2-23 結星の日

 短期公開講座の日程も最終日となった。


 あっという間の1カ月だ。一時不穏な事件もあった学院だけど、今日は皆浮足立っている。

 今日は、星が天と地を結う日、結星の日だ。

 この日はいわれが多く有って、妖精の間では流星と一緒に古の妖精の魂があの世から帰ってくるとも言われている。


 ハロウィンみたいなものだ。


 普段見かけない妖精についていくとそのままあの世に攫われるとも言われている。

 学院内では、この日に思い人にプレゼントを渡して告白すると永遠に結ばれるというジンクスがある。星降る夜に告白はロマンティックだからね。最終日テスト前にも関わらず学院内はカップルがいつも以上に目立つ。


 午前の授業が終わり、いつも通りチャトルルマヤで学食ランチを楽しんでいた。


「チャト、依頼品は全部仕上がったの?」

「もちろん! 間に合ったよ~。午前中の内に納品できたからね、みんなの報告が楽しみだね~。」


 チャトの目の下には薄らとクマが出来ていた。遅くまで作業していたのだろうけど、彼女はどこか楽しそうで、顔色と反比例してとても元気だ。ルルが「コホン」と咳払いをして一言。


「あら? 私が依頼した物が届いてないけど?」


 私は驚いた。ジンクスに興味を持たなかったルルが! アクセサリーをオーダーしていたのだ。思わず聞いてしまった。


「ルル、誰かにプレゼントするの???」

「そうよ。ジンクスというか、イベントを愉しむのは有りかなと思って。」

「もちろんあるよ。ここでいい? はい、毎度あり~」


 チャトはそういって、アクセサリーケースをルルに手渡した。

 ルルは受け取って、中身を確認する。嬉しそうに微笑みながら話す。


「いいじゃない。さすが人気の職人ね。」


 一体誰に渡すのだろう。噂のアレックスか?

 ルルは3人に見えるようにケースを開いてテーブルに置いた。中には海のように鮮やかな石が入った、同デザインのブローチが3つ。ルルはそれを取り出しチャトと私に一つずつ渡す。にっこりと笑い穏やかに彼女は話した。


「友達になった記念よ。これからも末永く良い友で居ましょうね。」

「よくできているでしょう? この石はマヤが取った宝石スライムの核だよ。私の狩猟許可書代相殺でルルからは依頼を受けたんだよね。魔力がこもった石だからお守りにちょうどいいし。これで三人どこに居ても一緒だよ~」


 思い出した。狩猟許可書代としてルルに渡した青い石だ。石は加工され元の姿とはだいぶ変わっていた。光を反射させて煌めいている。ブローチのデザインもとても可愛かった。


 チャトはブローチを胸元に付けた。ルルもそれを帽子に付けて、私もブラウスの襟元に付けた。三人ともお互いを見てニンマリしている。うれしい!!


「……ありがとう! とても嬉しい!! これからも宜しくね。」

「ええ、また休みの日には帰るわ。その時は二人とも遊んでね。」

「もちろんだよ~!! さて、お二人さん。このイベントはこれからが盛り上がるからね。健闘を祈るよ。」


 そしてランチが終り私たちはそれぞれの授業へと向かった。

 これからが本番か……そうだ、ルルとアレックスの恋の行方も気になる所だ。明日ルルが新しいアクセサリーを着けていたら進展が有ったと考えていいのかもしれない。非常に楽しみだ。

 私はどうしよう……先生に日頃の感謝として用意した万年筆いつ渡そう。今日じゃなくてもいいのだけれど……でも、いつでも渡せるようにと鞄には忍ばせてある。今夜はリーリと会食する約束が有るのだ。最近、先生は打ち合わせや会議で寮に戻ってくるのが遅い。学校に居る間に渡せたらいいな……。


 ◇◇◇


 夕方になり、無事仕事も片づいたので帰る支度をしていた。

 私はプレゼントを渡せずにいた。チャンスが無かったのかも……


「ちょっといいか?」


 研究室の中を伺い先生が入ってきた。今は私しかいない。

 何か落ち着かない感じだ、急ぎの仕事が入ったのだろうか?


「帰るのか?」

「はい、今日はリーリと城で会う予定で。急ぎの仕事ですか?」

「いや、ちがう。……そうかリーリにもよろしくな。」


 ―――! 今だ。

 私は慌てて鞄からプレゼントの包みを取りだして、彼に手渡した。


「先生? 私、召喚されてから先生にはお世話になりっぱなしで……先生のお陰でこの世界での生活とても楽しいです! ―――いつもありがとうございます! これよかったら使ってください。」

「え?―――これ。あけてもいいか?」


 私はすぐに言葉が出なくて。こくりと頷いた。

 先生は丁寧に取り出してケースを空ける。少し驚いてそして嬉しそうに話す。


「―――ありがとう。とても、綺麗で気に入った。長く大切にするよ。」


 彼の笑顔がとても素敵で、時間が止まった気がした。ずっと見ていたい……鼓動が早くなる。

 そして彼は少しぎこちなく私を見た。先生は私の襟元、ブローチを見て一瞬驚いた。そして……


「そのブローチ初めて見るな。誰かから貰ったのか?」

「え……チャトルル3人お揃いのブローチです。友情の証です。」


「そうだったのか。」と先生は安心したように息を吐いた。なんで安心したんだろう……この雰囲気もしかして……期待してしまった。緊張で鼓動が早くなる。


 先生は私にゆっくり近づいて私の右手を取り、薬指に何かを通した。

 夕焼けのように鮮やかな……先生の瞳の色と同じオレンジ色の石があしらわれた指輪だった。


「綺麗、これって……」

「俺からのプレゼントだ。嫌じゃなかったらつけてくれ。……マヤは大変な目にあってばかりだからな。……まぁ、魔除けだ。」


 指輪……思わず脈が跳ねる。男性が女性に指輪を贈る意味はこちらの世界でも同じなのだろうか?

 窓から差す夕焼けで先生の顔色が分からない……。どうしよう。早く何か言わなくちゃ……


「……じゃあ、用はそれだけだ、気を付けてな。」


 そう言いながら出口へと向かって行ってしまう。


「エスタ……ありがとうございます。大切にします。」


 私は指輪が着いた手を宝物のように抱きしめた。

 名前を呼ばれ驚いた彼がこちらを向き。満足そうに「ああ」と答え、彼は去って行った。

 実は―――この後の記憶が無い。気が付いたら城の前にぼんやり立っていた。

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