第43話 十六の意味

並んだ人の所も建物が戻ってくる様子を動画に残すために所在を確認しながら順番に作業を進めていたのだが、拠点数が16になった時にそれは起きた。

上がったと言われた位階は「ダンジョンルーラー」となっている。

ルーラーってまさか定規のことじゃないよね。

多分、支配者ってところかな。

考え事をしながらも並んでいた人全員を降伏させると拠点数は最終的に29になった。


「とりあえず、皆さんは自分の所の住民の安全に配慮してください。先程も言いましたけど消えて戻ってきた建物には無暗に近づかないように。それとは別に住民がどんな能力を持っているのかを把握しておくといいでしょう。特に対象を必要としない能力は使おうと意識するだけでその能力が上げられる可能性がありますので試してみてください。ただし、今のところ能力が使用できるのは敷地内限定ですからご注意ください。」


降ってもらった人たちに改めて言っておくと、それぞれ了解した旨を口にしてくれたり、首肯してくれる。

後はみんなでSNSのグループを作ってもらうように押江さんに頼んで押し付けてしまう。


気になっているのは16という数字だ。

5でも10でもなく16。

我々が最もキリが良いと感じるのは10だと思う。

スポーツでも二桁勝利達成とか二桁得点とか、メモリアル等でも十周年とかは盛大にお祝いされたりする。

その考え方の元になっているのは十進法であることは間違いないところだと思う。

地球のほぼ全ての文明において十進法が採用されているのは、人類の指の数が両手を併せて十本だからというのが通説になっている。

指折り数えられるところから子供でも理解しやすいし、ハンドサインで意思の疎通が図りやすかったからだと考えられているようだ。

貨幣で5が基準になるものがあるのも片手での指の本数に対応していると言われている。


今回のことが起きたのは16という数字だが、これがキリが悪いと思わない考え方ももちろんある。

コンピュータの世界では十六進法が普通にある。

使う文字は0から9までの数字では足りないので、10がA、11がB、12がC、13がD、14がE、15がFの英字を使用している。

電流が流れているのと流れていない、電圧がかかっているとかかっていないオンとオフだけで単純に表現できるのは1と0しかないのでコンピュータの世界では二進法がその根幹にある。

二進法の世界では桁のことをビットとも言うのだが4ビットで表せるのが最大1111で、これは十進法では15、十六進法ではFとなるのだ。

世界初のマイクロプロセッサは4ビットで…これ以上は蛇足かな。

つまり何が言いたいかというと十六進法での10は十進法の16であるので一応キリは良いという話だ。


なので、このハイテクともとれるダンジョンに関係することがコンピュータにも関連する十六進法を採用していても全然おかしくはないとは思うのだが、これがローテク由来の理由だったらと考えたことが杞憂であってほしいと思ったのも事実だ。

例えば両手に指が十六本ある知的生命体の仕業じゃないよね、とか。

スキルガチャ改が交換可能になったのがスキルガチャを8回使用した時だったのも不安が増す材料になっている。

あの時は他の条件と相まってたまたまだと思ったのだがもしかするともしかするのだろうか。


ちなみに二進法を指の曲げ伸ばしに置き換えると片手で31まで数えられる。

指の一本一本をビットに見立てて5ビットと見做すわけだ。

ただし、親指と小指のどちらを基数側にしても途中で何度も指が釣りそうになるので覚悟して臨んで欲しい。

そして、途中で手の平の向き次第でヤバい状態になる時もあるので特に外国の方に見せる時には注意した方が良いだろう。


「すごいですね。ここら辺の空き地ってもうどこにも見当たらないですよ。」


こうして我々の勢力が代官山一帯を支配する時代が幕を開けることになる…わけがない。


「そう言えば、途中で関係ないところでも空き地がぐんと減った時がなかった?」


「そうそう、一気に現れた建物が増えたって感じた時ですよね。どれでしたっけ…あー、この時ですね。」


撮影していた動画を見返して確認すると明らかに降伏した人の建物の周りで出現する範囲が大きくなっているようだ。

それまでの動画では建物が出現する範囲が画角に収まるように撮れていたのが、この時は画角の範囲に収まりきれていない。


「その範囲が拡がったのは多分私の位階が上がったからだと思います。」


「えぇっ!?多田さんが「ご主人様」から「立派なご主人様」になったということでしょうか。」


「なにそれ、ウケるんだけど。次上がったら「偉大なご主人様」にでもなりそうね。」


「名称はどうでもいいですけど、位階が上がったのは拠点数が増えたからということを「天の声」は言っていましたね。」


「ふうん。あれ?言われてみると私の位階も変わってるわ。「眷属」だったのが「臣属」になってる。」


「本当ですわ。私も同じです。」


「ということは、皆さんも何か能力が上がっているかもしれませんね。」


「本当ですか!?女子力が上がっているといいんですけど。」


「大丈夫よ。恵理ちゃんは前から十分に可愛いから。」


うん、そうだね。

でもそういうのは関係ないと思うんだ。

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