第42話 最高の友達

「カースブラザー……」


 とりあえずキョトン顔するか。

 うーむ。スノウさん、なんでうちの事を知ってるんだろ? 



「そう、カースブラザーフッド……教会でもその名前は挙がっていたはずです。この世界の闇で活動する正体不明、目的不明の……超越者の集団」


「おっふ」


「え?」


「あ、すみません、どうぞ、続けて」


 正体不明、目的不明、超越者……?


 おいおいおいおい、スノウさん、理解《わか》ってる……。

 この人、かなりわかっている。


 そう、そうなんだよ、それだよ! 俺の求めていた反応は!


「グレロッドを斃したのも彼女達の仕業です。……私達転生勇者は彼女達に助けられましたから。粕谷クンが教会に疑われたのは……恐らくグレロッドの畑の農奴の中でも、少し、特別扱いをされていたからでしょう」


「言うなれば、貴方もまたカースブラザーフッドの活動に巻き込まれたのみ」



《スキル"呪力眼"を使用します》


 呪力を眼に回し、スキルを使用する。

 三猿紋が出ないように呪力は薄めだ。

 スノウさんの魔力が、またはっきり見える。


 揺らいでいる。


 彼女が言葉を手繰るたびに、虹色の魔力は壊れたガスコンロから噴き出す炎のように歪に。


「私は……彼女達に聞きたい事があるのです。この世界の事、彼女達の事……そのほかにもたくさん、聞きたい事が」


 スノウさんの声がどんどん低くなる。

 この人、こんな声も出せたのか。

 自分で言うのもなんだが、俺は賢い。

 なので分かる。


 彼女は何か嘘をついている。


《プレイヤー、彼女……スノウは貴方と同じ……》


「ああ……分かってる、ナビ」


 なんかまたナビが意味深な事を言い始めたのでとりあえず合わせておくか。


《なんと、既にお見通しでしたか……わかりました……ご安心を。貴方のナビの方が彼女のナビよりも優秀なところをお見せしましょう。対妖精防諜結界多重展開……》


 またナビがなんか自分の世界に入ってる……

 まあ、好きにさせておくか……そういう年頃なんだろ。



「粕谷クン……どうか、この手を取ってください。私は……私は強くなりたいんです……」


「……強く?」


「はい……彼女達に追いつける程強く……この世界では弱さに価値はありません。守る為に、維持する為に、取り戻す為に、強さが必要です」


「なるほど」



 あれ……悪くない、悪くないぞスノウさん。

 何かの目的の為に強さを求める。いや、嫌いじゃないな、その貪欲さ。


 それに……


「私はもう私のものを手放さない……粕谷クン、私は貴方とまた、お話がしたいんです……あの、修学旅行の夜みたいに……」



《スノウのスキル"貴種の言葉"が自動発動してます。相手に対し"従属"の状態異常を与える》


《……無意識にスキルを……神の使徒……哀れですね》


 おっと。スキルまで使えるのか。

 確かに彼女の言葉は妙によく響く。


 呪力を耳に薄く纏わせる、よし、これで問題ないな。


 素晴らしい! 無意識にかます貴族傲慢プレイ!!


 選ばれた側の人間という奴か。


 ふむ、ふむむむむ。


 似てるな、少し。ホワイト達と。


 それにしてもナビの奴、中々やる。

 既になんか神の使徒とかいう脳内設定を作っていたとは。


 ふ、同じ黒幕志願として負けられねえ。



「粕谷焚人クン。答えを。貴方は私の仲間になってくださいますか?」


「……」


 いい目だ。

 決意と、使命と、そしてきっと本人も気づいていない怒りが混じる目。


 ーーカースブラザーフッド。

 ーー彼女

 ーーなんか半ギレのスノウさん。


 俺の高い知性、ここから導かれる答えは1つ。



 きっとスノウさんはホワイト達となんかあったんだ!


 グレロッドが転生勇者を攫った時か?

 あのタイミングで多分、まあ、アレだ。


 ホワイトとかスカーレットがなんか失礼な事言ったんだろう。


 いいね、悪くない。


 ストーリーが出来始めたぞ。


《プレイヤー、選択は貴方にお任せします。彼女の運命は貴方が決めるべきです。貴方の選択を尊重します……哀れな神の手駒の》


 ナビ、こいつ、既にそこまで設定固めたのか!


 負けられねえ、見てろ、俺の完璧なストーリーを!


