第9話ディミトリー視点
ディミトリーはルヴィアナにあんな言葉を投げつけられて憤慨していた。
一体何を言ってるんだ?
いつもいつも人に迷惑ばかりかけて来たのはルヴィアナ君の方じゃなかったのか?
僕がどれほど我慢して来たかわかってるのか!
父上から婚約を言い渡されて、最初の頃は君は可愛かったしそれなりにお互いに好いていた。
だが王立学園での君の態度は褒めれれたものじゃなかったはずだ。
朝から晩まで僕のところに来てはそばに摺り寄って来て、近づく令嬢たちに近づくなオーラを振りまいて、たまに話でもしていたら後でその令嬢の悪口を言いふらしたりして。
僕の立場というものがどういうものか君にはちっともわかっていない。
おまけに王立学園を卒業すると今度は王妃教育の合間に執務室にまで押しかけて来て、陳情に来ている人や、他の国の大使のご令嬢にまで噛みつく始末で…
僕はそのことを何度も注意したはずだ。
それでも君の態度はますますひどくなるばかりで、僕は何度か父上にも進言したんだ。
ルヴィアナは王妃としてやって行くのはとても無理だと。
だが父上は今はまだ若いからだと言って取り合ってはくれなかった。
僕にまとわりつくのは僕をとっても愛している証拠だと笑い飛ばされた。
父上の過去の出来事をどうして僕が責任を取らなくてはならないんだ?
確かにガスティーヌ家には恩があるかもしれない。だからといってルヴィアナと結婚しなくてもいいんじゃないのか?
そんな気持ちをずっと抱えていた僕にルヴィアナはついに言ったんだ。
僕は最初耳を疑ったよ。ルヴィアナは婚約を解消したいなんて死んでも言うはずがないと思っていたからね。
確かにこの結婚は政略結婚で互いの感情もはさむ余地はなく決まったことで出来る事なら僕の結婚したい人と結婚出来たらって思っていた。
けど、けど…
まさかルヴィアナからそんな話が出るとは思ってもいなかった。
しかしこのチャンスを逃す手はないと。
ディミトリーは、すぐに国王の執務室を訪れた。
国王である父も毎日執務に忙しい日々を送っていた。
王立学園を卒業してからは少しずつディミトリーに陳情や各領地の報告など出来ることを回すようになった。とは言っても最高責任者である国王の権限は大きく、父も執務官も目の回る忙しさだった。
ディミトリーはドアをノックして中に入るよう言われてすぐに問う。
「父上、少し時間を頂いてもよろしいですか?」
「ああ、もう終わりにするつもりだった。ダリオ悪いがお茶を頼む」
国王ニコライは執務官であるダリオに言った。
「はい、すぐに」
「どうしたディミトリーこんな時間に珍しいじゃないか」
「ええ、父上お疲れの所申し訳ありません。ですがこの話はもうあまり時間がない事ですので…」
ディミトリーは次の言葉を言いよどむ。
「なんだ?珍しいなお前がそんな顔をするなんて」
ニコライがそう言うのも当然だ。ディミトリーはこれまで父や執事たちの言う事には何でも素直に従って来た。
それが次期国王になるものの資質であり、またそうするように教育を受けて来た。
どんな事も理性的に感情をさしはさむことなく、どうすることが一番かを考えて行動をするようにと…
でも僕にだって感情はある。我慢の限界だってあるんだ。
「実は父上…僕は…僕はルヴィアナとの婚約を解消したいんです。いえ、聞いてください。僕だけではありません。ルヴィアナからもはっきり言われたんです。婚約の話はなかった事にしたいと、だから解消するならすぐにでも決断しなければと思い伺いました」
「何を…しかしあのルヴィアナが?それは本当か?」
ディミトリーは父に睨まれるような視線を向けられてつい顔を反らす。
「何か隠してるんじゃないのか?」
ディミトリーはいたたまれなくなる。ディミトリーは国王にとって唯一の男子で生まれた時から甘やかされ可愛がられて育って来た。
そのせいか優しい反面気が弱いところもある。
強い口調で咎められればつい相手の言いなりになってしまう事も多い。
だからこそルヴィアナのわがままや行き過ぎた行動にもはっきりした態度を示せなかった。
でも最近は特に、このまま彼女と結婚するのはどうにも我慢できそうにないという気持ちが勝っていた。
そんなところにルヴィアナが言ったのだ。婚約を解消したいと…
