第6話 奇病

【side:ルクス】


「その話ぼくも混ぜてくれるとうれしいですね」

「レオナルド王子……」

「そう固くならずに彼と同じ様に呼んでくれて構いませんよ」


 うぅ。流石にノクス君程肝が据わっている自信はないかなぁ……。


「言われてるぞ~」


 するとノクス君が茶化すように言ってくる。


「分かりました……。レオ君、でいいかな?」

「はい、ありがとうございます、ルクスくん」


 そう言って僕らは握手を交わす。


「ならついでにオレっちともよろしくしようぜ」


 僕らのやり取りに混ざってくるノクス君。やっぱり軽いなぁ……。


「あははぁ……」

「レオのおまけでいいじゃね」

「ちょっ、それはないぜ~」


 僕が苦笑いを浮かべ何も言えずにいると、ノクス君が何気に酷い事を言い始めた。

 少しずつ分かってきたけど、彼は言葉を選ばないようだね……。


「冗談だ、賑やかしは多い程楽しいからな」

「なんかオレっちに対して冷たくね!?」

「ふふっ」


 そんな二人のやり取りをレオ君は楽しそうに眺めていた。


「いいの? あれ」

「ノリスはあんなんですから、敬遠される事が多いんです。でも彼は避けようとしている訳でも、嫌っている訳でもない様子。なんだかんだ言って、ああいう風に真正面からぶつかってくる人は少ないですからね。彼とは良い関係が築けそうです」


