2-26 迷宮攻略
私は陛下の夢に入り、彼と合流する。
そして手を取り学院の迷宮へと進む。
歩きながら戦闘用の動きやすい服と髪型へと姿を変えた。
霧が立ち込めた様な空間を匂いを頼りに進んでいくと、その霧は次第に金色へと変わり歩んでいた空間の床の材質が変わった。
見覚えが有る石畳だ。迷宮へと入り込んだ。
次の瞬間ぶわっと霧が晴れてその全貌が明らかになる。
迷路を一望できる高さで、目の前には下り階段が迷路へと続いていた。以前と違うのは迷路が更に広大になっていた。私達はスタートの地点に立たされたのだろう。迷宮全体から金色の光の粒子が漂っている。そのおかげで幻想的な風景を見せていた。
陛下は私の目を見て頷いた。
「そうか、ありがとう。では始めよう。」
彼は私の手を離し、一歩前に出て叫ぶ。
「迷宮の怪物よ、ヴィリディス国の王ニグルム=フロリーテだ。王座を狙うのであれば、私を倒すがよい。」
これは戦線布告だ。怪物の意識をエスタからこちらに逸らすように。
私達が立つ床に変化が起こる。幾つもの金色の目が現れて私達を見た。
―――き、気持ち悪い。
沢山の目に睨まれた後、私達とは反対の方角から咆哮が轟く。
「ア”アアアアアァァァァァ!!!」
陛下と私は迷路の中へと降りる。そして、私は先生から借りている杖に失せモノ探しの魔法をかけた。
「お願い。エスタ先生の居場所を教えて。」
杖から光の糸がでて来て迷路を迷いなく進んでいく。私達はその糸を辿って進んだ。
迷宮の相違点は他にもあった。壁の上から金色の小さな獣達がこちらを観察している、最初は数匹襲ってきたが、追い払った後はおとなしいものだった。
そしてじわりじわりと魔力を吸われていた。これは陛下も同じようで微々たるものだが長時間は危険だろうとのことだ。迷宮の性質が変わっている。怪物の体内に居るような感じだ。
(怪物と迷宮が一体化している?)
(マヤもそう感じるか?それにかなりの強さを感じる。じわじわと迷宮内の生気を吸っているからか……すでに何かを食べたのか……)
真夜の君が悲しげに話す……
(学院に居た人の魂を食べちゃったって事?)
(人間の他にもいるじゃろ? 姿を消したものが……)
(妖精……)
(ああ、人間より魂の質量が少ないものも多いからな。この迷路の中で妖精を見かけなければそれが濃厚じゃろう。)
妖精の次に学院に居た人達を食べるのか……急がなくちゃ。
眠っている学生や職員を起こして集団行動をとるように促しながらひたすら急ぎ歩く。
進むにつれて甘い匂いが強くなって来た。以前よりは耐性ができたのか、マシになったけれども……それでもだんだんと体の動きが鈍くなる。動けなくなる前に姿を変えよう。
ケモノ型に姿を変えようとした時だった。
壁の上で見た居た小さいな怪物たちが私に群がってきた。人間の姿の時とは違いずるずると引きずられそうになる。
「マヤ! どうした!! ―――くっ! 離れろ!!!」
とっさに陛下が追い払った。奴らはまた塀の上に戻って行く。
「大丈夫か? 奴ら何でいきなり動き出した?それにその姿」
「申し訳ございません!魔力のロスを減らすのに姿を変えたのですが……逆にそれを狙われてしまいました。助けて頂きありがとございます。」
陛下は私を両手で抱き上げ驚きながら見ている。
彼に私が掛けられている魅惑の呪いについて説明した。それを聞くと……
「もっと小さく成れるかい?」
―――???
「はい……やってみますね」
もっと小さく。私は子猫より小さい姿を想像して姿を変える。
周囲の空気が動き彼の掌の上にぽてっと着地する。おなじケモノ型だが小型コウモリと同じサイズ感だろう。
「よし!いい感じだ。これなら大丈夫だろう。ここに入って居なさい。」
そう言って彼はジャケットの胸ポケットに私を入れた。
肩で大丈夫と抵抗したが、攫われてはたまらないのでと彼は譲らなかった。
私はポケットから頭を出し彼に話しかけた。
「私だけ楽させていただきすみません……陛下の体調は大丈夫ですか?」
「ああ、魔力を吸われているのを感じているが、マヤ程では無いよ。」
ああ……申し訳ない……そして自分が情けない。このフィールドが不利すぎる。
(ねえ、真夜の君?迷宮の環境も変化させることって、できそう?)
(うむ……体力次第だのう。夢の主人よりも力が有れば主導権の掌握もできるだろうが。それよりも前回よりも魔力の消費が早い。このままだと理性を失って見境なく生気を吸い出すぞ。)
そう言われてみたら、お腹が減ってきた。タイミングをみて陛下から生気を分けてもらおう。
周囲から人の気配がした。一人ではない。
教授や生徒が合流してできたコロニーらしい。チャトルルに連絡した通り一人にならないよう集団で動いてくれている様だ。途中で出会った学生たちをそのコロニーに託して私たちは進む。
近くから怪物の声がした。
陛下もそれに気づき、急いで声の方向へ向かう。暫く進んでいくと壁の上に怪物が見えた。怪物が迷路を見つめている……その先には生徒が一人倒れていた。そして奴は静に迷路へと降り立った。彼女を食べるつもりだ。
「やめろ!!」
陛下が後ろから叫ぶと、怪物はこちらに気付いた。
金色の目でギロリとにらみつけている。そして剣を抜き襲いかかってきた。
陛下も剣で応戦するが……この怪物、最初に出会った時よりかなり大きくなって成長している。筋骨隆々で年齢的な見た目は陛下と同じくらいだ。そして甘い香りがとても強い。めまいがする。
陛下も体調が改善して力も戻っているが、それ以上に怪物が力で押している。王が弾き飛ばされてしまった。
彼に止めを刺そうと剣をギリギリと引きずりこちらに近づいてくる。まずい、休んでいる場合ではない……
私は彼のポケットから這いずり出て、元のサイズに戻る。
そして怪物と陛下の間に立ちふさがった。
怪物の構えた剣先が私の胸元でぴたりと止まる。
私も人間サイズに戻り急激に魔力を消費したので酷い眩暈に襲われバランスを崩し倒れる。
―――カーン……
剣先が床に着く音と同時に。私は怪物に抱き止められた。そして、予想通り彼は私を攫って迷路の壁を走り出す。
驚いてこちらを見る陛下に私は自身の角を触って合図した。気づいてくれるといいな……
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