転生魔王と末裔勇者の騒々譚~そんな二人は欠陥生~

久遠夢珠

入学編

プロローグ

初めまして久遠夢珠です。今回初めて筆をとった作品となります。拙い所が多いかもしれませんが楽しんで頂けたら幸いです。

―――――――――――――――――――――――――――――




 草木が鬱蒼と生い茂り、季節柄未だ雪の積もるとある森の中。そこには一人の少年の姿があった。年の頃は16にもなったばかりの若者だ。ここら辺では珍しい、否この世界では見かける事の無い黒髪黒目であった。そしてその白い肌はまるで令嬢のようだ。平均的な一般平民がする格好をしており、はっきり言えば場違いと言ってもよい、少なくとも森に踏み入れる姿ではなかった。

 この森には肉食動物のみならず、魔獣も縄張りを持つ危険な領域だ。更に言えば今少年がいる場所は森の深い所であり猟師であっても決して踏み入れない、自然が猛威を振るう獣の楽園であった。そんな場所に青年は鼻歌交じりに軽々と森を走破する。よく目を凝らせば青年の身体は地面より若干浮いていた。


「ふんふ・ふんふ・ふーん。お! この辺かな?」


 少年は一度立ち止まると辺りを見渡しながらそう呟いた。


「≪エアロサーチ≫……いた。魔獣の数は七、いや八……かな。結構いるね、これは当たりかも」


 少年は嘯く。

 本来、異なる種類の魔獣が群れる事は無い。むしろ縄張り争いをするのが常だ。しかし現にその場所には魔獣が争う様子もなく固まっていた。

 少年は慎重に近づいていく。そして遂には視界にも魔獣の姿をおさめた。


「魔獣の素材は惜しいんだけどなぁ……。しょうがない、どうせ持っていけねーからな。マジックバック的なのが欲しいよな~。そういう系の便利アイテム。……まぁいいや。時間も無いし、あんまり遅くなると怒られるから、目的の物だけ回収して帰ろう」


 そう言うや否や少年は更に近づく。そして懐より一本の杖を取り出した。この世界の者は知る由も無いが、それは少年が記憶を掘り返して村の職人に作って貰ったハリ〇タ風の杖だった。尤も、この世界で杖としての特性を持たせる為にグリップの部分にはアメジストのような色合いの結晶が埋め込まれていた。

 少年は半身に構え、右手に持った杖を前方に突き出す。そして腕を時計回りに回転させながら≪魔術≫を使う。


「≪ファイアボール≫」


 少年がそう唱えると円の軌道上に計五つの青い炎の球が浮かび上がる。一つ一つが並の人間や動物なら確実に殺せるだけの熱量を秘めていた。余熱で周囲の雪が解けていく。少年が腕を振るい指示を出す。目標は杖の先、魔獣の群れに。

 勢いよく射出された炎の球は群れの真ん中に着弾。その秘められた熱量を解き放ち周囲を舐めまわすように燃やしていく。突然の奇襲に断末魔を上げる魔獣達。しかし、倒せたのはその内の二匹のみだった。

 されど少年は予想していた様に次の行動へ移る。自身の前方地面に向かって左腕を突き出しながらまたしても≪魔術≫を発動させる。


「≪アイスウォール≫」


 すると純度の高い、透明な氷の壁が出現した。

 魔力の反応から襲撃者の存在に気づいた魔獣たちが一斉に飛び出した。


「まずは二匹……≪ウォータースライス≫」


 少年は高く飛びあがった灰色の羽毛を持つ二匹の大鳥の魔獣に狙いを定めた。右腕を頭上に掲げ、反時計回りに杖を振るう。すると二つの水球が浮かび上がり三日月の様な鋭利な形となる。再び杖を振るえばそれぞれ回転しながら半円の軌道を描き大鳥へ向かって進む。

 それが攻撃だと気づいた二匹の大鳥は身体の表面に氷の膜を張る。魔力が込められたその薄氷は厚さに反して高い強度を誇る。しかし、圧縮された水の刃はまるで紙のように氷の膜を切断してそのまま大鳥の首さえも断ち切る。首を切られた二匹の大鳥の魔獣は絶命し、重力に従って落下したのだった。