 僕は気になってレオ君に聞いてみるも、そう返された。

 やっぱり彼は何者なんだろうか?……本当に人間か疑わしいくらいだよ。

 人間性を疑われているとはつゆ知らず、ノクスはレオナルドを見る。


「そういやレオの【匠工マスタースミス】って何が出来るんだ? やっぱり剣とか打てんのか?」

「そうですね。本国に居た頃は有名な鍛冶師に弟子入りしていましたから、それなりに経験はありますよ」

「オレっちが使う武器もレオ様が打ってくれた物なんだぜ」

「へぇー、それは凄いね」

「いえいえ、それほどでも……」

「謙遜する事でもないと思うけどな、それよりも頼んだら打ってくれるのか?」

「あ、僕もお願いしたいかも」


 いきなり過ぎただろうか? でも、僕も剣を新調したいと考えていたから、是非ともお願いしたい。

 ……今使ってるのは長く使っている物だし、流石にガタがきているからね。


「構いませんよ。幸い公務も少ないですし、優秀な外交官も連れて来ていますから……」

「さんきゅ。助かるぜ」

「いえいえ。それよりノクスくんも剣を? 魔法使いなのに?」

「ん? あぁ、俺のじゃねえよ。オリビアのだ」

「ああぁ、彼女の……」


 そう言って僕達はそろってオリビアさんの方を向いた。どうやら女性陣は女性陣で話が盛り上がっているみたいだ。


「と・こ・ろ・で……二人は付き合ってんのか?」


 ノリス君がノクス君の首に腕を回しながらそう問いかけた。

 僕とレオ君もその話が気になり、二人に近づく。


「ちけーよ、うぜーよ。あと顔近い……」

「まあまあ、そう言わずに」

「はぁ……。別に付き合ってもなければ、恋愛感情も無いぞ」


 呆れた風に言うノクス。「えぇ~、またまたぁ~」と茶化すノリス。


「そうなの?」「そうなのですか?」


 思わず聞き返すルクスとレオナルド。それに対してノクスは「そうなのです」と何事もないように言い返した。


「それに……あいつとは何処まで行っても幼馴染だろうよ」


 彼の呟きは、僕らには分からなかった。




 どうやら意外と時間だ過ぎていたようだ。既に教室には僕ら以外の姿はない。何時までもここで話し込む訳にもいかず、今日は解散となる。


「ぼくはこの後公務がありますから」

「当然、オレっちは付き添いだな」


 レオ君とノリス君は仕事があるようだ。やはり王子というのは大変なのだろう。


「俺とオリビアは色々買い出しに行かなきゃなー」

「そうね。私達がこの街に着いたのは昨日の夕方前だったから、生活周りの必需品がそろってないのよね」


 二人は結構ギリギリな到着だったらしい。だったら……。


「なら、うちらが案内しよっか?」

「いいの? リリィ」

「もちろんだよ! それにオリビアちゃんとも、もっと話したいしね」

「……どうする? ノクス」

「いいんじゃね、なぁルクス?」

「うん、僕も構わないよ。それで……」

「ここで私がいいえと、言えると思う? それにリリィが迷惑掛けないか心配だからね」

「流石に初対面の人に(イタズラ)したりはしないよっ」

「ますます怪しいのだけれども……」


 方針は決めて僕らは教室を出た。




 僕らは現在学園から商業区へ続く東の大通りを歩いていた。

 前列にはアイリス・リリィ・オリビアさんの女性陣が、僕とノクス君はその後ろを歩いている。

 そして今の話題は僕の体質についてだった。


「そう。正確には〈魔力放出不全症〉といってね、前例がない訳じゃないけど、それでもやっぱり珍しい奇病みたいだね」

「具体的にはどんな感じなんだ? 全く魔法が使えない感じか、それとも少しは使えるのか?」

「全く、だね。なんて言えばいいんだろう……そう、魔力が身体の外に出ないで、ずっと体内で燻っている感じかな? ごめん、感覚的な事だから上手く伝えられないけど……」

「いや、大体分かった。(となるとあの不自然な魔力の挙動は【魔法剣士ルーンセイバー】だからという訳でなく体質によるものか。……しかし、俺のとはまた別の――)」


 話している途中でノクス君は顎に手をあてて考え込んでしまった。

 しかしなぜ彼はこんなに熱心に聞きたがるのだろうか? 僕は気になったので、失礼かとは思いつつも聞いてみる事にした。


「聞いてもいいかな? どうして君はそんなに知りたいの?」

「(一口に魔力と言っても、魔力は気力とは違い複数種類存在している。属性魔力にはそれぞれの性質があり、その性質が悪さをしていないとも言い切れない――)」

「あ、あのー。ノクス君?」


 歩きながら、そして話しながらここまで考えこめる人を初めて見たよ。僕は困惑と呆れを混ぜた顔で彼を見つめる。

 そしてどうやら僕達の会話は前方にも聞こえていたらしく……。


「すごいわね、ある意味」

「いや~、アイちゃんもある意味同類……」

「ごめんなさい。これの悪癖を私では矯正できなかったの」


 アイリスは呆れ半分・関心半分といった感じで。対してリリィはアイリスも同類だと言う。そしてオリビアさんが謝っていた。


「3人とも、これに遠慮は要らないわ。こんのっ」

「(特に氷属性なら可能性は高そう――)痛って!?」


 オリビアさんは容赦なくノクス君の脛を蹴った。不意打ちでもろに喰らったノクス君は思わず飛び上がった。うわぁー痛そう……。


「えげつないわね……」

「流石のうちもこれはちょっと……」


 アイリスとリリィは若干引いていた。かくいう僕は二人の距離感がかなり近い事に驚いていた。やっぱり幼馴染とはこういうものなのだろうか?


「オリビア~。とっても痛いんだが?」

「知らないわよ。話している最中に考え込まないのっ。まったくもう……」

「あれ? まじ……。わりぃルクス」

「う、ううん。平気だよ」


 思わず声が震えてしまった。なんせ一連のやり取りが当たり前のようにスムーズで、二人共平然としていたからだ……。


「そんで? 何だったか?」


 ルクス君は首を傾げながら聞いてきた。


「いや、なんでそんなに気になるのかなって……」

「うん? ああぁ……それは俺も原因不明の奇病を患っているからだな」

「!?……そうなの?」


 僕だけでなく、アイリスやリリィも驚いている様子だった。特にアイリスは興味を持っているみたいだ。


「それはどんなのかしら?」

「俺は〈魔力劣化症〉と呼んでいる。これは魔力が自然劣化して何もしなくても魔力を消耗する奇病でな、神殿の神官どもも知らん感じだった。こいつの所為で常に魔力の自然回復を行っているからか、結果的に魔力の回復速度が遅いんだよ。お陰様で魔力を節約しなくちゃいけねーしなぁ……」


 聞いた事の無いものだった。僕もこの奇病を解決する為にいろいろ調べられたけど、そんな症状の病は聞いた事も無かった。


「私もしらないわ、そんな病……」

「それって〈魔力放出不全症〉と同じくらいヤバイじゃないですか!」


 そして魔法使いでもあるリリアナはその奇病の脅威にいち早く気づいたのだった。


「だろうな。体感だけど、たぶん【低位クラス】じゃまともに魔法も使えないと思う。幸い俺のは【魔法系高位クラス】の中でも魔力総量・魔力回復量共にトップクラスだろうから、何とかなっている感じだけどな」