 チャプター1・持つべき者の責務を果たそうと異世界で努力する主人公


 チャプター2・異世界で経験する初めての挫折、だが諦めない心の強え主人公


 チャプター3・主人公は仲間を集め、強くなろうと決意する。そこで出会ったのは戦闘力皆無の、パーティーのお荷物&いじられ役


 チャプター4・異世界での冒険や生活を通じて絆を深める主人公、そして始まる世界の危機!!


 チャプター5・主人公は愛と努力でその危機を解決する。しかし、事件を通じて主人公は気づいてしまう、事件の黒幕。そして自分が追っていた過去の挫折、その元凶を。


 それは最も信頼し、心を許した無害な存在。


 ラストチャプター!


『貴方だったんですね、全ての元凶は……粕谷焚人……いえ、呪いの王! カース!!』


 鍛えた魔法、磨いた能力。

 その全てをぶつけて挑む、最後の敵!


 主人公は涙を流しながらも、為すべきを為す!


 そして黒幕悪役たる俺は討たれる、モブではなく。


 誰かの記憶に残る存在として。



「ケヒッ」


「え?」


 スノウさんがびくっと反応する。


 いかんいかん、あまりにも最高の状況に笑ってしまった。


「あ、失礼……しました。よ、よろしいのですか、スノウ様……こんな家無しのカスのような者に手を差し伸べて……!」



 よし、そうと決まれば善は急げだ。


 キャラ立ては決まった。

 無害でいじらしい、主人公の影に隠れて、それでも主人公に憧れる感じのキャラで行こう。


「お、俺は……G級ギフトの落ちこぼれで……スノウ様みたいな方の仲間なんて……」


 チラリ。

 こんな感じでイけるか?


「才能は関係ありません。これは私のわがままです。でも、もし貴方がこの手を取ってくれるなら、誰にも文句は言わせない」


 イケそうだ!


 ふふ、キャラ立ての方向が決まったぞ。


「スノウ様……俺、こんな、落ちこぼれの俺にそんな事言ってくれるなんて……」


「様はよしてください。修学旅行の夜でも言いましたけど、スノウ、で構いません」


「呼び捨ては……難しいです。スノウ、さん。でも、俺でも、何か皆の役に立てるなら……こんな家無しのカスでも、誰かが必要としてくれるなら……」


「必要じゃなくても、私はまたもう一度貴方とお話し出来て良かったです。粕谷クン、手を」


「はい……」


 スノウさんの差し出した手を俺は握る。

 よし、ここは控えめかつ、自信がなさげに。


 俺の設定したキャラはこれ。

 自信のない無害系大人しめ支援職キャラで行こう。


 まあ、土地保存スキルと術式作成ギフト、呪力で誤魔化せばそれっぽいことも出来るだろう。


「また、お友達になれましたね」


「お、恐れ入ります、スノウ様」


「アハッ、もう、また様つけてる。敬語もやめてっていうのは求めすぎ、ですか?」


「と、とんでもないだす。す、スノウさん」


「ん。今はそれでいいです。宜しくね、粕谷クン」


 ぱああああ。

 晴れるような笑顔だ。


 金髪碧眼正統派美少女が微笑むとそれだけでこの威力。


 さて、何はともあれしばらくはスノウさんとのコミュだな。


 最高の舞台には最高のシチュが、そして最高のシチュには最高の裏切りが、最高の裏切りには最良の信頼が必要だ。


 しばらくはスノウさんと仲良くなることに集中しよう。


 なってやるぜ。スノウさんの最高の友達に。


 俺が、スノウさんの手をまた強く握ろうとした時だった。



「少年、こんな所にいたのですね」


「やあ、我が弟子、奇遇だねえ」


「フヒ……お、兄さん……こんにち、は」


 声、三つ。


 白銀の鎧に身を包んだ白髪の美少女。

 落ち着いた紫のローブの紅い髪のエルフの美少女。

 普通の町娘服、片目隠れの黒髪美少女。


 ホワイト、スカーレット、クロの3人組だ。


 表向き有名人モードっぽいな。


 そんな彼女達が、独自の世界観、設定の呼び方で俺を読んで。


「「「新しい友達? 紹介してよ」」」



 笑っている……?


 ふむ……このタイミングでコイツらがなぜここに?


 まあ、笑ってるし楽しく話せそうだな!


 ヨシ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る