 しかし、その一瞬の隙を突いたのはそれぞれ茶色と赤色の体毛を持つ二匹の狼だった。恐るべき爪と牙で、いざ獲物に喰らいつかんとした時、見えない壁に勢いよく激突する。


「「キャインッ!?」」


 思わぬ障害に情けない声を上げる狼たち。透明にして無臭、そして熱の移動さえも起こらない氷の壁を認識する事が出来なかったのだった。

 そうして作られた隙を逃さすハンターはいない。少年は左手を氷の壁に添える。


「≪サンダーパルス≫」


 少年が呟けば氷の壁を貫通して電流が流れる。その電気は氷の壁越しに狼たちへと流れ麻痺を引き起こす。少年は動けぬ狼たちへ向かって両手をかざして次なる≪魔術≫を発動させた。


「≪ソールバニッシュメント≫」


 痙攣して動けない狼たちの頭上に太陽の輝きが落ちる。太陽光を収束させたレーザーにて二匹の狼たちは蒸発し、原型を留めぬ程にその身体を破壊されたのだった。更に二匹、仕留めたのだった。


「おっと!」


 何かに気づいた少年は軽やかにステップを踏んでその場から飛びのく。すると先程までいた場所には突然白色の体毛を持った大猿が現れたのだった。光によって姿を風景に溶け込ませ、猿特有の軽々とした機動力で青年の背後に回り込んでいたのだった。

 しかし少年には見えていた。例え視覚には映らずとも、魔力の不自然な動きをはっきりと認識していたのだった。


「≪ホバームーブ≫……使ったままにしておいてよかった」


 そうごちりながら少年は軽やかな動きで態勢の整えると左手を大猿に向ける。


「≪クリスタルランス≫」


  掌の前に氷の槍が形成される。氷の槍は魔力という推進力を得て放たれ、大猿の胴体に深々と突き刺さる。更には突き刺さった個所から周辺に氷が発生し、身体の大半を凍らせてしまったのだった。


 少年は瞬く間に魔獣の群れを全滅させた――――――否。


「これにて終了……ってな訳にはいかないよなぁ」


 未だ燃え続ける炎の中から巨大な熊の魔獣がゆっくりと這い出て来て咆哮を上げる。そして勢いよくその腕を振りかぶり、周囲の炎を消したのだった。


 他の魔獣が戦っている間、その熊は戦いには参加せず炎を隠れ蓑に少年の戦い方を観察していたのだった。この熊はただの魔獣ではない。知恵を身に着けた古き魔獣だったのだ。この熊にしてみれば他の魔獣は仲間などではなく、ただ縄張りを共有していただけでしかなかった。いざという時に役に立つ、そんな思惑で見逃していたに過ぎない。この熊の魔獣からすれば襲撃者の手の内を明かして死んだ魔獣は役に立った上に縄張りが広くなったとほくそ笑んでいるに違いない。この様に古き魔獣は強さだけでなく狡猾さまでも身に着けているのだった。


「移動分の魔力を考えると……足りるかなぁ……。まぁいいや、来いよ熊公」


 右手の指を曲げて挑発すれば、熊は雄たけびを上げ全身に炎を纏いながら突進してくる。その余熱で周囲の雪は瞬く間に溶けて消える。

 少年は距離を取りながら≪魔術≫を行使する。


「火と言ったら水! ≪ウォータースライス≫」


 大鳥の魔獣の首を切り落とした水の刃は、その炎によっていとも容易く防がれたのだった。


「ちっ、水量が足りん!」


 勢いよく突進をして来る熊を躱しつつ、少年は次なる手を考える。


「なら、≪アイスウォール≫」


 今度は氷の壁を出現させ足止めを狙う。

 しかし熊は更なる炎をその両腕に纏わせると、思いきり振りかぶり氷の壁を破壊したのだった。そして追いつめたとばかりの表情を浮かべる。


「知ってたよ。≪マザーハンド≫!」


 熊は氷の壁を破壊するのにその動きを止めていた。少年が恐れていたのはその体躯を活かした強烈な突進だけだったのだ。

 熊の足元から巨大な土の柱が二本もせり上がり、大きな腕を形成する。そのまま土の腕は熊の身体に憑りついた。


 初めて見る攻撃に戸惑いを浮かべながら振り払おうと藻掻く熊。しかし突進の勢いは既に失われ、魔力によって固くなったその土の腕は全身の動きを阻害するように憑りついている為に、中々振り払う事が出来ずにいた。

