17 決行(⁠1/4)

 あの作戦会議から二日後の夜、救出決行になる。


 とても緊張感が有り、胃がキリキリと痛い。

 先生は前髪を上げ、眼鏡を取り、普段と雰囲気が違った。

 服装も普段のゆるっとした感じではなく、動きやすさ重視のスッキリとした格好だ。

 私も髪を高く結ってポニーにし、動き易さと怪我対策の為パンツスタイルだ。トップスも冒険者仕様の丈夫な物を用意した。ここまでする理由は戦闘が有るからだ。


 先生はロットの代わりにロングソードとショートソードを持ち、私は護身用にナイフを渡された。包丁よりイカつい刃物を持ってしまった。使う時が来なければいいのだが・・・。


 月の光が無い新月、星に照らされながら私は先生を抱え、滑空しながら城内へと侵入した。

 私と先生は実体で城に潜入する。浮遊魔法で結界を通ると警報音が鳴る仕組みになっているらしく、それを避ける為にこの方法を取った。

 お互いのウエストをロープで固定し、抱き合う形で彼を抱えての滑空だ。


 生きた心地がしなかった。色んな意味で非常に心臓に悪かった。


 滑空で城の結界を超えた所で先生が浮遊魔法をかけ、ゆっくりと敷地内に着陸した。

 私の心臓も何とか無事だった。ロープを切って深呼吸をし集中する。視界に入る魔獣を魔法で討ちながら城へと向い走った。


 先生は以前、城に出入りしていた事があるらしく、迷いなく進んでいる。城の入口とは離れた場所に着いた。装飾が綺麗な壁が続いている一角を彼は真剣に装飾を眺めて、「ここだ」と言っておもむろに壁を押す。

 すると押された部分には人がひとり潜れるほどの穴が開いた。


(隠し通路って奴ですか・・・。)


 私が呆気にとられていると、先生は迷わず隠し通路に入って行くので慌てて後に続いた。

 通路を進み、階段を登る。登っていると天井が白く光る階が有った。これは聖女の結界。天井、つまり上の階がリクサとナイトメアが居るフロアだ。このフロアの入口からは黒い煙のような瘴気が溢れだしている。魔獣が蠢く音も聞こえる。


 入口の前で先生は懐中時計を確認する。

 私を見て頷く。開始の時間だ。私たちは物陰に隠れて目を瞑る。


 すると結界の結界が強く光り出した。目を瞑っていても周りが明るい事が分かるほどの光だ。

 魔獣の断末魔がいたるところから響く。この光で彼らを焼いているのだ。

 10秒ほど強く光った後、光は消えた。


 ◇二日前◇


「中に居る魔獣と瘴気の対策ですか?」


 リーリが、先生に聞かれこめかみに指を当てて考え込む。悩む姿も可愛らしい。


「そうですね・・・城の結界の出力を上げて、10秒程、焼いて浄化しましょうか。それならば可能です。ただこれを使う時、城以外の結界は1分程消失します。まあ、それに関しては王宮魔術師団と騎士団に防衛をお願いしましょう。ただ、出力を上げる事が出来るのは泣いても笑っても1回だけです。力の消費が大きすぎるので・・・そうなると、その後私は作戦に手を貸せなくなってしまいますが、よろしいですか?」


 さらっとすごい事言ってのけた。その方法は私が放つ槍の何十本相当になるのか・・・。皆目見当がつかない。聖女の力は格が違う。これが聖女たる所以なのかもしれない。

 城内の一掃はこの方法で決まった。彼女の周辺の警備はモロに任せることになった。彼は当日までに生気を元に戻し、人型にて参戦となる。


「ありがとうございます。突破口が出来たら私とマヤで瘴気の供給源を破壊します。」


 ◇◇◇


「行くぞ!」


 先生に促され走る。作戦開始だ。

 第一に瘴気の供給源を絶つ。


 モロ曰く、瘴気が濃すぎて瘴気の発生源が分からないらしい。王の執務室か寝室あたりが最も濃い。モロも長く瘴気を浴びると変質してしまうため近づけなかったそうな。


 私たちは隠し通路から廊下に出る。漏れ出ていた瘴気は消えていた。

 城内に明かりは無いが聖女の魔法陣が再起動を始め、仄かに光り出したおかげで明かりをつけずに進むことが出来た。

 瘴気が消えたおかげで分かる。それでもなお感じる濃い瘴気。それに向かい走る。

 途中で聖女の光に焼かれた魔獣たちがボロッと崩れて霧散していく姿が有った。

 時折まだ息のある魔獣は私が光の矢で射って消し去る。後方から支援をして先生の道を空けた。


 先生は一室の前で止まり、扉を開ける。うっすらと奥から瘴気が漏れ出していた。

 彼は風を吹かせ瘴気の霧を払う。ここは執務室のようだ。重厚な応接セットと品がいい机。しかし机が異様だった。

 机の上が瘴気で溢れていて黒い。瘴気を吸わないよう、鼻と口を服の袖で覆い、二人で机に近づく。机の上には紙が置いてある。四方をピンで留められていた。紙には魔法陣のようなものが浮かび上がっている。ここから瘴気は出ていた。


 先生は持っていた短剣に『古典魔法の聖なる力』を込める。短剣は刃に紋様を描きながら光り、次第にその輝きはは全体に及んだ。先生の額にはうっすら汗の珠が浮かぶ。時折、溜まった瘴気の中から魔獣の手が伸びて来るので、私は光の槍で薙ぎ払った。


 先生は短剣を両手で持ちじりじりと机の上の紙に向かい近づける。魔法陣は嫌がるように瘴気を放ちナイフの接近を拒む。しかし


 ドンッ!


 ついにナイフは魔法陣ごと机に突き立てられた。

 紙に書かれていた魔法陣が壊れ、瘴気が出てくることは無かった。



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