第11話
「何故、私がクロエに化けていると分かったのかしら? 参考までに教えて頂きたいのだけど」
マーセルは凝った体をほぐすように肩や首を回しながらコトノハに視線を向ける。彼女の声音には苛立ちがはっきりと孕んでおり、心中は推して知るべしだ。
「確信してたわけじゃないわ。ただ一番厄介で現実的な可能性に賭けただけ」
つまり、コトノハはこう言いたいのだろう。混沌や闘争を好むアメリアやアシュリンに変装していたら実質戦力を減らせる。誰も死んでおらずマーセルが潜んでいる場合はボク自身が予想して対策を講じる。だから、クロエに変装している場合が最も殺せる可能性の高い策だと。
端的な解答であったがマーセルも前提条件は承知の上なのか大きなため息をついた。
「まったく、あなたのせいで自殺覚悟の殺し合いをしなきゃならなくなったわ。まさかこれを使わなくちゃならなくなるなんてね」
マーセルは胸元から何かのスイッチを取り出した。
「これは校舎中に仕掛けられた爆弾を起爆するスイッチよ。よって、無駄死にしたくなかったら今からも協力してね」
彼女の視線はアシュリンとアメリアに注がれている。本当に今からの戦いは作戦外の決死行なのだろう。
「ちょっと待った!」
セリルは右手を上げ、大きな声を上げる。マーセルは怒りを滲ませた瞳をセリルへと向ける。どうやらボクはコトノハの言葉を軽く受け止めすぎていたようだ。
「どうしました、先生。この場を収めるために自殺でもしてくださるのでしょうか?」
「ちょっと……違うかな。でも、この場で改めてボクを殺そうとするよりも君に利があると思うよ」
二人の視線は交錯する。セリルの邪気のない真剣な瞳に不信感を抱きつつもマーセルは黙って顎を突き出す。
「単純にこの場の勝敗はコトノハとマーセル、君の一騎打ちで決着をつけよう。もしコトノハが敗れれば潔くボクは殺されるよ。もちろん、君が負ければ命はないけどね」
あまりにも破格の条件の提示にマーセルは嘲笑うように鼻を鳴らす。
「そんなの信じられるわけがないでしょ。あなたなら毒が効いている今ですらまともに戦った方が勝率は高いでしょうに」
「確かに単純な殺し合いならボクだってこんな提案はしないよ。でもこれは試験だ。そして、ボクは監督官。全員爆死して終わりなんてシナリオは受け入れられない」
純粋な言葉を投げかけてもマーセルの心には一切届いていないようだ。彼女が見せたことがないほど表情は歪んでいる。セリルはアメリアに近づくと右手を差し出した。
「アメリア。毒ってまだ残ってるでしょ? できれば体内に入れやすい形のものをちょうだい」
アメリアは小首を傾げつつも、腰のポーチから注射器状のものに入れられた毒物を取り出した。
「ありがとう」
セリルはそれを貰うと躊躇なく、自分の左腕に突き刺した。赤紫色の液体が徐々に体内へと注入されていく。その異常な行動にセリル以外の全員が目を見開いた。
毒の効果はすぐに現れ、セリルは苦しそうに呻きながら膝をついた。
「証拠といってはなんだけどこれでボクの戦闘能力は大きく落ちた。もし君がさっきの条件を受け入れてくれたらもう一本あの毒を注入して完全に動けなくなっても構わないよ」
「あなたがそれほど馬鹿だとは思いませんでした。そこまで弱ってくれれば私たちでも十分にあなたを殺せる」
「周りをよく見て見なよ」
マーセルは不満げな表情を浮かべながら他の少女たちの様子を伺う。すると、アシュリンは大きく口を開け、欠伸をしており、アメリアは壁にもたれかかって完全に観戦する態勢を整えていた。
「ちょっとあなたたち! まだ私との契約は終わってないわよ! あいつを仕留めるまで協力する条件だったでしょ!」
マーセルはセリルを指さし、声を荒げている。こんな彼女の姿は初めてだ。日が立つごとに自分の無知を思い知るな。