 ここにきての新しい≪魔術≫。全ては少年の計算した通りの流れだったのだ。所詮は獣の悪知恵に過ぎず、知恵比べで人に勝てる道理はなかった。

 そして少年は思いっきり熊から距離を取ると最後の≪魔術≫を発動させる。


「自分の炎で死に絶えな! ≪オキシジェンゾーン≫」


 熊を中心として空気の膜が生成される。そして次の瞬間――轟音と共に恐るべき大爆発が起きたのだった。

 土の腕を溶かそうと魔力を込め、より多くの炎を纏う熊の周りには、大量の酸素が充満していたのだった。これこそがこの≪魔術≫の恐ろしき点だった。少年は知っていたのだった。炎が何を燃料としているのかを……。


 爆発によって大量の土砂が周囲に降り注ぐ。少年は慌てて≪魔術≫で身を守った。


「うへぇー。危うく泥塗れになるところだったぜ……しっかし、とんでもない威力だったなぁ」


 少年は頭を振りかぶり気持ちを切り替えた。


「さってとー。お宝何処かなー」


 少年は周囲を見渡す。すると大爆発の跡地から目的の物を発見した。そこは最初に魔獣たちが居た場所だったのだ。

 少年は近づきそれを手に取る。それはアメジストのような輝きを放つ拳大の結晶だった。


「魔法触媒ゲットぉ!……はぁ、疲れた、帰ろ」


目的を達し喜ぶ少年だが、一瞬にしてテンションを下落させたのだった。ここに来るまでの移動と魔獣との連続戦闘は、少年には魔力以上に体力を消耗させる行為だった。

 そうして少年は一度溜息を吐くと、行きと同じようにして森を走破したのだった。




 陽が傾き始めた頃、ようやく村に到着した。少年は柵を飛び越えてこっそりと村に入る。そして何事も無かったかのように家に入ろうとして、住居人の少女に見つかったのだった。


「おっそい! 新年早々何処行ってたのよっ……ばかノクス!」

「…………やぁオリビア。良い天気だね?」


 一瞬考えて、少年は誤魔化す事にした。


「いい度胸ね……」


 しかし短めの茶髪の髪を持つオリビアと呼ばれた少女は、額に青筋を浮かべながら笑う。しかしその目は一切笑っていなかった――。






 晴々とした晴天が見守る中、三台の馬車が甲冑を着た騎士達に守られながら道を進む。最後尾の一台は荷馬車であり、新天地で暮らす為の生活用具が運ばれていた。そして他二台には豪華な装飾が施されている貴族専用の馬車だった。その三台の馬車にはとある貴族家を示す〝杖と剣〟が交差した紋章が施されていた。

 この国、否。この世界においてこの紋章を持つ家はただ一つしか存在しない。ブレイブハート勇爵家――勇者の末裔の一族を示す紋章だった。


 真ん中の馬車、その中にはとても良く似た兄妹が居た。共に綺麗な銀色の髪を持っており、兄の方は短めに切られており、よく見れば貴族の子息とは思えないほどしっかりとした体付きをしている。一方妹の方は丁寧にていれがなされ、その長めの髪をクラウンハーフアップに整えている。


