美少女が転校してきたんだけど
【アイリス視点】
アイリス・ロスウッドは椅子の上で腕を組んで座り、何かを待っていた。
トントン、と自分の腕を指で叩き、ソワソワと落ち着かない様子だった。
机の上には紅茶が置かれているが、すでに冷え切っている。
と、その時部屋の扉を開けて部屋に入ってきた人物がいた。
「お嬢様、治療が終了いたしました」
銀髪の髪を後ろでまとめた、金色の眼をもつメイドだった。
そのメイドはアイリスに劣らずの、道端で十人中十人が振り返るような美少女だったが、ツンと無表情だった。
「シャーロット、伊織の容態はどうだ」
「撃たれた傷は異能を使い、治癒しました。明日には意識を取り戻すかと」
「そうか、それは良かった……」
アイリスはメイドの報告に安堵したように息を吐く。
「良かったですねお嬢様。村雨様には随分と想いを寄せているようでしたので」
シャーロット、と呼ばれたメイドはくすくすと口元に手を当てる。
ただし、無表情だった。
シャーロットの言葉にアイリスは顔を真っ赤にして反論する。
「なっ!? 違うぞ、そういうのじゃない! 助けてもらったから、その恩はきちんと返そうと思っただけだ!」
「そうですか。では、本当に村雨様のことはなんとも思ってないんですか?」
「…………確かに助けてもらった時は、ちょっとかっこいいと思ったけど」
「おやおや」
今まで恋愛ごとには全く縁がなかった主人の、初めて見る表情を見てシャーロットは目を見開く。
アイリスは赤面して話題を変えた。
「こ、この話はもう良いだろう! それよりも調査結果はどうだったんだ!」
「もちろん完了しております。こちらに」
シャーロットが数枚の紙をアイリスに渡す。
「ふむ……年は今年で十六。高校生。両親はすでに他界。そして二億円の借金か……。それで、肝心の異能については?」
「調査の結果では、それらしいものは見つけられませんでした」
「いや、伊織は確実に異能を持っている。ムラサメリュウ、とか言っていた。恐らくあれが異能だ」
アイリスは先ほどの記憶を思い出す。
たった一撃で車を破壊した、あの技。
そして一瞬で誘拐犯を無力化した技。
どこまでも美しく洗練された、しかし必殺の威力が込められた一撃だった。
あれは異能の領域だ。
自分が渡した異能を加味しても、あんな技をただの高校生が放てるわけがない。
幼少期から想像を絶するような訓練でも積めば別かもしれないが。
「技の蓄積か、それとも自動運転型なのか……。興味が尽きないが、どちらにせよ異能なのはほぼ間違いない」
「では、スカウトするのですか」
「そうだな、私の異能も伊織に渡してしまったからな。異能機関のエージェントになってもらうほかないだろう」
「村雨様をエージェントにスカウトしても、問題はないのでしょうか」
「伊織は見ず知らずの私を助けようとするお人好しだ。人格面では問題ないどころか、適任だろう。……しかし、二億円か」
アイリスはそこで言葉を区切ると、机の上の紅茶を一気に飲み干した。
「よし、今から出かけるぞ。車を用意してくれ」
「どこへ行かれるのです?」
「なに、ちょっとした買い物だよ」
アイリスはニヤリ、と笑みを浮かべた。
***
目覚ましの音で目が覚めた。
「あれ……?」
ベッドから起き上がると、そこは俺の部屋だった。
「昨日は……そうだ、アイリス! 撃たれたところは……」
慌てて服をめくって左脇腹を確認する。
しかし、そこには撃たれた傷跡なんて全くなかった。
一応撃たれた後をなぞってみるが、痛みも無い。
壁にかけてある制服を見るが撃たれた跡も、俺の血もついてなかった。
「そうか、あれは夢だったんだな」
俺は納得した。
そうだ、全部夢だったんだ。
あんな非現実的なこと、起きるはずがない。
その割に、家に帰ってきた記憶や、制服から寝巻きに着替えた記憶もないのだが、きっと疲れてたんだろう。
「最近、疲れたたしな。眠気で記憶が飛ぶこともあるだろ」
それにしてもぐっすり寝たからか、今日は爽やかな気分だ。
部屋から出て洗面所へ向かうと、顔を洗う。
「ん? 歯ブラシが三本? いつ下ろしたっけ」
しかし、洗面所のコップには見覚えのない歯ブラシが刺さっていた。
「昨日の記憶がない時に下ろしたのか……? 勿体無いことしたな……」
歯磨きを終えると洗顔する。寝癖は面倒臭いから放置るすことにした。
そして二階に上がると制服に着替える。それにしてもこの制服、なんだか新品みたいにパリッとしてるが……アイロンなんかかけたっけ?
「と、こんなことしてる場合じゃなかった……!」
自分の部屋を出ると急いで階段を降りていく。
そして、リビングの前を通り過ぎようとして──
「あれ? リビング、こんなに片付いてたか……?」
俺はリビングを見渡して首を傾げる。
いつもなら俺の脱ぎ散らかした服とかが散乱しているはずなのだが、リビングは綺麗に片付いていた。
「ま、気のせいか……」
異変を気のせいだという事にして、俺は玄関に向かう。
いちいち気にしてたら遅刻するからな。
この時はただの気のせいだろう、そう思っていた。
そう思ってたのが間違っていた。
「嘘だろ……」
俺は目の前の光景に、冷や汗をかきながら、思わずそう呟きを漏らした。
「今日からこの学園に通うことになった、アイリス・ロスウッドという。よろしく頼む」
「シャーロット・シルバーと申します。皆様どうぞよろしくお願いします」
なぜなら、教卓の前には。
ブレザーの制服に身を包んだ、不遜に腕を組む金髪の少女と、美しい仕草でクラスメイトに向かってお辞儀する銀髪の少女が立っていたからだ。
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