緊急依頼

 放課後、帰る用意していた俺をいきなりアイリスが腕を掴んで、教室から連れ出した。


「緊急任務?」

「ああ、先程異能機関から異能持ち同士の戦いが始まったという連絡が入った。どちらも機関に登録の無い異能持ちだ。だが、男の方は今私が追っている組織の幹部だ。これはまたとないチャンスだ。奴を捕まえるぞ」

「お嬢様、すでに用意は出来ております」

「ああ、分かった」


 シャーロットの言葉にアイリスが返事を返す。

 そうして任務について聞いているうちに、いつの間にか校門の前に停車していた黒い車に乗り込まされる。

 そして車を走らせること数十分、俺達は廃ショッピングモールに到着した。


「またここかよ……」


 車から降りた俺は廃ショッピングモールを見上げる。


「いたぞ、あそこだ!」


 アイリスの指差す方向を見ると、そこには二十代前半くらいの青年と、セーラー服をきた亜麻色の髪をポニーテールにした女子高生がいた。

 情報通り二人は戦っているが、女子高生の方は苦戦しているようだ。


「行ってこい伊織!」

「あのさ、そう言えば思い出したんだけど、俺異能の使い方……」


 異能の使い方知らないんだけど、と言おうとした瞬間、アイリスに言葉を遮られた。


「いいからさっさと行ってこい!」


 バシン! と背中を押されて送り出される。


「くそっ、人遣いが荒い……!」


 ああ、こうなったらヤケだ。

 俺は前に進み出て、青年と女子高生の間に入った。


「おわっ、なんでござるか!?」

「えっ、割り込みかよ!」


 女子高生も男の方も、いきなり割り込んできた俺を見て驚いた表情になる。


「ごさる……? まぁいい、それよりもあんた、こいつの代わりに俺が相手になってやるよ」


 目の前の青年を指差し、俺はそう宣言する。


 すると青年は目を見開いた。

 青年の纏う雰囲気が、一気に変わったのが肌で分かった。


「て、ことは、『決闘』か……?」

「は、決闘?」

「今、一対一で戦うって言ったよな!? なっ!?」

「え、ああ、うん……」


 目をガン開いて何回も聞いてくる青年が暑苦しかったので、思わず適当に相槌を打ってしまった。


「いよぉっしゃぁっ!!」


 すると青年はガッツポーズをして、俺を指差した。


「じゃ、俺とお前で一対一の決闘で決まりだ! 『婆娑羅会』の決闘ルールの説明をするぞ。一対一で邪魔なし、殴り、蹴り、寝技、武器、何でもあり。どっちかが戦闘不能もしくは負けを認めるまでだ! ちなみに俺は武器は使わねぇぜ!」


 青年はパシン! と右手の拳を左手の掌に打ち付ける。

 そしてビッ! と親指で自分を差した。


「そして俺は『婆娑羅会』No.2、蒼瀬カツヤだ! 存分に闘おうぜ!!」


 そう言って蒼瀬と名乗った青年は、瞳にギラリと肉食獣のような光を灯し、ボクシングの構えを取る。

 俺も合わせて村雨流の構えを取り、名乗りをあげた。


「俺は村雨伊織、異能機関のエージェントだ」


 ほんとはまだ入ったばかりの見習い状態なんだけど。


「じゃ、賭けるものを決めとこうか」

「賭けるもの?」

「そうだ、『婆娑羅会』の決闘は戦う前にお互いの欲しいものを決める。負けた方は必ずそれを守る。シンプルだろ?」


 蒼瀬はそう言って、俺の後ろにいる亜麻色ポニテの女子高生を指差した。


「俺が勝ったら、そいつの身柄を貰う。もちろん俺がこの場を去るまで誰からも手出しは無し。どうだ?」

「いいぜ。じゃあ俺が勝ったらあんたの身柄を貰う」

「オーケー! じゃあたった今から決闘開始だ!」


 まず、蒼瀬は右腕を大きく引いた。

 引いた拳に、思いっきり力が込められているのが見えた。

 俺は眉を顰める。

 蒼瀬と俺の距離は十メートル以上離れている。

 当然拳を振っても当たる距離では無い。

 しかし、


「っ破ァッ!!」


 蒼瀬が拳を打ち出した。

 その瞬間。


「ぐ……っ!?」


 パァンッ!!

 破裂音と共に、腹にまるで殴られた時のような衝撃がやってきた。


「伊織っ!?」


 背後で見守っていたアイリスの心配そうな声が聞こえてくる。


「な、なんだよ今の……」


 俺は蒼瀬に尋ねる。


「言ったろ。何でもアリって」


 すると蒼瀬はニッと笑って、こう言った。


「異能だってアリなんだよ」

「……まじかよ」


 俺はハッと笑う。

 どうやら始まってしまったみたいだ。

 初めての異能バトルが。

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