星に願いをかけて
寿甘
古に想いを馳せる
「冬の大三角を形作る星の名前って知ってる?」
「いや、知らない」
突然投げかけられた
「そうだよねー、シリウス・ベテルギウス・プロキオンなんて言いにくいし覚えづらいよね。夏のベガ・アルタイル・デネブは覚えやすいんだけど」
なんだか納得したような顔でうんうんと頷く星子だが、はっきり言って夏の方も知らない。星に興味がない人間の認識なんてこんなもんだろう。
「シリウスとかベガとか、星の名前自体はよく聞くんだけどな。大三角って言われても出てこないや」
まるで全部の星の名前を知っているかのように言ったが、シリウスとベガしか知らない。ここはちょっと見栄を張った。星子は薄く笑みを浮かべると、話を続ける。その名の通りに星の好きな彼女は、話し相手にも星好きであることは求めない。
整った顔をした、いわゆる美少女と呼ばれてもおかしくない星子には、彼女と話を会わせようと星のことを調べてくる男子が群がっていたが、次第に話が合わなくなって離れていった。その中で俺は全く星のことを調べようとせず、星子の話をただ聞いていただけだ。星ではなく星子に興味があるんだ、だから知りたいことは彼女の口から出てくる言葉からしか得られない。
「ふふ……シリウスって、夜空に浮かぶ星の中で一番明るい星なの。目に見える光の大きさでは月や金星には敵わないけど、自らが光を発する恒星の中では一番なんだよ」
「へー、だからよく聞くのか」
「昔の人は灯りの無い真っ暗な夜に星を見ていた。空に浮かぶ数々の光点を見て、その大きさとか並んでいる形に意味を見出していたんでしょうね。星座とか、正直そうは見えないようなものも沢山あるでしょ? きっと、そうであって欲しいという願望が込められているんだと思う」
星子は蘊蓄を語るよりも自身のとりとめない考えを語る方が好きだ。だから会話に一貫性とか、問題解決を求める連中は彼女の話についていけない。でも、ずっと聞いていると分かることがあるんだ。
「月の模様も国によって見えるものが違うって言うしな。空に浮かぶ星達を見て、人は自分の心を見ていたのかも知れないね」
星子が本当に好きなのは、星そのものではない。星を見て、それについて思いを巡らせる人の心をあれこれと考察するのが好きなんだ。それに気付けなかった男達は、彼女が星の話をしているというだけで星の蘊蓄を一生懸命に調べて、得意げに知識を披露しては満足いく反応を得られずに自ら離れていった。
彼女の言葉に耳を傾けていればすぐに分かる、ごく簡単なことなのに。興味を持って話しかけた相手のことすら知ろうとしない。
昔の人が星に自分の心を投影していたのと同じように、彼等は星子と接して相手に興味のない自分自身の心と対峙していたのかもしれない。
「
「星子がその話をしたいみたいだからさ」
「そっかー」
星子が口を閉じ、何やら考え事をする。初めて見る行動だ。一体何を考えているのだろうか。なんだが最近は星子が考えていることが分からないと気持ち悪くなってしまう。と、すぐに顔をこちらに向けて言ってきた。
「私ばっかり話してるのも不公平だよね。真白くんの好きなことを教えてよ。星じゃないのはわかってるから」
俺の好きなことだって? それは目の前にいる君だよ……とは言えないし、改めて聞かれると困ってしまい、目が泳ぐ。
「俺の好きなこと? そうだなー、最近動画で人気のコントがあって」
「コントとか見るんだ! どんなやつ?」
その後はとりとめのない雑談で終わったが、これは期待していいのだろうか。どういうわけかここにきて星のことを調べてみようかなという気持ちが湧いてくるのだった。
星に願いをかけて 寿甘 @aderans
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