【第二章】旅立ち編

【一色目】明るい街①

「それで?次の街までどれくらいあるの?」

 後部座席にいるブランに、助手席にで地図を眺めるヴェルデに話しかける。

「えっと、今いるのがこの辺だから、あともう少しで着くと思うんだけど…」

 ヴェルデが指差す場所からだと、もうそろそろ街が見えて来る筈なのだが…。

「おいおい、もしかして、道間違えたか?」

「そんなことないよ!だって、ヴェルデの案内通りに走ってたし!」

 怪訝そうにアスル言われて、ルージュはムッと唇を尖らせる。



「つーかルージュ、お前免許取ってどれくらい?」

 ルージュはドキッとして、しどろもどろに答える。

「…さ、三ヶ月…」

「さ、三ヶ月ぅ?!じゃ、じゃあ、運転した回数は?!」

 これには流石のブランも驚いて、思わず身を乗り出す。

「こ、今回が初めて…」

 二人は目眩がした。

 出発当時は、あんなに自信満々に乗り込んでたもんだから、てっきり何回も運転しているものだと思っていた。



 ちなみに、このカラフル王国では、十七歳以上から車を運転することが許されている。

「ダメだ…終わった…。黒の力じゃなくて、ルージュに殺される…」

 絶望的なことを言い出すアスルに、ルージュは更に声を張り上げる。

「しっ、失礼ね!大丈夫だって言ってるでしょ!ねぇ、ヴェルデ!まだつかないの?!」

 ルージュに焚き付けられて、ヴェルデは困ってように地図を見直そうとした時だった。

 突如、視界に二つの影が現れて、ルージュは咄嗟にブレーキをかける。

「見つけたぞ!心を持つ者よ!クロウ様の命令通り、黒の力で奪ってやる‼︎」



 二つの影が、黒の力を発動させかけた。

「青の力よ!我が呼びかけに応えよ‼︎」

 瞬時にアスルが青の力を発動させると、黒の光が一瞬にして半減した。

「赤の力よ!」

「緑の力よ‼︎」

 相手も負けじと力を振り絞るが、ルージュとヴェルデが同時に力を発動させると、黒い光は消え去った。



 力を使った反動からか、相手は両膝をついて、肩で荒々しく呼吸をしてる。

「なんだ、クロウの仲間みたいだけど、全然弱ぇじゃん」

 アスルが余裕綽々な態度で、口笛まで吹いている。

「あなた達、クロウ様の命令って言ってたげど、クロウの仲間?」

 敵の一人が、奥歯を噛み締めてルージュを鋭く睨みつける。

「馬鹿か!誰が言うかよ!」

 


 許容範囲内の回答で、特に呆れることも起こることもせず、ルージュは質問を変える。

「だったら、黒の教団って知ってる?あなた達の上司みたいだけど」

「何聞いても無駄だ!絶対答えてやるか!俺たちはただ、クロウ様の為に動いてるだけだからな!」

(クロウ…今は、ブランの力で更生されて、全く別人になってることは知らないのかな?)

「おい、行こうぜ、ルージュ。こいつら、本当に何も知らないみたいだし。俺、腹へった」

 言うが早いか、車に乗り込むアスルに、ルージュは苦笑いを浮かべる。

「もう、ちょっとくらいは考えてよ…」



 ルージュが振り返ったのを見逃さなかった男の一人が、怪しく口角を上げると、再び黒の力を発動させた。

「ルージュ!危ない‼︎」

 ブランの叫び声に気づいて振り返ったが遅く、既に黒の力が発動していた。

 しかし、いつの間にか発動したのか、目の前には白い光が広がっている。

 自分達の白とは比べ物にならない、混ざり毛のない白い光。

 その光の発動源がブランだと気づくまで少し時間を要してしまった。



 光が消えると、男はボロボロと涙を流しながら首を垂れている。

 ついでに、もう一人の男も同様に、ボロボロと涙を流しながら首を垂れている。

「ああ!俺は今まで一体なんていうことをしていたのだ!」

「クロウ様の命令とは言え、人の心を奪ってしまおうだなんて!なんて謝ったらいいのか‼︎」

 改めて見ると、ブランの力には本当に圧倒されてしまう。

 この力がなぜ今まで過小評価されていたのか、ルージュは不思議でならない。

 自分も似たような力ではあるものの、ここまで文字通り人が変わる程更生させることはできないと言うのに。



「行こうか」

 ブランに先を急かされて、慌ててついて行こうとしたが、男の一人がルージュの足に縋り付いてきた。

「きゃ…っ!」

「ま、待ってくれ!せめて一言でもいいから怒ってくれ!じゃないと、このままでは俺、自責の念に押しつぶされちまう!」

「そ、そんなこと言ったって!」

「頼む!なんでもいいんだ!そうだ、怒らなくてもいいから、手伝いでもなんでもいいから、償わせてくれよぉ‼︎」



 いよいよ困り果ててしまったルージュは、アスル達に助けを求めてみるが、アスルも適当に返事をするだけで役に立たない。

「もう!真剣に考えてよ‼︎」

「…なんでもいいの?」

「え?」

 意外だった…まさか、アスルでもなくヴェルデでもなく、ブランが声を上げるとは。

 一体、どんな酷い提案をするのだろうと、生唾を飲み込んだ。

「スヴェートって言う街知ってる?僕達、そこに行きたいんだけど、案内してくれないかな?」







 目的地に着いたのは、それから五分程走ったところにあった。

 四人乗りで後部座席に大の男二人の乗せた車は、街の広場で止まった。

 男の案内会いによると、どうやらルージュの運転が間違っていたわけではないようで、「ね?私の運転が間違っていた訳じゃないでしょ?」と自信満々に胸を張っている。

 ツヴェート街は名前の通り明るい街と言う意味の街で、その名の通り賑やかな明るい街なのかと思っていたのだが、思っていた程の賑やかさがある訳でもなく、かと言って、静寂に包まれている訳ではなく、可もなく不可もなく、と言った印象を受けた。



「昔はさ、もっと賑やかだったんだよ。でも、年々人がいなくなっちまってさ」

 車を降りた男が、どこか寂しそうな目で架空を見つめる。

「いなくなったって?」

「出て行っちまったのさ。もっとここよりもいい街がある筈だって言ってさ。ここだっていい街なのにな」

 ブランは改めてぐるりと街を見渡す。

 確かに、思っていた印象とは違うものの、子供達が外で遊んでいても誰も怒らないし、漂ってくる美味しそうな飲食店の匂い、国花なのだろうか、道端の至る所に咲き誇る、メコノプシス=ホリドゥラに、元気な顔で雑貨を売る家族達の様子を見ると、特別不幸と言った様子は見受けられない。



 なんで出ていったんだろう、と聞こうとした時、アスルの大きな腹の音が辺りに響き渡った。

「どうでもいいけどよ、とりあえずどっか飯屋行こうぜ!腹減ったよ!」

 アスルに釣られて、皆も空腹が押し寄せてきたようで、苦笑いを浮かべた。

「そうだね」

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