「えー! じゃあ、契約は破棄しまーす」
「私も」
「勝手なことを……」
「勝手はお互い様でしょ? 爆弾で脅してきたこと忘れてない?」
アメリアはいつもとは違い真顔で言い放った。どうやら先ほどの行為はアメリアの中の地雷を踏みぬいたようだ。得も言われぬ彼女の迫力に流石のマーセルも言葉を詰まらせる。
「私はアメリアに協力してた。だから、やめる」
アシュリンもその場に腰を下ろし、胡坐をかく。マーセルは乱暴に頭を掻き、奥歯を噛み締める。しかし、苛立ちを持ち越すことなく、溜飲を徐々に下げていく。やはり、彼女も一流の暗殺者。感情のコントロールはお手のものといったところか。
「仕方ないわね」
そう呟くとマーセルは指をポキポキと鳴らし、コトノハの方へと向き直る。
「本当にコトノハを殺せばあなたも殺させてくれるのでしょうね」
「そのための毒だろう? 確認するまでもないさ」
セリルはゆっくりと立ち上がりアメリアからもう一本の注射器を受け取る。
「安心しました。よく考えてみればコトノハ一人を相手にするだけならば私に分がある。辞世の句でも考えておいてください」
「好き放題言ってるけどマーセル。あなた肩を怪我してるの忘れていない? それで絶対勝てると思われるのは心外だわ」
マーセルは挑発的に口角を上げる。
「それならあなたも左肩を突き刺してくれてもいいのよ。武人気質のコトノハはフェアがお望みなのでしょう?」
あからさまな挑発である。誰が見てもこんな意味のない挑戦を受ける必要などない。しかし、コトノハは鞘から刀を抜き、一気に左肩を突き刺した。彼女の顔が痛みで曇り、刀は赤く染まる。戦いの主導権を握るための舌戦はコトノハの狂気に塗りつぶされた。
刀を勢いよく引き抜き、滴る血液ごと刀を鞘に仕舞う。
「先生、いつでもどうぞ」
声音には一切の抑揚はなく、淡々と答えを待つ姿勢にマーセルも若干気圧されている。セリルはその姿に笑みを浮かべると注射器を再び、腕に突き立てた。液体を全て入れ終えると、容器を放り「始め!」と声を出した。
マーセルは無造作に距離を詰める。居合が最大の武器であるコトノハへの侮辱。おそらく彼女は先のやり取りでしてやられたことを根に持っている——という罠を張っている。彼女は大義を見失わない。今までの言動や行動から考えてもそれは明白だ。先に手を出させれば勝てる確信があるのだろう。
「舐めてるの?」
居合一閃。目にも止まらぬ一撃がマーセルの腕をかすめ、服を切り裂く。血で濡れた刀は通常よりも摩擦が軽減され、セリルであっても目で追うのは困難になっていた。
しかし、注目するのはそこではない。斬られた部分の隙間から見えるはずの肌はなく、代わりに銀色に輝く何かが顔を覗かせている。マーセルは舌打ちを漏らし、距離を取った。
「あなたの得意技はワイヤー術。復讐に囚われすぎて私たちの関係性も忘れたの?」
「ええ、忘れていたわ。だって、昔のあなたはただの雑魚だったんだもの!」
マーセルは両腕に巻き付けているワイヤーを鞭のようにしならせ、攻撃行う。コトノハの居合には劣るが高速の連撃は下駄箱さえも両断しながらコトノハへと迫る。コトノハは居合で一撃目を切り落とし、二撃目は器用に刀を切り返し、両断する。
「その程度?」
マーセルは鉄線の長さを調節し、コトノハの防御など意にも介していないかのように攻め続ける。徐々に戦線は押し込まれていき、コトノハは壁際まで追い込まれる。
「終わりね」
さらに二本ほどワイヤーが増え、上下左右の四方から致死の斬撃がコトノハを襲撃する。絶体絶命の状況でコトノハは笑う。正眼の構えを取るとマーセルに向けて急加速する。迫ってくるワイヤーを切り続けても埒が明かないなら根元を切り落とせばいい。単純明快な思考だ。しかし、そんな考えだからこそ予測される。痛みを受け、コトノハは足元を見ると踏み込んだ先にはいつの間にか別のワイヤーがあった。よくよく観察して見ると周囲には大量の鉄線が鳥かごのように編まれている。短い攻防の中であそこまで周到な罠を張るのは見事と言う他ない。
