サキュバス、夢の中では最強です

雪村灯里

第一章 玉座の悪夢編

プロローグ うつくしい国

俺は、元居た場所地球とは違う世界へ到着した。


 偶然降り立った国【ヴィリディス】は自然豊かで、様々な種類の人間、多種多様な動物、妖精が共存するお伽噺ときばなしのような世界だ。


 この世界の人間は己の生命力―――生気を紡いで魔法を使う。


 生活の中に魔法が溶け込んでいて、魔法が当たり前のように使われている。

 魔法で火を起こし、水を集め、明かりを灯し、物を浮かせ運び、はたまた魔法で人間が空を飛ぶこともできる。

 魔法は発展しているが電気や科学技術は見当たらない。そちらの成長はゆるやかなようだ。


 この国の王都へ行くと、そこには様々な容姿の人間が行きかっていた。

 地球でよく見るタイプの人間もいれば、猫のような耳が生えたもの。翼を持つものなど種類も様々だ。お伽噺に出てくる住民そのものだった。


 自然が豊かで資源が豊富なのか、街は綺麗で活気があり治安が良い。街角で子供が遊ぶ姿も見受けられた。


 なぜ、こんなに治安がいいのかと尋ねた。聖女様の加護のおかげで国が守られているとのことだ。


 空を見上げると鳥や虫の他に見慣れないものが飛んでいた。半透明の生物。

 これは妖精というらしい。人型もいれば動物、虫の形に近いものもいる。触ろうと手を伸ばすが触ることが出来ず、悠々と手をすり抜けてゆく。


 この国では3か月前、国王崩御により一つの長い時代が終わった。国民は皆悲しみに暮れ国王の冥福を祈った。

 妖精たちも悲しみ、旅立つ国王の御霊を見送ったと云われている。


 悲しみの中、新たな国王の元、新たな時代が始まった。


 新国王はこの国の第一王子。文武両道で魔法も巧く、心優しい人格者であったため国民からの信頼が厚かった。

 さらに彼の容姿はうるわしく縁談が多く寄せられるほど、国内外からも人気があるらしい。皆、新しい時代も良き時代になると信じて疑わなかった。


 街を歩いていたら、人だかりが有った。この国を加護する聖女が結界の保守点検の為、城から街に来ているらしい。

 俺も聖女様を一目おがもうと、人だかりに近づく。その中心には美しい娘がいた。月の精のような清らかな笑顔をたたえる娘だ。


 ・・・気に食わない。国も民も王も聖女もすべて気に食わない。綺麗すぎて反吐が出る。


 ・・・そうだ。この国を起点として世界を壊そう。それがいい。この国の新国王が残虐非道を極めたらどうだろう?人が絶望する姿は見ていて愉しい。壊し甲斐がある。国を乱し、破壊して混沌を作ろう。


 聖女・・・あの娘はあの方へ献上しよう。あの方は美しいものを好む。美しいものを壊すのが何よりも大好きな方だ。きっと喜ばれるだろう。そうすれば、俺もあの方の元へ戻れる。


 そうと決まれば行動は早かった。街で新国王宛てに手紙を書いている子供に、便箋びんせんを2枚分けてもらい、仕掛けを作った。


 時限式の魔法陣を2つ。1つは瘴気しょうきが無限に発生する。そしてもう一つは転送魔法陣だ。街を囲む結界は目が粗く何とか侵入出来たが、城には入れなかった。なのでこの手紙で抜け道と俺の力の供給源を作った。


 魔法陣を隠し描いた手紙を一緒に同封してほしいと子供に頼み、そっと封筒へ入れた。手紙は明日、城の者が街に来た際に渡すと言っていた。平和ボケした国だ検閲は甘い。


 さて、準備は整った。相棒よ、仕事だ。

 さあ悪夢の始まりだ。

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