「いえ、僕はずっとルヴィアナの行き過ぎた態度に我慢の限界を感じていたんです。わがままで嫉妬深く、隠れたところで人を貶める。そんな女性と将来を共にするなんてもう考えられないんです。実はルヴィアナは今日図書館に遅くまでいたらしく、僕が迎えに行かなかったことに腹を立てて執務室に怒鳴り込んできました。僕はその時セリーナと話をしていて…またしてもルヴィアナの勝手な勘違いというか…自分の事を放っておくなんてと…ですが僕も仕事の上で話をしていたわけで…そして彼女がどうせお互い何の感情も抱いていない婚約なら解消したいと…ですから父上」
「何を言ってるんだ。ディミトリー、ルヴィアナが本心でそんな事を言ったと思うのか?嫉妬した女の言うことを真に受けるとは…そんな事で婚約を解消したい?ふざけるな!そんな話聞いている暇はない。話はそれだけか?」
「はい…そうですが。ですが父上」
「…そうだな。少しお互い頭を冷やした方がいいだろう。ディミトリーお前は明日カルバロス国に行く母上に同行しろ。カルバロス国王の具合が悪いと聞いている。やっとクレアが元気になったので明日から少しの間カルバロス国に出向くことになっている。お前もおじい様に顔を見せてやれ。そうすれば国王も元気が出るに違いない。カルバロス国に行って帰るまでには1か月ほどかかるだろう。その間にふたりとも結婚式に向けてしっかり気持ちを落ち着けるよう、ルヴィアナにはわたしからうまく話をしておこう。いいか?わかったかディミトリー」
「でも父上、その間の執務はどうするんです?」
「そうだな‥ああ、ランフォードにでも任せる。あれも怪我は治っているがまだ騎士隊に復帰はしていないはずだ。執務には慣れているしお前の変わりにはちょうどいいだろう」
「では父上、ルヴィアナにはしっかり考えを改めるよう言って下さるんですね?」
「もちろんだ。王妃にふさわしいレディーになってもらわなければ困るからな。だがお前も悪いんだぞ。はっきりした気持ちを伝えてやらないから彼女は不安なんだ。帰ってきたらきちんと愛していると伝えてやれ、そしてお前の態度も改めなさい。誰かれ構わず令嬢に愛想を振りまかなくていい。ルヴィアナを愛することに全力を注げ、それが何より良い夫婦となれる基本だからな」
「父上はどうなんです?母上を愛していますか?婚約者だった人を諦めたんですよね?」
ディミトリーはとうとう心にくすぶっていた気持ちを聞いた。
国王ニコライは一瞬戸惑った顔をしたが、すぐにディミトリーを真っ直ぐに見つめて話を始めた。
「ああ、もちろん戸惑った。いきなりの話でお互いの顔も知らなかった。もちろんそれはクレアも同じだった。でも私たちは夫婦とならなければならなかった。お互い不安や疑念はあってもそれを表に出すことがうまく出来なかった。わたしたちは夫婦といっても本当の気持ちを話したことはなかった気がする。それを長く続けているともう修復するのが難しい。だからといってクレアの事を思っていないわけではないんだ。長い間同じ時間を過ごしただけの情愛はある。まあ、私の事はいい。お前たちには、何でも話し合えて心から笑いあえるそんな夫婦になってほしいと思っている。ディミトリー、ルヴィアナは優しく我慢強いところもあるし、お前にはないところを持っている。お互い力を合わせれば素晴らしい夫婦になれるはず、そう思わないかディミトリー?」
「確かに…僕は上辺だけのルヴィアナしか見えていないのかもしれません。もっとお互いを知るべきなんでしょう。もう一度やってみるしかないみたいですね」
ディミトリーは大きくため息をついた。
「どうする?明日からカルバロス国に行くか?もちろん行かずにもっとルヴィアナと交流を深めるのもいいかもしれんが…」
別れ際のルヴィアナのヒステリックな声がまた脳内に響いた。今はとてもルヴィアナと話をする気分にはなれそうにない。
「父上、やっぱり明日母上とカルバロスに行ってきます。きちんと気持ちを整理してからルヴィアナとは向き合いたいので」
「ああ、いいだろう」
ニコライはそう言うと、書棚から琥珀色のウイスキーを取り出した。
お茶の入っていたカップを空にするとそこにウイスキーを注ぎ入れて一気に飲み干した。
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