第57話 ダンジョンに行こう その2
「よっし! アキ君も問題なさそうだし、急ぐぞ! 塔降りるのめんどいな……」
《ぷ、プレイヤー、えっと、つい私も思考を放棄してしまいましたが……さっきのは――》
「知らん! だがあれは本体じゃない、多分あれだ、分身とか分霊とかそんなんだな」
《え、どうしてそんな事わかるのですか?》
「神様ってのは古今東西そういうのなんだよ。勿体つけてなかなか本体は出てこない。事実、あいつ手応えが微妙だったしな」
ライフ・フィールドでも神という存在はいたな、そういえば。
めちゃくちゃに強いストーリーとは関係ないボスだったが、まあ似たようなもんだろ。
後でホワイト達にも話してやろ!
「それよりナビ! スノウさん、どこ行ったか分かるか?」
《そう遠くへ行ってないはずです。先ほどの存在が現れてからしばらくの間、世界の時間は止まっていましたので》
「マジかよ、最強の能力の奴じゃん。まだ呪力による時止めは成功した事ないんだよな~」
塔の窓から外を覗く。
温い風が、心地いい
平原の向こう側には街が見え、その更に奥には、海岸線が。
世界は沈みゆく夕日の光を受け、空と雲を赤と紫色に染めていた。
「……いい景色だ、よし! スノウさん探しに行くか!」
《え、プレイヤー、ここは窓ですよ、出口はあっちで、塔の昇降板はその奥……え、まさか》
「あのエレベーターみたいな奴、時間かかって待てない」
《待ちなさいよ》
ナビちゃんがなんか怒ってそうなのでもう一気に行こう。
「呪力強化」
ずん。
脚、腰、そして全身に呪力を纏う。
そのまま窓の外へ身を乗り出し、ダイブ!
高さは100メートルくらい、これなら行ける。
落下の瞬間に、脚の呪力をさらに分厚く、そして一部を弾けさせてっと!
ずどおおおん!!
少しばかりでかい音を立てて無事地面に落下。
うん、どこも痛くない。
《今、呪力を小分けに、地面で破裂させて落下ダメージを殺したのですか? そんな事すれば反動が》
「それもまた呪力強化でカバーだな。いやー、ホワイト達はこれを素の身体能力でやるから化け物だよな。俺もまだまだ鍛えないと。多分、この世界じゃ中の下くらいの実力だろうし」
《……謙虚なのは良い事です。こと生死に関わる個の強さにおいては》
「だろ? よし、それじゃ早速スノウさん探しを……残留魔力を追うか。あー身体に纏ってる魔力はまだしも、空気中に残留してる薄いのはわかんねえな……、ふむ、カースバレの危険性はあるが……」
人差し指と中指を立て、それを右目に添える。
呪力を込めて、っと。
「呪力眼」
ぼうっ、右目に熱。
世界のさまざまなものがもやを放っている姿が見える。
平原の草花も、建物も、魔力が関わっているものに関してはその魔力が手に取るように。
道にはたなびく煙のように七色の魔力が漂っている。
よし、これか。
かなり薄いが……なんとか追えそうだ。
「よし、全速力で――」
《ぷ、プレイヤー、待ってください》
「あん?」
なんだい、ナビちゃんや。
今はスノウさん好感度アップイベントの最中なんだよ。
さっきみたいな邪魔がない限りは――。
《あそこ、誰かいませんか? ほら、丘への登り道です。さっきまで、あなたが、呪力眼を使うまではいなかったはずですが……」
ナビは俺と感覚を共有している。
呪力眼の効果も適用されるらしい。
……確かにいるな。
丘への登り道、道を指し示す看板の下に、制服姿の女性が1人。
「……ほんとだ、さっきいなかったよな……」
《です……よね?》
「……呪力眼切ってみるか」
眼への呪力の循環を止める。
何か、猛烈に嫌な予感が……。
あ、いない。
《……消え、ましたね》
「消えた……ね」
《……》
「……」
看板の下には誰もいない。
え~これ、何?