「【大魔導士アークウィザード】って確か、全属性が使えて魔力も一番多い代わりに、属性魔法では特化型に劣る感じでしたっけ?」

「だな。学園に来る道中、護衛の傭兵が使う魔法を見たけど、普通に使えば劣ると感じたな。多分だけど状況に応じて属性を使い分けるのが真骨頂なのだろうな」

「汎用性と専門性ってことなのかな?……でも常に属性有利が取れるのは羨ましいなっ」

「まぁ、俺の場合肝心の手数が用意できねぇんだけどな」

「それは! 確かにヤバイですねぇ」

「だろ? まあそこは工夫次第、だがな」

「お! 自信あり、って感じですか!」

「ああ。例えば風魔法なら――」


 いつの間にかリリィとノクス君は魔法談義に花を咲かせていた。二人共魔法使いだからか、それとも元々相性がいいのかもしれないね。


「オリビアさんは当然、知っているんだよね?」

「ええ、村に居た頃から悩んでいるみたいだったから」

「アイリスはどう思う?」

「興味があるわ。同じ魔力に関係した症状。もしかしたら解決の糸口になるかもしれないわ」

「アイリスって医者? 学者? なの?」

「どちらかというと学者かしら? 兄さんの奇病を治す方法を探しているの。それに私は【錬金術師アルケミスト】だから」

「凄いわね、アイリスは……(ちょっとノクスに似てる感じがするわ)」




 そんな風に話していると僕らは商業区に着いたのだった。

 二人の買い物に付き合ったり、途中休憩と親睦を深める為にカフェでお茶をしたり、僕ら楽しんだ。


「まだ時間はあるし、最後にちょっと寄りたい所があんだけど」

「僕は構わないよ」

「ですです」

「いいわよ」

「まだ何かあったかしら?」


 ノクス君は歩き出しながら言う。


「総合ギルドだよ」

「ああ。それってもしかして傭兵登録をしに?」

「そそ。やっと成人したからな、つうーか未成年じゃ登録できないってどういう事だよ」

「それは仕方がないよ。危険だからね」

「くそぅ。ラノベでは幼少期から無双して『なんだ! あのガキは!?』ってなるのがお約束なのに……」

「??」

「気にしなくていいわよ。いつもの事だから」


 えぇー。何を言っているのか分からなかったけど、オリビアさんは気にしなくてもいいと言っていたのでとりあえずは触れない事にした。

 なんというか、……その、ノクス君は大分不思議な人のようだ。


「言葉を選ぶ必要は無いわよ。変人だから」オリビアさんは心を読んだかのようにそう言ってきたのだった。


「そうだ、オリビアはどうする?」

「私? そうね……でも学業の方も疎かにしたくないし」

「でも金を稼げば装備だって新調できるし、おじさん達にも仕送りが出来るんじゃないか?」

「うっ……それは、魅力的……だけど……」

「なぁ、3人が勉強教えてくんね?」

「もちろんいいよ」


 せっかく出来た友達。貴族の友達って少ないから、こういうのに憧れがあったんだよね。それにノクス君たちは魔法が使えないからって勝手に落胆したり軽蔑したりしないからね。


「私も構わないけど、ノクス。貴方にお願いがあるの」

「なんだ?」

「貴方の体質についても調べさせてほしいの」

「構わないぞ。というか、そこは共同研究と行こうぜ。他にも作ってもらいたい物もあるしな」

「ありがとう。……それで私に作ってほしいものって?」

「いろいろあるけど、魔法道具だよ」


 そう言って彼は懐から小さな杖を取り出した。持ち手の部分に魔法触媒が埋め込まれている。


「それは?」

「村に居た魔法使いの人のお下がりだよ。いろいろいじってるけど、俺だとこれが限界でなぁ」


 そう言ってアイリスに杖を渡すノクス。


「これは……!? 貴方魔法触媒の刻印をいじったの!? こんな刻印は見たことないわ……それでいてちゃんと機能している……」

「そうだよ、オリジナル。効果は魔法の複製。火力を上げる為なんだけど……ぶっちゃけ失敗作」

「なんでですか? って、ああ……」

「そゆこと」


 どうゆうこと?


「俺は魔力不足に悩んでんのに、更に燃費悪くしてどうすんだって話」

「なるほど……」


 ノクス君の言葉に納得した。確かにそれじゃあ使い勝手は悪いだろう。


「低予算・低資源ではこれが限界でな~。まぁ、それはそれとして割り切ったんだけど。で、他にもいろいろ作りたいわけよ。その為の資金はこれから確保するとして、腕のいい職人もちょうど欲しかったんだよなぁ」

「そういう事ね。私も構わないわ。この刻印すごく興味深いし……」

「アイちゃんが褒めるなんてそうとうだよっ」

「まぁ、そんな感じでいろいろ頼むわ。……っていうかいつまで悩んでんだよ」

「仕方ないじゃない!……はぁ。悪いけどお願い出来るかしら?」


 オリビアさんの言葉に僕らは頷く。勉強を教えるくらいどうという事はないからね。

 こうして僕らは話しているうちに総合ギルド会館の前まで来ていたのだった。

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