マーセルは嘲笑するような視線をコトノハに向けると伸ばしたワイヤーを引き寄せる。これで四方八方どこにも逃げ場のない袋小路の完成だ。
「最後の言葉くらい言った方がいいんじゃない?」
コトノハは目を閉じ、呼吸を整える。すぐそこに迫る刃の風切り音を耳で捉えると刀を振るう。
——斬撃は分裂する。
ありえない事象ではあるが、そうとしか言えない絶技がそこにはあった。八岐大蛇のごとく八つの剣線が数多の鉄線を食い破り、雨のようにそれを降らす。人間離れした圧倒的な個人技にマーセルでさえ一瞬動きを止める。あの技は……。見覚えのある技術に脳裏に過去の出来事がちらつく。初めての暗殺協会の依頼で恩人を殺したあの時、助けた少女は——。
「どう? マーセル。もう弱い私はいない。全力で来なさい」
「……そうね。今のあなた相手ではやり方を選んではいられないみたい」
マーセルは後ろへと跳ぶと隠してあった二本の小太刀を抜く。年季の入った武器を見て確信した。やはり、彼女は『頂きの孤児院』にいたのだろう。そして、あの人を慕っていた。院長が使っていた武器がその証拠だ。
「一応、決着をつける前に聞いておくわね。何故その男の味方をするの? あなたにとっても先生は仇敵だと思うけど」
「知りたければ私に勝つことね。最後の言葉としてあなたの疑問を解消してあげる」
お互いの殺意が高まっていく。一般人が浴びれば失神確実の濃密な死の気配。我が生徒ながら恐ろしい。
先手はマーセルだった。地を蹴ると同時に手首をしならせワイヤーを射出する。コトノハは素早くそれを切り落とすが一本の小太刀が既にコトノハの身に接近してきている。コトノハは華麗なステップで躱すが視覚からワイヤーが伸びてくる。辛うじて鉄線の脅威に気づき、払いのけるが再び小太刀の一撃が迫る。このコンビネーションこそがマーセルの真骨頂のようだ。この一年間隠し続けた彼女の奥の手。一回きりの搦め手であれば凌げば終わりだが単純な鍛錬された技を攻略するのは至難の業だ。予想通りコトノハは防戦一方となっている。
「少しは楽しませてよ。折角本気になったんだから!」
マーセルは攻撃のテンポを上げる。通常ならここで絶望するだろう。ゲームオーバーのデッドラインが目の前に迫ってきているのだから。しかし、彼女は困難を愛している。追い込まれようと自らの力を信じて疑わない。彼女たちのことを知らないボクだけどそれぐらいは知っている。
予想通り笑みを浮かべたコトノハは背後のワイヤーを見ることなく、最小限の動きだけで躱した。そして、小太刀を受け止める。
「まぐれ?」
「だと思う?」
確かめるようにマーセルは速度を上げ、攻撃を行う。しかし、同様に死角からの鉄線は難なく躱される。
「なるほどね。でも、安心しちゃダメよ」
その言葉通りコトノハの太ももは服ごと切り裂かれている。行動を制限する罠も健在のようだ。罠と死角を突く攻撃に小太刀の斬撃。圧倒的な手数でコトノハを追い詰めていく。
コトノハは周囲のワイヤーを掃除すると陣取るように強く地面を踏みしめた。
「大丈夫。私はもうここから動かないから」
彼女は左手を鞘に添え、右手で柄を握る。完全に居合の構えだ。
「私がそんな見え見えの挑発に乗ると思ってるの? このままあなたの体力が尽きるまで攻撃してもいいのよ」
「でも、しないでしょ。私が知ってるマーセルは自分が上だと示したくて堪らない女の子。我儘で勝手なね。違う?」
