第84話 ヒーローは遅れてやって来る

「朱鷺君…ごめんなさい」


 めちゃくちゃ嫌そうに謝られたよ。

 もう面倒くさいから良いけどさ。

 舞菜香さんから、早良さん並みのヒンヤリオーラが出てるよ?


「ヒノリ?貴女はそんな謝罪の仕方でも許すのかしら?」


 ヒッと息を飲むヒノリ。

 何か面白くなってきた。


「いいんです、舞菜香さん。謝罪はして貰わなくても、俺は気にしてませんので。ただ、ヒノリさんは面白くないようですので、今日はこれで失礼します」


 一礼して、帰るフリをする。


「待ってよ朱鷺君!ごめんなさい!朱鷺君に忘れられてたのが悔しくて、ちょっと意地悪したかっただけなの!」


 なるほど?

 俺が忘れてたのが悪いと?


「ああ、俺も忘れてたのは悪かったよ。まさか男の子みたいにボクって言って、サブマスに馬乗りしてたノリノリが、女の子だとは思わなかったもので、気付かず傷付けてごめんね?」


 真っ赤になって口をパクパクしてるヒノリに、ちょっとスッキリした。


 そういえばノリノリも、からかうと真っ赤になってたな。

 でも、何かまだ忘れてる気がする。

 まぁ思い出せないなら、大したことではないんだろう。


 爺ちゃん達の呆れた視線は気にしない。


 何か今日の同クラ女子といい、ヒノリといい、自分の興味を満たすために、人にズカズカ踏み込んでくるタイプが嫌なんだよね。


 まぁ、なんやかんやあったけど、結局ダンジョンに一緒に行く事になったよ。


 あのままフェードアウトでも良かったのに、俺の思惑に気付いた爺ちゃん達に取り成されてしまった。


 ちぇっ。


 二手に別れて車で行く事になったから、父さんの運転する我が家の車に早良さんが同行してる。


 最初はギルドの車で、早良さんが運転するって言ってたけど、父さんが自分が運転するからと断った。


「この時間でお二人にも、朱鷺君のスキルについて少しお話しておきます。簡易的な結界ですが、認識阻害と音遮断を張ります」


「わかった」


「うむ」


 え~早良さんてば結界も張れるんだ?

 もう張ったの?


 サブマスのはオーロラみたいな透ける光のドームだったけど、早良さんのは何にも見えないな。


「まず朱鷺君のスキルはガチャと言います。世界に1つしかないユニークスキルです。ユニークスキルと判ったのは称号があるからです」


 爺ちゃん達の反応は予測してたのか薄いな。


「それで、このガチャにはスキル妖精と言う存在が付属していました。朱鷺君のサポートをする存在です」


 この情報にも反応はない。

 いや、タイムラグがあっただけだな。

 正気か?みたいな顔をしてる。

 俺も誰かに妖精がいたなんて言われたら正気を疑うよ。


「このスキル妖精が、ステータスやスキルと職業について教えてくれた事が、昨日の記者会見の内容です」


 この情報には、驚いた後に納得した感じで頷く。


「それで、ヒノリさんのスキルについても、その妖精に確認してもらいながら検証する事で、ヒノリさんの安全に繋がると思ったのです」


「質問しても良いかの?」


「どうぞ、巧乃たくないさん」


「その妖精はワシらにも見えるんかの?」


「普通は見えないのですが、朱鷺君が許可をすれば見えます」


「なら、今も近くにいるのか?」


「いえ、今は消えて貰ってます」


「なるほどな。ワシらに依頼をしたのは、朱鷺のためか?それともワシらのスキルや職業についても、聞きたかったからか?」


「敵わないですね。両方ですよ。サンプルが多いと危険な職業の傾向が判りますから、対策も取れます」


「相変わらず食えない男じゃの」


「ギルド職員として、皆さんの快適な探索活動を支援しているだけですよ?」


「まぁ最高統括責任者グランドマスターともなれば、そこまで考えねばならんのだろな」


 な、なんだって~!?


「ええっ!?早良さんグラマスだったの?でもテレビで見たグラマスの顔と違うよ!?」


「もう、何でバラすかなぁ?もっとここぞって時に言おうと思ってたのに、酷いよ巧乃さん」


 ええ!?早良さんが敬語じゃない!?


「ほら2人とも、朱鷺が驚いてるぞ?ちゃんと説明してやれ」


 父さんも知ってたんだ?

 いや、A級なら当たり前なのか。


「ふふっトキは優太サブマスの事も忘れてるくらいだから、オレの事も覚えてないよね?」


 ええ~早良さんがオレって言ってる?!

 しかも俺とサブマスを呼び捨てだし。

 もうこれ以上の情報はキャパオーバーだよ!


 どゆこと?昔会った事あったの?

 早良さんも父さんのパーティーにいたの?


「ホントに覚えてない?オレの事をコーチャンって呼んで、凄い懐いてくれてたのに」


 コーチャン?

 え?コーチャンなの?

 ハクハクと口を動かしてるのに、声が出ない。


 だってコーチャンは…

 俺の知ってるコーチャンは…


 銀髪をツンツンに逆立てた俺のヒーローだぞ!

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