「よく馬車の中で本なんか読めるね」


 少年は言う。幾ら貴族用の高級馬車とは言え、慣れない者が車内で本を読めばたちまち酔う事になるだろう。


「暇なら寝てれば?」


 少女は顔を上げずにそう返した。ぱさり、とページを捲る音がなる。


「うーん。今寝ると夜眠れなくなりそうなんだけどなぁ……」


 そう言って所在なさげの少年は窓の外を見る。道の左右には森が広がっており、綺麗な自然が視界に映る。


「?」


 しかし、少年は森の奥から立ち上る砂煙を発見する。どうやら少年だけでなく護衛の騎士達も気が付いたようだ。俄かに騒がしくなる外の様子に、少年は少女に声を掛ける。


「もしかしたら戦闘になるかも」

「そう……」


 少年の声に少女は一言返し、読書に戻る。この場は任せるという意味だった。少年は苦笑いを浮かべながら立てかけてある剣を手に取った。


 騎士達はこの距離では逃げ切れないと判断し、迎撃をすべく馬車を止める。それに合わせて少年は馬車を出た。


「これは坊ちゃま! 我々に任せて頂いても構いませんのに……」


 40手前の熟練騎士が少年に向かって言う。


「あはは……実は馬車の中が退屈で仕方なくってさ」

「はっはっは。長旅とはそういうものですぞ」


 少年は苦笑いを浮かべながらい言い、熟練騎士は笑いながら返した。

 二人が話している内に砂煙はどんどん近づいてきて、遂にはその正体を現した。それは狼の群れであった。

 どこか焦った様子の狼達に、騎士達は怪訝な表情を浮かべながらも迎撃する。少年も鞘より剣を抜きだすと軽く構えたのだった。


「ふぅー」


 軽く深呼吸をして意識を集中させる。少年は体内の気力と魔力を活性化させると全身に循環させる。すると少年からオーラのような気配が立ち上がった。


「〝混星氣・出力20%〟――ハッ」


 まさに一閃。恐るべき速さで駆け出し、すれ違いざまに三匹の狼を切り捨てたのだった。

 少年と騎士達の活躍により狼達は次々にその数を減らしていく。そして遂には群れの長と思しき黄色い体毛を持つ狼のつがいが姿を現した。


 驚くべき事にその二匹の狼は共に魔獣だったのだ。番の狼は怒りと焦りを浮かべながら全身に雷を奔らせ、最も弱そうな若手騎士に襲いかかった。若手騎士は恐ろしさに身体を竦ませてしまう。雷を纏った二匹の狼は恐るべき速さで駆けだしており、騎士達も反応する事が出来なかった。


 若手騎士はつい目を瞑ってしまった。しかし、何時までたっても痛みは感じられない。恐る恐る目を開ければ、そこには少年の姿があった。

 少年は狼たちの狙いに一早く気が付くと、瞬く間に距離を詰め両者の間に割って入ったのだった。これには流石の狼たちも驚きと警戒で足を止める。


「悪いけど終わらせるよ」


 少年はそう呟くと駆けだした。狼たちは雷を放出して迎撃をする。二匹分の雷は見事、少年に直撃する。しかし少年は驚くべき事に何事もなく駆け抜け、すれ違いざまに二匹の首を切り落としたのだった。


「ふぅ、これでお終いかな?」


 少年は辺りを見渡し、残党がいない事を確認する。


「全く、先程は冷や冷や致しましたぞ」

「あはは……」


 やってきた熟練騎士の言葉に苦笑いを浮かべる少年。


「ほれ、ボーっとしてないで感謝を述べんか!」


 熟練騎士はそのまま若手騎士の背中を叩く。ハッとした若手騎士は興奮した様子で少年に感謝の言葉を告げる。


「あ、ありがとうございました! ……その、先程はかっこよかったです!」

「無事で何よりだよ」


 少年は何て事ないようにそう返した。


「全く、騎士が守るべき者に守られてどうする……それにしても、妙ですなぁ」

「そうだね。どうして狼達はこんな無茶な移動をしたのかな?」

「何やら焦っているようにも見えましたが……」


 本来狼はとても狡猾な生き物だ。武装した人間の集団相手に突撃するような事はしない。しかし現に狼達はこの集団を迂回せず、それどころか犠牲を厭わずに突っ込んできたのだった。