恐ろしく純粋な問いだった。傍から見てもコトノハの言葉には策謀の一切を感じない。あるのは正々堂々と決着をつけようという気概だけ。暗殺者である彼女たちにとっては結果がすべてのはずだ。しかし、それだけでは収まらない何かがあの二人にはあるということか。そうでなければ今まさに突っ込もうとしているマーセルに説明がつかない。
「一度だけよ」
マーセルは真っ直ぐに鉄線を伸ばす。死角からの攻撃が無意味だと判明した今コトノハの動きを制限しようしている。コトノハは態勢を崩すことなくそれを躱すがマーセルは手首を捻り、突きを薙ぎへと変える。咄嗟の出来事に思わずコトノハは刀を抜いた。反撃の一手を潰したマーセルはにやりと笑う。
しかし、コトノハは焦ることなく刀を投擲する。想定外の選択にマーセルは反応が遅れる。それでも流石は稀代の天才。小太刀を盾にし、刀を弾き飛ばす。
——勝利
その二文字が否が応でも頭に浮かぶ。しかし、この一瞬をコトノハは狙っていた。マーセルは目を見開く。何故か投擲したはずの刀を構えたコトノハがそこに居たのだから。
これこそがコトノハの奥の手。数日前にセリルに依頼して作らせたもう一本の刀だった。天井を崩落させて登場したのも瓦礫に刀を隠すための演出。すべてがこのラストへ向かうためのシナリオだったのだ。
苦し紛れに残った小太刀を振るうがその刃が届く前にマーセルの体は切り裂かれた。胸から肩口までばっさりと切られた彼女は糸の切れた人形のように勢いよく倒れ込んだ。一秒経つごとに血は体外へと流れだし、マーセルの体は冷たくなっていく。
これが最後なら——
圧倒的な復讐心が湧き上がり、胸元から爆撃のスイッチを取り出した。しかし、無情にも一発の弾丸がそれを弾き飛ばし、破壊した。
「ダメだよ、セルセル。ルールはちゃんと守らなきゃ」
傍観していたアメリアはぺろっと舌を出し、笑顔で言い放つ。完全に八歩塞がりとなったマーセルは息をゆっくりと吐きだした。そして、徐に立ち上がるとコトノハに首を差し出した。
「私を殺したことを誇るといいわ」
「後悔はないの?」
その言葉にマーセルは思い出したようにセリルの方を向き、妖しい笑みを浮かべる。
「いつかあなたも報いを受けるわ」
それだけ言うとマーセルは潔く首を刎ねられた。『報いを受ける』か……。そんなの承知してるに決まってるじゃないか。セリルはぽつりと心の中で呟いた。
試験は死者三名で終わりを迎えた。合格者はアシュリン、アメリア、コトノハの三名だ。アメリアが協力していた条件はクロエの首を貰うことだったらしい。
首の隠し場所はなんと木の上だった。校舎からも見える大木の中腹付近に括り付けていたのだとか。大胆な偽装を施すものだと感心したね。
そういえば、アシュリンがアメリアに組していたのは家族の遺体を収納するケースを作ってもらうためだったのだとか。彼女の歪な狂気はいまだに理解できない。だけど、それでこそ暗殺者だ。
セリルはマーセルとクロエの二人の死体を棺に納めると墓地へと埋葬した。ボクから掛けられる言葉はないけどせめて安らかに眠って欲しいものだ。セリルは墓前に手を合わせ、そう祈った。
「墓参りには早いのではないですか?」
「そうでもないさ。参りたいときに参るのが墓参りってものさ」
「そんなものですか」
コトノハは不思議そうな顔を浮かべつつも、セリルと共に手を合わせる。彼女の肩に視線を移すと包帯が何重にも巻かれていた。処置の的確さから言ってアメリアがやったんだろう。
「そういえば、なんでクロエを最初のターゲットに選んだんだろうね」
「さあ? それだけは私も分かりません」
結局、この一週間で話したクロエはマーセルだった。模倣しているとはいえ本物ではない。できれば彼女の本音も聞きたかったものだ。
「でも、予測はできます」
「というと?」
「おそらく、クロエは自分から首を差し出したんだと思います」
