【十色目・完】旅立ち
クロウは自分が今まで何故、心を無くせばいいと思ったのか、何故、自分が人々の心を失くす道を選んでしまったのか、詳しい経緯を話した。
「じゃあ、あなたは、その黒の教団って言う組織に誘われて、人々の心を奪いに来たの?」
ブランの問いかけに、クロウは素直の「そうだ」と頷いた。
「じゃあ、他にも黒の力を使い、心を奪おうとする者がいると言うことだな?」
クロウは暫し黙り込むと、ゆるりと首を横に振った。
「分からない。ただ、私は少なくとも黒の教団の一人でしかないし、それ以上のことは何も聞かされていないのだ」
「本当か?嘘じゃないだろうな?」
「本当だ!信じてくれ!」
ペルルに詰問されて、クロウは必死に否定すると、ブランのコンパクトが反応して白く光っている。
「先生、この人、嘘は言ってないよ。白の力は嘘をつけないから」
「そうか…」
納得したペルルは、彼女の処分をどうするかと言うことに頭を切り替えた。
「お前の処分をどうするかは私が決めることではない。ただ、少なくともただではすまないことは、覚悟しておいた方がいい」
「わ、分かっている…」
先程までの勢いを完全に失い、潮らしくなって目に涙を浮かべている様子に、ブランは少し心が痛むような気がした。
とりあえず、一連の事件が一段落つい途端、一気に気が抜けてしまったブランは、あることを思い出して、あっ!と大きな声を上げた。
「あ、あの、先生!」
「どうした?」
「あの、し、試験の結果は…。僕だけ不合格ですよね?時間もオーバーしてるし…」
しどろもどろに尋ねるブランに、ペルルはフッと笑みを浮かべた。
「何を言ってる、ペルル・ホワイト。合格に決まっているだろう」
「えっ?!な、なんで?!だって、僕、試験の教室にいなかったし、課題をクリアした訳でもないし!」
ペルルは、ブランにゆっくり近づくと、頭を軽く撫でた。
「今回の課題内容はなんだ?」
「え?えっと、同じ力を持つ物質を、違う力に変化させること…」
そこまでいってもまだ理解していないブランに、ペルルは質問を続ける。
「お前は何色を何色に変えたか言ってみろ」
「黒を白に変えただけだから、試験内容とは全く関係ないんじゃ…」
「確かに黒と白は一見、全く違う意味を持つ物質だ。しかし、黒にも白にも、ある一つの共通する力があることを知っているか?」
「あるふとつの共通する力…」
そこまで言われてようやく、腑に落ちた。
「そ、それって…!」
「そう、黒にも白にも共通する力、それは、どちらも孤独と言う意味がある。お前はその力を掻き消し、平和、勝利と言う力に変えたのだ。従って、試験は合格だ」
ブランの表情が、一気に花が咲いたような華やかな笑顔へと変わった。
「ん…」
ようやくアスル達が意識を取り戻したことに気づくと、ブランは勢いよくアスル達の元に駆け寄り、力いっぱい抱き締めた。
「うわっ!どうした、ブラン!何があった!つーか、皆は?!」
「やった、やったよ、アスル!試験合格したよ‼︎」
力一杯喜びを伝えて来るブランに、アスルはその勢いに飲み込まれてしまう。
「お、おう!そうか!それは、よかったな!つーか、何がどうなって、合格したんだよ!説明しろよ!」
それから、アスルに続くようにグルナやルージュ、ヴェルデ、村人達が次々と目覚め始めた。
村人達は、自分がクロウの力に操られていた時の記憶は全くないらしく、何を聞いてもただただ首を傾げるだけだった。
その翌日、ブランは改めて試験が合格したことを正式に先生達に伝えられた。
「おめでとう、ブラン・ホワイト。今日からあなたは、正式にペイントであることを認める。これから、しっかりペイントとしての誇りを持ち、任務に当たって下さいね」
「はい‼︎」
元気一杯返事をしたブランだったが、ふと一つの疑問が頭をよぎった。
「え?任務って…?」
ようやく気づいたことに、グルナ達が不適な笑みを浮かべた後、不意に真剣な眼差しに変わり、ブランはそれがただごとではないと瞬時に悟り、緊張が走った。
「クロウのことは覚えていますね?」
グルナに聞かれた、ブランは、重々しく「はい」とだけ答える。
「彼女の話によると、どうやら黒の教団と言うのは彼女一人ではなく、他にもいると言う話なのも知っていますね?」
ブランは、今度はゆっくりと「はい」と答える。
「そこで、アスル、ルージュ、ヴェルデを連れて四人でその黒の組織について調査して貰いたいのです」
ブランは思わず背筋に冷や汗が伝った。
そんな壮大な任務、自分にできる訳がないじゃないか!と言いたいところだったが、言葉を発する前に、グルナに一刀両断されてしまった。
「あああ、アスル達ならともかく!僕なんて、昨日ペイントとして認められたばっかりだよ?!そんなの…っ!」
懸命に拒否しようとした時、ペルルが優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。お前ならできるさ。だって、あんな強大なクロウの力を掻き消す程の力を持っているんだ。それに…」
ペルルは、不意にドアの前に近寄り扉を開けると、聞き耳を立てていたのか、アスル達がいた。
「四人もいれば大丈夫さ」
太陽が照りつける砂漠の地を、一台の鉄の塊がうるさいエンジン音を吹かせながら走っている。
「それにしても、まっさか、その任務が黒の教団を探す旅に出ろ、とは思わなかったわ」
後部座席で、アスルが過去を思い出しながらため息をつく。
「本当だよね。僕、街の外に出るの初めて!」
同じく後部座席で、ブランがどこか楽しげに笑う。
「ボクは一度父さんと言ったことあるよ。なんかね、綺麗な青い水がいっぱい広がってたの、すごくきれいだった」
地図を広げながら、懐かしい思い出に心を馳せるヴェルデに、ハンドルを握るルージュが続く。
「私知ってる、それ、海って言うんでしょ、凄くしょっぱい水」
「俺も知ってるぜ。いろんな生き物がいるんだろ?食ったら美味いんだとか」
「何、何、なんだよ、その海って!僕だけ知らないの?!」
「あはは、そのうち皆で行こう?旅の途中で見られるかもよ?」
かくして、四人の黒の教団を暴く旅は始まったのである。
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