第44話 さぁ、お前の罪を数えろ

面近さんが可愛らしいことはひとまず置いておいて、この後どうするかを擦り合わせておきたいかも。

さすがに11月の寒空の下、このまま屋上で話し続けるのは辛すぎるので早々に帰宅することにする。

伴さんにもその旨を連絡しておく。


「それじゃ、今日のところは一旦帰るが、いつでも連絡くれて構わんからな。よろしく頼むよ。副署長には多田君から連絡が行く可能性があるということは言ってあるからそっちも大丈夫だ。」


「我々も住人の能力の把握や育成などできることに努めるようにします。協力できることがあれば何でも仰ってくださいね。」


金垣内さんや押江さん他の降った人たちと別れてコーポ大家に戻る。

私の部屋で樋渡さん、面近さんに温かいお茶を出して一息ついたところで白面を撫でながら話を始める。


まずは副署長さんに動画を渡すついでに拠点数による影響範囲の拡大のことも知らせて詳しく調べてもらおうと考えていること。

こちらで検証したいことは上がった位階を始めとしていろいろあるけど、個人的に今一番気にしているのは怪物化した人間の扱いだ。

というのも、私としては直接手を下して何人もの怪物を仕留めて、挙句の果てにはそれをゴーレムやガーゴイルとして流用しているわけで、これが公に知られたらやっぱり逮捕されちゃうのかなあと危惧しているわけだ。

副署長さんなんて最もそういうことと近い人とお近づきになってしまったので急に現実を意識したというかそんな感じだ。

まあ逃げも隠れもするつもりはないが、今も無限リスポーンを利用してポイント稼ぎという大量虐殺を繰り返しているわけだしね。

具体的な罪状としてはやっぱり殺人罪が適用されるのかな。

でも、殺しちゃってはいるけど実は完全に死んじゃってる人っていないのも悩ましいところだ。

ほら、一番最初のチラシ男はコーポ大家でゴーレムになってるし、ゴミ男も獣人賃貸の二階で熱光線出しまくってるし、リスポーン繰り返している人はすでに私は何人目だからって判らないぐらいになっているだろうけど活動限界に至らずに動き続けてるし、他の駒にしちゃった人もどこに格納してるかなんて知らないけどいつでもゴーレムやガーゴイルとして出すことができるのだ。

そうすると適用されるのは殺人未遂罪ってことになるのかな。

殺害行為をしたが相手が死ななかった場合は怪我するだけにとどまっても、はたまた無傷であっても殺人未遂罪のみが成立するらしい。

でも、最初のチラシ男とゴミ男の一回目については過失致死罪でもいいんじゃないだろうか。

あ、結局死んでないってことにするなら傷害罪か。

殺しちゃった後にゴーレムとかガーゴイルにしちゃったから死体損壊罪って線もあるんじゃないだろうか。

いや、やっぱり死んでないから死体として取り扱うのも適切じゃないのか。

じゃあ逮捕・監禁罪ってところが妥当かもしれない。

でも、それが適用されるなら私がそうする前にダンジョンが住人を怪物化して敷地内から出られなくしていたんだからそういう場合はどうなるんだろう。

まあ私の罪状が最終的にどうなるかはともかく、実際にこの後にダンジョンから怪物が溢れ出してくることも十分に考えられるので、予め怪物をどう扱うかを考えておかないとそれに対処する警察官や自衛官などは困惑してしまうだろう。

対処した後であれは人間だったので、なんてされるとトラウマが大変なことになりそうだ。


なんてことを会話していたのだが、樋渡さんの一言で片付けられてしまった。


「ダンジョンに侵攻されていた状態での緊急避難ってことでいいんじゃないですか。」


「そういうものですかね。」


「今後、ダンジョンのことで新しい法律が出来るかもしれないけど基本的に遡及適用されることはないんじゃない。それに私の「治癒」のレベルが上がれば怪物もゴーレムとかも元に戻せるかもしれないじゃない。そうしたら何も問題ないわけだし、ついでに治療費で一儲けしましょうよ。」


そこはタダで治してあげないんだ。

しかも捕らぬ狸の皮算用。


「私が「読心」でいくらなら払えそうか読み取るのでぎりぎり攻めるのですわ。」


「ほっほっほっ。お主も悪よのう。」


「何を仰いますことやらなのですわ。お代官様こそ人が悪いのですわ。」


「代官山だけにのう。」


「「ほっほっほっー。」」


実はこのやり取りがやりたかっただけなのかもしれない。

怪物の扱いに関しては、とりあえずは樋渡さんの言う通りに緊急避難措置ということで現状を維持することにしよう。

そして簡単な状況説明と共に面近さんから副署長さんに動画を送ってもらう。


「それと位階のこともそうなんですが、ステータスでちょっと気になるものが目に入りまして確認したいのですが付き合ってもらえませんか。」


「え!?もしかして私のスリーサイズが見えてしまっているとか…。」


「断じてそんなんじゃありません。ええと「スキルファーム」っていうのがありましてどうやら二つ以上のスキルを使って何かできるみたいなんですよ。」


「でも、私ひとつしかスキルありませんよ。」


「フッフッフー、私二つあるもんね。」


「えー、奈美さんずるいですぅ。もしかして多田さんといけないことして増やしたんじゃ…。そうなら私にもしてほしいのですわ。」


「いけないことはしてないですが、増やす方法はあるので安心してください。」


「それはそれで残念なのですわ。」

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