セリルにはなかった結論をコトノハは語る。その声は力強く、瞳にも一切の迷いがない。それほどまでの何かがあったのだろうか。
「変装していたクロエはマーセルが性格も完璧にトレースしていました。違和感なんて感じないくらい。そのクロエと話していて思ったんです。彼女は死を恐れていない。いや、死を望んでいるのではないかと」
言われて見ればそうかもしれない。他人の死へ関心を示しても自分の命に関心を示していないようだった。
「まあ、全て私の妄想です。忘れてください」
「話しておいてそれはないんじゃない?」
「じゃあ、話を変えましょう。最後の戦いのとき毒を注射してましたけど……先生、動けましたよね?」
思わぬ話題の方向転換にセリルは面を食らう。呆けたような顔を見たコトノハは溜息をついた。
「やっぱり。先生は私の勝利を信じてくれていたわけじゃないんですね」
コトノハはわざとらしく目頭を押さえる。涙なんか流れていないくせに悲しげ表情を浮かべている。
「さあ? どうだろうね」
セリルは誤魔化すように口笛を吹き、明後日の方向を見る。
「誤魔化すならもっと綺麗に誤魔化して欲しいものですね」
コトノハは口を尖らせ、不満げな顔をする。こいつも随分感性豊かになったものだね。あの戦いでどこか吹っ切れたのかもしれない。
「まあ、いいじゃないか。結局は君が勝ったんだから」
セリルは立ち上がろうとすると手に持っていたスコップを落としてしまう。「年かな」なんて冗談を言いつつ、落とし物を拾う。
「それよりも君の剣技について語って欲しいね」
コトノハは腰の刀を撫でながら気持ちのよい笑みを浮かべる。
「私が刀を使おうと思ったのはある恩人が刀を使っていたからなんです。その人の技術は美しくて昨日のように脳裏に染み付いてますよ。それを真似したい一心で今も刀を握っている……健気だと思いませんか?」
悪戯っ子のような視線を彼女は向けてきた。コトノハの中では確信していることを遠回しに伝えてきている。しかし、これには答えるわけにはいかない。あの日の思い出はボクにとっては忌まわしき記憶。刀と一緒に封印したいものなんだから。
「そうだね。でも、すでにその焼き付いたイメージには追いついたんじゃないかい?」
「まだまだですよ。もし私がイメージ通りに動けていたら百回はマーセルを殺せています」
物騒な想像を晴れやかな表情で語るコトノハ。それだけ彼女にとってあの日の出来事は重いってことか。まあ、昔の思い出は美化されるものだしね。
「それじゃあ、もっと精進しないとね」
セリルは墓を後にしようと踵を返した。
「先生!」
背後から切実な声音が聞こえてくる、先ほどまでの軽い雰囲気はどこへやら。彼女の緊張がこちらにも伝わってきそうだ。
「私はいつまでも待ってますよ」
『乗り越えろ』や『信じてる』ではなく、「待ってる」か。絶妙な言葉のチョイスだ。彼女がボクに何を期待しているのかそれだけ分かってしまった。セリルという超人ならばなんとかするだろう、そんな厚い信頼が短い言葉に確かに籠っていた。
こんなことを言われて記憶に蓋をしていたらまるでボクが根性無しのヘタレみたいじゃないか。
生徒にケツを叩かれるなんて情けないけどそれもボクか。記憶の奥底の恩人『ブランカ』の顔を思い浮かべる。彼から何を学び、何を奪ったのかを想起する。殺す直前の不敵な笑みは今でも忘れられない。でも、もう忘れる必要もないね。
セリルはゆっくりと振り返る。
「待つ必要はないよ。もう終わった」
ただそれだけいうと、セリルはその場を後にする。彼女がどんな顔をしているかは分からない。でも、下を向いていないことだけは確かだろう。何故かそう思った。
暗殺者は心を殺せ! 天野静流 @amanoshizuru
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