動ドアが開き、ロビーの受け付けにいる女子社員に何時もの様な元気な挨拶もできずに、力無く挨拶をすると、そのままエレベーターに乗り込もうとボタンを押した。
その時である。
「やぁ~山田課長」
「あ!社長、それに鬼無里本部長おはようございます」
「おはよう」
「おはよう〜」
背後から彼に声を掛けてきたのは井上◯彦バリの深みのある声を持つナイスミドルな猫丸社長だった。
その隣には、これまた梅原裕◯郎の様な落ち着きのある声の持ち主、鬼無里本部長が笑顔で立っている。
軽く朝の挨拶を交わした三人は、揃って最上階から降りてくるエレベーターを待つ。
「そう言えば山田課長、この間のイベント大成功だったそうじゃないか♪」
「ハイ、お陰様で今回あの《株式会社ELITE(エリー)》と正式に契約を結ぶ運びとなりました」
「おー!あのフランスの大手メーカーとか(驚)」
そうなのだ。
その会社は次世代学習AIを内蔵したCB《サイバロイド・バード》と言う世界最小の鳥型ロボットを開発販売しているメーカーで、今世界で注目されているメーカーの一つなのてあった。
「ハイ、その件につきましては明日私と課長とでELITEの日本支社に赴きまして契約書を交わす事になっております」
「うむ、詳しくは今日の定例会議で聞くことにしよう♪いや〜山田課長、念願だったELITEとの契約は取れるし彼女はできるしで今年は君にとって当たり年みたいだな♪」
そんな何気ない社長のセリフ…
気のせいだろうか?
一瞬で空気の流れが止まり、静寂の鐘が鳴った気がする。
【チーン♫】
「………ハイ?」
エレベーターの到着音がその静寂を破った。
「ん?さっき君の彼女とか言う美人が忘れ物を届けに受け付けまで来ていたぞ♪」
「…………エ?」
そして思考停止中の太郎の目の前でエレベーターの扉が静かに開くと…
「しゃ、社長!本部長!スミマセンが所要を思い出しましたのでちょ〜っと失礼させて頂きます!!」
「ウム♡」
太郎は二人に謝罪し深々と頭を下げると、回れ右をしてダッシュした。
その姿を微笑ましく見送りながら、社長と本部長の二人は静かにエレベーターに乗り込むと、最上階にある会議室へと向かうのだった…
…続く…
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