 不可解な状況に少年と熟練騎士が話していると、森より木々の倒れる音が響いてきたのだった。


「これはっ!!」


 そうして姿を現したのは一軒家程の大きさのある巨大な大猪だった。茶色い体毛を持つその大猪は土属性の魔獣だったのだ。

 そう、あの狼の群れはこの歩く災害の如き大猪より逃げていたのだった。一行が襲われたのは逃げ出した先に集団が居たからに過ぎない。


 猛然と進み続ける大猪。今から逃げ出す事は叶わない。さらに言えば、このまま激突すればどれほどの被害が出ることか……。


「〝混星氣・出力50%〟」


 少年は意を決して前に出る。周囲の静止と悲鳴を他所に、少年は腰をしっかり据えて力を充溢させる。

 そして大猪が少年を突き飛ばさんと激突する瞬間――


「ハッ!」


 左腕を勢いよく突き出して大猪を押さえつける。大猪の突進に後ろへ引きずられながらも、遂にはその勢いを完全に受け止めたのだった。

 まさに人外の膂力。少年はそのまま右手に持った剣を大猪の首に突き刺し、そのまま捻り抜き取る。傷口より血を噴き出しながら、大猪はその巨体をゆっくりと倒したのだった。


「す、すごい」


 誰かの声を他所に、少年は後処理を騎士達に任せると馬車の中へ入っていった。


「おつかれさま、ルクス兄さん」

「ありがとう、アイリス。…………ふぅ、運動不足の解消にはなったかな?」


 アイリスと呼ばれた少女が少年に水筒を手渡す。


「相変わらずの化け物っぷりね」


 少女の労いにそう嘯く少年。

 かくして道中のトラブルを乗り越えながら一行は目的地へと向かうのだった――。






 光陽の月。それは始まりを告げる季節。新しき出会いを迎える月。

 王立ラピス学園には今、新入生で溢れていた。家紋が施された馬車から降りてくる若き貴族の子息達。交流のある者達は互いに挨拶を交わし、そうでない者達に対しては見栄を張る。誰もが貴族という身分に誇りをもって、お家の恥にならぬ様、僅かな緊張を見せながら巨大な校舎の中へと入っていく。

 されどここは貴族用の馬車のロータリーがある、東の大手門。こことは反対の西には平民用の校門が構えてあった。

 一方の平民達は学園の大きさに驚愕し、恐る恐るといった様子で中へと入っていく。今まで経験した事の無い生活が待っていた。


 王立ラピス学園はその名が示す通り、国王が学校長を務めるシャングリラ王国が誇る唯一の学校だ。貴族からの寄付金が毎年寄せられてはいるものの、その運営は国王直下。この学園の目的は若き貴族達の学び舎にして小さな社交の場。そして何よりも、優れた【クラス】を発現させた平民を取り立てる最大の場でもあった。

 そんな学園に、今年は風雲巻き起こす二人の新入生の姿があった。


 一人は平民の少年。魔法系高位クラス【大魔導士アークウィザード】を持つ者だ。村では神童と呼ばれ噂にもなっていた。しかしその少年には欠陥があった。

 〈魔力劣化症〉――それは前例のない未知の奇病だ。魔法を使わずとも魔力を消費してしまい、結果魔力の回復を著しく低下させるというもの。魔法使いとして魔力は戦闘力に直結する重要な要素だ。魔力が無い魔法使いになんの存在価値があろうか? この病はそんな根底を揺るがす恐るべき病気だった。

 故に少年は落胆した。されど少年は探求をやめなかった。一滴の魔力も無駄遣いしまいと、どうしたらもっと効率の良い魔法が使えるのか? 奇人変人と呼ばれようが研究の末、あたらしい魔法技術、則ち≪魔術≫を編み出したのだった。そんな少年の名前は――ノクス・ベルフォード。いずれ〝無法の魔術王〟と恐れられる魔王だ。


 一人は貴族の少年。隔絶たる【魔法剣士ルーンセイバー】のクラスを持ち、世界に不変の偉業を打ち立て〝勇者〟と称えられた英雄、その末裔にしてかつては勇者の再来とまで言われた少年だった。しかしその少年には欠陥があった。

 〈魔力放出不全症〉――それは【魔法系クラス】を発現した者が稀に発症する奇病だ。この病はただ魔力を体外に放出出来なくなるというだけのもので、命に別状がある訳でも無い。しかしある意味では命より重い病と言えるかもしれない。魔力を放出出来ないという事は、則ち魔法が使えないという事を意味する。魔法が使えない魔法使いになんの存在価値があろうか? この病はそんな根底を揺るがす恐るべき病気だった。

 故に少年は出来損ない、欠陥品などと馬鹿にされ、期待が大きかっただけに実の親にすら見限られてしまっていた。それでも少年は腐らず、自分だけの勇者像を追い求め努力を続けていた。そんな少年の名前は――ルクス・フォン・ブレイブハート。いずれ〝無窮の英勇王〟と称えられる勇者だ。




 そんな正反対で、それでいて誰よりも似ている二人はここ、王立ラピス学園にて運命の出会いを果たす。

 これは欠陥を抱えた二人の少年が、己が欠陥を抱えながらも、いずれ最強になる物語。そして遥か後世に『魔王と勇者の物語』として語り継がれていく、神話と伝説の狭間の物語だ――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る