いや。なんとなく予想はつくけども。
嫌だ、あまり考えたくない。
《あの……プレイヤー、今のって。呪力眼でもう一回確認したほうが……》
「知らん知らん知らん、知らんけどもちょっと呪力眼使うのはやめておこうか」
《プレイヤー。ああいうのダメなんですか? あれだけモンスターやそれ以上の存在も屠るのに?》
「あれ系は別腹なんだよ、どうすんだ、俺の呪術が通用しなかったら、もうなんもいないない、何も見えてません」
《……でも、なんか一回見えてしまうと……もうそこにアレはいるのでは?》
「やめろよ、お前マジでさ~てか、ナビも似たようなもんじゃん」
《あ、アレ系のアレと、い、一緒にするなんて酷いです! もういい! おひとりで幽霊イベントこなしてください!》
「あっ、お前、明言すんなよ! まだ幽霊じゃない可能性もあるだろうが!」
ナビからの返事はない。
あいつ、俺と感覚共有してる癖に、オンオフは自由に出来るっぽいからずるいんだよな。
……よし、俺は何も見ていない。
そもそもこれ、異世界ファンタジーだから。
そういうオカルトとかホラーとか関係ないから。
呪力で脚力を強化して、もう一気に駆け抜けましょう、そうしましょう。
「よし、行くか」『あ、あの、さっきボクの方を見てませんでしたか?』
うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!
なんか話しかけてきたァァァァァ!
呪力眼!!
景色が変わって。
うごおおおおおおおおおお、目の前になんか、人!!
人がいる!
女子の学園制服! 白い髪! なんかあの短髪と長髪の間みたいな
『あ、やっぱり見えてたんだ。凄いね、君。魔眼の持ち主?」
「うおおおおおお!! お前、何、クソ! ……幽霊?」
『? うん、そう、幽霊だよ』
なんだよもおおおおおおお、やっぱりかよおおおおおおおおおおお。
よく見たら、足もないよおおおおおおおおおおおお。
なんか靄かかってるよおおおおおおお。
呪われるっ。このままじゃ!
神社も寺もないこの世界。
もう、自分でやるしか。
俺の呪術でなんとかできるか!?
――出来るに決まっているだろう。
「ええい! かかってこいや! 悪霊退散、術式展――」
『あの、もしかして女の子、探してるんじゃない?』
「えっ」
『あっち、丘の方に走って行ってたよ。……悲しそうな、ううん、辛そうな顔してた。友達なら行ってあげたら?』
「あ、え、あ、どうも……え、良い幽霊……?」
『さあ、どうかな。でも何かに必死になってる人の邪魔とかはしたくないタイプの幽霊だから』
「あ、そうすか……じゃあ、すんません」
よし、もうすぐ行こう。
さあ、行こう。
『……ねえ、君、名前は?』
うわああ、名前聞かれた……。
こういうの答えないほうがいいんじゃ……。
いや、だが……。
「カスタニ、カスタニタキヒト」
『そっか、じゃあ、君はカス君だ。私はフォルト。宜しくね』
「あ、どうも……」
もう行っていいよな。
いいよね。
呪力強化!! ァァァァァァァ!
そのまま地面を蹴って猛ダッシュ!
なんで異世界ファンタジーなのに、幽霊がっ! クソ!
◇◇◇◇
走り去る不思議な彼を見つめる。
わ、もうあんなに遠い場所に。
魔力で強化された肉体よりも頑健でしなやか。
その精度は一級魔法使いにも遜色ないだろう。
『あれが、今回のG級ギフテッドか……驚いたな、女神ルストの分霊を追い払っちゃうなんて』
もしかしたら、君なら。
ボクは一瞬湧いた希望をしかし、自嘲と共に消していく。
そんな事出来る訳がないのだ。
この世界は神のおもちゃ箱。
もう、終わる事は決まっている。
だけど願うくらいはいいだろう?
『G級ギフテッドの後輩クンが、せめて苦しまずに死ねますように』
ボクのように苦しまずに、終われますように。
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