第9話

ところで僕の本業は現状飲食店だ。

現状、というのはとっかかりに考えていた飲食店という形態から、10年間一歩も先に進めてないから。

人口300人台の村。

山に溢れる資源。

気候が作る素晴らしさ。

通り過ぎる人々。

それらを繋ぐ一軒宿。

そこが終着駅。

まだ、始発駅。

10年間の停車時間。

家族を降ろして、ひとりきりの車両。

やっと、走り出した。

けれどもやっぱり、走り出さない。

数駅先で、土砂崩れ。

通過出来るようにするには金が居る。

金がないならお待ちなさいな。

アテなく、死ぬまで。

あ、死ぬ時は降りてよね。

死ぬには程良い川や崖。

そこらにいくらでもあるからさ。

財布に5000円。

灯油、酒の仕入れ。

明日給付金が入るけど、あちこちに返済の約束と新たな督促。

冬場の奇策、ジャンクモードとして用意した辛ラーメン。

地の白菜と平飼い卵で。

やっぱり、すごく美味しいや。

週末。

スノーボードインストラクター仲間のこいつのリクエスト。

月末。

アナグマとスパーリングワイン、予算は問わずのご予約。

それまで。

それまで、生きてられるだろうか?

意気揚々と蒔いた種。

疎らに育ち、後ろ暗く刈り取る。

目先の金を追い、赤字の確定申告の事務処理に追い詰められる。

一人。

お客様に高品質をお値打ちに届ける為の。

独り。

家族を道連れにしない為の。

ひとり。

気づいた。

ひとりじゃ、なんにも出来やしない。

だって、明日まで生きる金も、ないんだ。

悪い事はしてないつもり。

だから、存在自体が悪いんだろう。

呼吸すんなよ。

目を開けるな!

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