第38話 邂逅
「……ボスぅ」
肩を落とし、しょげ返るブーク。
「…ブーク、ちょっと調子に乗り過ぎました……」
6階での攻防がひと段落ついたのでパージも呼び出し、さあニディアの元に乗り込むぞ! と皆が奮い立った矢先、リフトが二機とも動かないことが判明したのだ。
これでは助けに行くどころか、そもそもこの6階から移動できない。
原因はどう考えてもブークだよね というわけで、修行帰りで意気込んでいたパージには文句を言われ、カルテにも叱られて、すっかり意気消沈しているのが今のブークの状況だ。
すぐ隣でパージがニヤニヤしている。
おまえも出禁仲間だな、と思っているに違いない。
いや、パージさん。あなたのやらかしはもっとヒドかったんですけど…。
まあ、経緯はともかく、動かなくなったものは仕方ない。
リフトが使えないとなるとどうしたものか?
うーん、こういう時に頼りになるのは、やっぱり彼女。
ということで、カルテをちらっと見る。
意図を察したカルテが通路の先を指差した。
「奥に非常用の階段があります。そちらが使えそうです…」
カルテが先導して全員で移動する。
建て付けが悪くなった非常口の扉を、リンタローと俺とで身体をぶつけて何とか開いた。
扉の隙間からそっと顔を出して、一つ下の踊り場を確認する。首をひねって上に伸びる階段もチェックした。
リンタローに手でOKと合図する。
ブークが俺の脇をすり抜け、踊り場の柵から下を覗いていた。
「…ボ、ボスぅ…」
少し背伸びした格好で柵の手すりを握ったまま固まっているブーク。
「ボッスぅぅぅ…」
泣きそうな声で俺を呼ぶ。
「…どうした?」
ブークが、こちらに振り向いた。
顔面蒼白だ。
涙目で何か言おうとしているが言葉になっていない。
これは余程のことに違いない。
ブークの隣に急ぎ移動して下を見た。
!!!
…ニディア!
ニディアが地面に力無く横たわっていた。
すぐそばに剣も転がっている。
ブークの肩に手を置いて「大丈夫だ!」とだけ告げると、俺は階下に向かって駆け出した。
6階から下の非常階段は、ぐらつく箇所がいくつもあった。特に4階部分は踊り場の手すりが無くなっている。
ここから落ちたのかも…。
イヤな予感が頭をよぎる。
地表に着いた。
ぐったりと地面に転がっているニディアが目に入る。
急いで駆け寄り、膝をついてそっと手を取った。
脈はある。
口元に顔を近づける。
息もあった。
ざっと見る限り大きな出血も見られない。
あと気になるのは、頭をぶつけてたりしないかだか、これは俺では何とも判断が付かない。
振り返ると全員が降りて来て、俺の少し後ろから不安そうにこちらを見ていた。
カルテに視線を送る。
目が合ったので、頼むという意味を込めて強くうなづいた。
カルテはニディアの側まで歩み寄ると、右手を彼女の頭部に向けて伸ばした。
しばらくその体勢でいたカルテは、手を下ろすと俺の方に向き直り、柔らかな表情になった。
答えを聞かなきゃだが、それでも少しホッとする。
「頭部と頚椎を診たところ特に損傷はなさそうです。気を失っているだけだと思いますので、目を覚ましたらどこか痛むところがないか…」
「うわぁぁぁぁーーーーーん!」
カルテの話を遮ってブークがこちらへ駆けてきたかと思うと、ニディアに覆い被るように抱きついた。
「ぐすっ、ニ、ニディアちゃん……ニディアちゃん…」
激しく泣きじゃくりながら、ニディアの耳元でその名を連呼する。
あ、こら。ブーク!
止めに入ろうとした瞬間、
「あ!!!」
ブーク以外の全員が一斉に声を上げた。
ニディアが右手を上げたのだ。
そしてその手を、すすり泣くブークの頭を撫でるようにそっと添えた。
その感触に気づいたブークが顔を上げる。
「…あら、ブークちゃん、どうしました? 顔がぐちゃぐちゃですよ」
ニディアが少しかすれた声でそう語りかけた。
その肩越しに俺と目が合う。
「…あれ、アッくん…」
そのままカルテに視線を向けた。
「…カルテさん……」
…目の光が変わった。
「………わっ!!」
ニディアが飛び起きた。
斜め上方の非常階段を見上げる。
やっぱりあそこから落下したのか。
続いて、身体のあちこちを触り始めた。
顔をしかめたりはしていない。
様子を見る限り大丈夫そうだ。
すくっと立ち上がった。
剣が落ちているのに気づいて、トコトコと歩き拾い上げる。
!!!
ここでやっと、みんなが自分の一挙手一投足に注目していることに気づいたらしい。
いくぶん決まりが悪そうにたたずむニディア。
「…どお? よく眠れた?」
俺はそう声を掛けた。
その俺に、
「…その格好を見て、すっかり目が覚めちゃいました!」
と言ってニディアが破顔した。
「良かったぁ〜!!!」
ブークがあらためてニディアに抱きついた。
カルテも微笑んでいる。
いや、本当に良かった!
ワイワイとしているなか、ひとり感慨深い表情を浮かべている者がいた。
あ、そうか…。
会うのは初めてなのか。
少しだけ後ずさりをして道を開ける。
ファスティアがゆっくりとした足取りでニディアのもとへ進み出た。
少し手前で止まって、ニディアをじっと見上げてる。
「……やっと会えましたね」
そうポツリと呟いたファスティア。
きょとんとするニディア。
「……心配しちゃいました」
ファスティアの声が少し震えていた。
ニディアの表情が変わった。
そそくさと自分の胸元に手を入れる。
そして、あのペンダントを取り出しファスティアに向かって掲げ持った。
その姿にファスティアは、
「はじめまして、ニディア…」
とひとことだけ言って、同じようにペンダントを掲げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます