3-05 二人の時間
エスタが令嬢の策に嵌められた夜、彼の体調が心配になって妖精の姿で彼の寝室を訪ねてみた。肉体を持たない妖精の姿なので空を飛んだり壁をすり抜けたりと非常に便利だ。
深夜で皆寝静まった頃、寮から城へと移動する……ここもすっかり平和だ。王宮での立てこもり事件で城内が荒れたが、今ではすっかり元通り。あの事件が嘘のようだった。
彼の寝室前に到着したので扉越しにそっと声を掛けると返事が有った。中に入ると彼はベッドの上で本を読んでいた。
「体調はどう?」
彼は私を見ると少し顔を赤くして目をそらした。
しかしコホンと咳払いをする。
「ああ……迷惑かけた。見苦しい姿を見せてすまなかったな……でも助かった。ありがとう。」
「大変だったね。眠れそう?催眠かけようか?」
「そうだな……丁度眠れなくて困ってた。お願いするよ。」
「うんいいよ。じゃあ横になって?」
変な時間に昼寝をしてしまった彼に催眠をかける。私は目を輝かせて術を掛ける準備をする。静かに横になった彼の顔を覗き込み一言声を掛けた。
「【お休みなさい】」
すると彼はすっと眠りに落ち、妖精の体の私も彼の夢に引きずり込まれる。
この仕様はどうしようもない。サキュバス的には寝かしたからには成果を得なければと言った所だろう。
夢の中に入るとそこは魔法屋の彼の部屋だった。彼はどこかむすっとしていた。
そして私の顔を見るなり、素早く捕まえ横抱きで抱えた。不意に彼の腕に収まってしまった私は狼狽える。顔が近い。夢の中の彼は時々大胆な行動を見せる。
「やっ! 何? どうしたの??」
「……本当に危なかったんだからな。」
彼はそうぼそりと言うと私をベッドにポンと優しく放った。少し拗ねていらっしゃる。彼は添い寝をするように私の隣に寝転んだ。
「わぁっ……今の方が危ないってば!」
頭を支えていた腕を放り出しくてっと力を抜いた彼は大きなため息を吐く
「はぁぁ。ほんと今日は誰かに褒めて欲しいよ……すまない。このまま手でドレインお願いしていいか?」
「え? うん。……我慢してえらい、えらい。」
私は彼の頭をポンポンと撫でてからそっと彼の頬に手を当ててじわじわとドレインを始めた。サキュバスは夢の中で対象者から生気を吸い取る。例に漏れず私も吸い取る事が出来るのだ。この世界に来た時は経口でしかできなかったが、今では便利な事に皮膚の接触でそれが可能になったためお手軽だ。
彼はドレインする私をジト目で見つめて言い放った。
「はぁ……マヤも少し強いからって油断すると大変な目に合うんだから気を付けろよ?今日は散々な目にあった……もう今日はこのまま寝る!」
そう言って彼は目を瞑った。正確にはもう夢の中で寝ているのだが……でも拗ねる彼も可愛かった。自然と顔がほころんでしまう。彼を見つめていた時だった。
「なんだ続きはしないのか? わたしを生殺しにするつもりか?」
―――!!!
彼女が私の口を使い話し出した。しかも『続き』って!私は手を引っ込めて慌てて首を横に振る。
「何だ、したいのか?」
「ちがっ! 真夜の君がっ!!」
彼は真面目な顔して聞き返したが、私の反応をみてニヤリと悪戯っぽく笑う。
「わかってるよ。真夜の君、今日はこの通りドレインだけで我慢してくれ。続きはまた後でな。マヤも。」
「仕方ない……楽しみに待っておるから頼むぞ。ひゃっひゃっひゃっひゃっ……」
むぅぅぅぅぅ!―――もう! 二人して!!
恥ずかしくなった私は獣型に姿を変えて丸くなった。
「「あ。毛玉になった。」」
二人して毛玉っていうな!!
丸まった私はエスタに撫でられながら眠りに就くのであった。
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