第28話 王位継承式 始まる

「ライブ配信、カット!」


 早朝、王宮の門と時計塔が見える橋の上から、リンタロー・ファスティアと俺の3人でテストも兼ねたライブ配信を行った。


 テスト配信ではなく、スタッフのテストのための配信である。


「どうです?」


 ファスティアが早速俺に聞いてきた。


 ちょっと顔がニヤけてるように感じるのは、俺が自意識過剰なせいかもしれない…。


 と思っていたら、


「なんか下半身がスースーする……」


 と答えた俺の顔を見て、堪えきれなくなったのか大声で笑い出した。


 リンタローの方を見ると、腹を抱えて笑っている。


 そう、 スタッフのテストと言うのは、俺が美少女風エルフに仮装しての配信テストだったのだ。


 「いやー、良かった! 危うく本番で大爆笑するところだった」


 ヒドい…。


 断じて好き好んでこんな格好をしてるわけじゃないのに…。いやほんとに。


 文句の1つも言ってやりたかったが、実はしゃべることは禁じられている。女性陣曰く、見た目はこれで十分OKだが、声はやっぱりダメらしい。


 文句はこのあと一度宿に戻って最後の打ち合わせをするときまで取っておこう。

 それに、これから始まるとても大切な1日を前に、皆に笑ってもらって、少しでもその緊張が解けたと考えれば、それはそれでいい。



 昨日の夜、再び全員で集まって打ち合わせを行った。

 会議はその内容のせいで、少しピリピリとしたモノになってしまった。


 ちなみに全員と言ってもパージはいない。


 あのモンスター遣いとの戦いの後からまた、アミッレットの紫の光が消えて行方知れずになったのだ。


 ……えっ、また出禁?

 にしては、妖精協会から連絡はないしな…。


 と心配していたら、カルテとブークから報告があった。


「あ、ボス、パージなんですが、修行に行っちゃいました」


「しゅ、修行?」


 カルテがフォローする。


「苦戦したのが余程悔しかったみたいです」


「強くなって帰って来るので、かしらに言っといて って伝言でした」


 熱血モノみたいな行動とセリフ…。

 必殺技とか編み出して帰ってくるんだろうか?




 パージを除く5人が揃ったところで、リンタローが口火を切った。


「タームテーブルが更新された」


 リンタローがマルセルさんからの情報として、端末に新しい式次第を映し出した。


 9:45 開門 

 10:00〜 招待客の入場

 11:00 王位継承式 開始 王室関係者入場

 11:10〜 国王陛下ご挨拶


「…ここまでは変わらない。問題はこの後だ」


 11:20〜 時計塔の再生(時計塔5階にて)


 …なんだこれ?


「時計塔って。今回の会場だよな?」


 リンタローに確認のため訊ねる。


「ああ。時計塔はこの王宮で一番高い建物になる。

 大扉から入って少し階段を登った先が大規模なホールになっていて、そこが今回の会場だ。

 招待者に送られてきた図面によると、ホールのステージ裏に上層階に登るリフトがある。5階というのはこれで登るのだろう」


「時計塔と言うからには、時計があるんだよな?」


 ファスティアがリンタローに代わって答えた。


「王都を見渡せそうな高い位置に大時計があります。ただもうずっと動いていないのですが…」


 少し含みのある物言いが気になった。


 そんな俺の様子を察したのか、ファスティアが後を続けた。


「動かなくなったのは、女王が姿を消したときから…って言われてます」


 なるほど…。


「止まっていた時がこの式典を機に再び動き出す。

 大時計とこの国の歴史を重ねて、象徴的に演出したいってとこかなとは思う…ただ……」


 考え込むリンタロー。


「この前日のタイミングで変更というのが気になる…。

 この程度の企画だったら、最初から予定に入れただろうし、こいつは十分注視する必要があるように感じる」


 その言葉にうなづく各人。


「忘れたらいけないのは、今回の俺たちの目的は、あくまでもニディアちゃんを取り戻すことにある。

 ファスティアさんやマルセンさんには悪いが、王位がどうなろうが、そんなことは二の次三の次だ

 この【時計塔の再生】が、ニディアちゃん救出の成否に影響を与えるなら、首を突っ込むが、そうでなければ関わらない そんなスタンスでいければと思う…そしてだ……」


「ここからの話が、もっとセンシティブな内容になる」


 リンタローの声のトーンが少し変わったので、自ずと全員少し緊張した面持ちになった。


「…ニディアちゃんから初めてメッセージが届いた!」


 5人のいる空間が騒めくのを感じた。


「なんて?」


 第一声は俺だった。


「…気持ちはわかるが、まあ慌てるな。

 勿体ぶっているように感じると思うが、落ち着いて冷静に見て欲しい」


「これがそのメッセージだ」


【会えるのを楽しみにしています】


 魔導端末に映し出されたメッセージはこれだけだった。


「…これだけ?」


 図らずも、心の声をそのまま口に出してしまった。


「コレだけだ」


 みな戸惑いの表情をしている。


「どう思う?」


「どおって?」


「本人と思うか?」


 そう言うことか…。


「みんなの意見が聞きたい」


 リンタローが全員を見回した。


「…本人じゃないとすると、どんな可能性が考えられる?」


 口を開く者がなかなか現れなかったので、仕方なく、思ったままのことを口に出した。


「仮に偽のメッセージだとして、マルセルさん経由なんだろ。マルセルさんは大丈夫なのか?」


「その意味は…、捕らえられたってことか? それとも敵側についたって…」


「マルセルに限ってそれは!」


 俺とリンタローの応酬に、ファスティアが割って入った。


「……」


 ニディアからのメッセージということで、俺もリンタローも少し感情が昂ってしまったようだ。


 リンタローが努めてゆっくりとした口調に戻して話を再開した。


「さっきのタイムテーブルの変更以上に、この前日のタイミングでメッセージが届くなんで、明らかにおかしいとは思う。

 一方で、偽のメッセージを送った側も、そんなことをすれば俺たちがおかしいと感じるだろうことは、十分想像できるだろう。

 じゃあ、これは本物なのか?

 いくら議論したところで、たぶんその結論は出ないんじゃないかな…」


「それにファスティアさんは、このメッセージの真偽によって、行動を変えようとは思っていないでしょ?」


 リンタローにそう訊ねられたファスティアは俺たちに向け強くうなづいた。


「アカツキ! 明日朝早くに、ファスティアさんと3人で、テスト配信をしようか。

 おまえにはあの格好に慣れて欲しいというのもあるし。

 で、そのあと、もう1回最後にみんなで相談しよう!」



 城内で高らかに楽器の音が上がる。

 パンパンと鳴る花火の音も聞こえた。


 いよいよ、王位継承式が幕を開けたのだった。

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