第41話 プルプル、私達、友達だよね


「カスタニ……くん? 今のは、一体……」


「……」


 やっっっべ。


 あれ、見られたんだよな。見られたんだよね。


「カスタニくん……なんで、何も言ってくれないんですか」


 あ、なんかスノウさんがプルプルしてる。

 やべえ、怒ってんのかな。どうしよ。



「……あなたは知らないかもしれないけど、私はあなたがとても優しい人だって知っています」



 ――バレた。殺すしかない。


 殺すとか口封じとかそういう物騒な事はしたくないな。


 友達とかじゃないけど、あの修学旅行の夜、俺に話しかけてくれたし。


 そう、考えたら俺、ほんと友達とかいねえんだよな。


 ホワイト達はなんとなく慕ってくれてそうな気配はあるが、あれはあくまでアイツらの趣味と俺の趣味が合ってるだけだろうし。


 俺が


「カスタニ君!!」


「うお」



 びっくりした。

 見ればスノウさんがズイズイとこっちに近付いてくる。


 どうする? もう逃げるか?


 俺は呪力を足に集中してーー。



「きっと、きっと信じれないかもしれないけど……! カスタニ、くん。君はね、私の友達だったんです! 前世で私達は、友達で!!」


「え、あれ友達で良かったの?」


「え?」


「え? あ……」


 やべ。


「え……待って、カスタニ君……今、なんて……」



 まずい。てか、これおかしくね?


 スノウさん、まさか前世の事を覚えてんのか?


 だとしたら今の俺のセリフは……あわわわ。

 誤魔化さねえと!


 俺は家無し、最下層!!

 うおおおおお!! 


「……ははー!! 辺境伯令嬢、スノウ様!! 大変失礼なお言葉を!! この家無し、この舌が、この口めが悪いのです!! 貴族の方への暴言謹んで、お受け致します!」


 身体を畳んで地面に頭をこすりつけろ!

 土下座!

 下民ムーブ!!

 どうだ!!


「カスタニ君、あなた、覚えてますね?」


 あかん、だめっぽい。

 なぜだ? 俺の高い知性による演技が通用してない?

 まさか、スノウさん、賢いのか?


 いや、土下座を信じろ……。

 む、地面の匂いが妙だ……畑を保存したせいか?


 土のにおいがしない……? いや、今はスノウさんと土下座に集中しろ。



「何をおっしゃいますか、貴族様。見ての通り私はしがない農奴めに……ああ、協会では俺……おいらのような農奴をかばってくれたお優しい貴族様……貴女様の為にこうして土下座を……」


「この世界に土下座の概念はありません」


「マジ? この世界土下座ないの!?」


「嘘です。でも、ふふ、嘘つきさんは、見つかったようですね」


「……!?!?」


 スノウさんが、長い人差し指を口元に充てにやっと笑う。

 か、かっこいい……!

 不敵かつ、スタイリッシュ! やりとりもなんか知的だ!


「土下座はこの世界においても最上の謝意の表明として認知されています。カスタニ君、今の反応、もう言い逃れ出来ませんよ?」


「……」


 慌てるな。俺が目指す黒幕悪役は狼狽えない。

 土だ、土を触って落ち着く――しまった、今、畑はスキルで保存している!

 

 土いじりが出来ない!



「カスタニ君、顔を上げてください。きっと私達の間には誤解があります。私は、貴方を教会に突き出したりするつもりはありません」


「うん?」


「ごめんなさい、まさかキミも記憶を残して転生しているなんて思いもよりませんでした……家無し、G級ギフト……貴方をここまでほったらかしにしてしまっていた事を深く、本当に深くお詫びいたします」


「え……」


 いや、言うほどほったらかしにはされてないような。


 なんやかんや、スノウさん、村でたまに食料恵んでくれてたし。


 おかげで他の転生勇者から絡まれたが、まあ、呪力操作の訓練になったのでよし!



「貴方が、自分の正体を、記憶を持っている事を隠すのも当然です。同じクラスメイトで友達でもある貴方を、家無しのままにしていたのは全て私の弱さ故……許してほしいなんて言えません」


 その場にスノウさんが跪き、俺に対し頭を下げる。

 綺麗な服が汚れるのもいとわずに。


 なんか綺麗だな。

 ふむ……良いな。恵まれた産まれ、才能、そしてそれを鼻にかけない高潔さ。


 あれ……もしやスノウさん、主人公適正高めなのでは?


「それでもカスタニ君。いえ、粕谷クン、私の話を聞いてくれませんか?」


「話……?」


「はい。この世界は何かがおかしい……神、教会、転生勇者、そして、ライフ・フィールドと類似した数々の事象……」


「……?」



「教会の一件。今、貴方は何か大きな事に巻き込まれようとしています。私はもう、誰も取りこぼさない。どのような世界でも私は貴族として為すべき事を為したいのです」


「……??」


 なんの話だろう?

 なんか、グレロッドとかも似たような事を言っていたようななかったような。


「粕谷クン、私は、仲間を集めています」


「仲間?」


「はい。私には目的があるのです。記憶を失いこの世界に転生したみなの記憶を取り戻す事。そして、皆と共に元の世界へ帰還する事です」


「……」


「家無しの貴方をここまで独りにしてしまっていた……虫のいい話だと重々承知しています。貴方の力を見て勧誘してる思われても仕方ありません。でも、私はもう怯えない。もう、貴方を独りにはしない」



「……」


 こっそり呪力を眼に回す。

 スノウさんの身体には虹色の輝きがうっすら循環している。


 魔法使いが嘘をつくとき特有の魔力の動きは見られない。

 じゃあ、この言葉は本音か。



「お願いです、粕谷クン、私ともう一度、友達に……いえ、仲間になってくださいませんか? この世界を共に生き抜く為に」



 スノウさんが手を差し伸べる。

 うーん、ここでクラスメイト達と合流かー。


 それ、なんかカースとしての活動や正体バレしそうで怖いな。


 どうやって断るべきか。

 ここは1つ、理解のない小市民ムーブで行くか。



 今まで放っておいたのに今更偽善者ぶるな! みたいな。

 いや、でもさすがにそれは感じ悪いかな……。うーむ。


 ええい、ままよ!

 俺がやりたいのは黒幕悪役プレイ!

 キラキラ転生青春モノは他の連中に任して――



「そして共に彼女達、この世界の黒幕――カースブラザーフッドを追う為に」



 ちょっと話変わってきたな。

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