第25話 泡沫の夢
「何を取引しようとしてるかは知りませんけど、そういうことなら一応家具付き物件としてお貸ししますので、勝手に取引するのはご遠慮ください。」
「はあい。ついでに昨日、持ってきていただいたお布団もいいんですか?」
「娘の使っていた物なので別に構いませんけど、他人の使っていた布団で大丈夫ですか?」
「残念、娘さんのか。でもDNAの繋がりはあると考えればイケるか。
えぇ、大丈夫です。私、新しい布団だと寝つきが悪くて。昨日はお陰様でゆっくり休めたので使わせていただければありがたいです。」
前半、何やらブツブツ言っていたようだがよく聞こえなかった。
しかし、大丈夫というなら使ってもらって構わないだろう。
娘用には新しいものを買って用意しておこう。
「それで、あちらの解約手続きは進んでいるんですか?」
「それが、電話がつながらないんですよね。」
「それは困りましたね。苦情が殺到しているのか、事務所に出勤できていないのかどちらでしょうか。余計なお節介ですが、契約解除の理由はちゃんと伝えて伴さんの不利にならないようにした方がいいですよ。なんなら、この後も向こうで検証するつもりなので証拠の動画を撮っておきましょうか。」
全部が全部だとは言わないが貸し手の方には金儲けのことしか考えていない人がいる。
知人が物件を借りた時には内装工事中にとんでもない量の雨漏りが発覚した際に、仲介した不動産会社に連絡して対処してもらい何度か工事して漏れる水の量は減ったけど止まることはなく、最終的に漏れてきた水を外に流すための樋を部屋の中に作成したんだとか。
当然のようにその部分は正常に使えないのだが賃料は契約時のままで一円たりとも下がることはなかったらしい。
逆に、賃料のことをこれ以上口にするなら出てってもらいますよ、なんて言われたんだとか。
契約不履行なのはどっちなんだよって話だよね。
話がそれた。
この後は、樋渡さんを伴って獣人賃貸で更に検証を進める予定だ。
なので、ついでに獣人が溢れかえっている様子を動画に収めて、物件として問題があるので退居しますという動かぬ証拠にしておきましょうという話だ。
じゃないと、敷金を返さないどころか違約金寄こせとか言い出しかねないからね。
伴さんは仕事に行くまで部屋の片づけをしながらスキルの鍛錬をすることになった。
お礼をしたいので是非お店に来てくださいね、とショップカードを渡されたが、さて、どうしたものか。
別に恩に着せるつもりはさらさらないのだが、獣人にならなくてすんだお礼を是非したいとか、宿なしにもならずにすんだし、引っ越し代もかからなかったので助かったとか、これでもかと並べ立てられてしまっては行かないのは失礼になりそうなぐらいだ。
困っていたら樋渡さんが割り込んできた。
「全身綺麗にしてあげたから私も行っていいよね。」
「いいですよ。その代わり、責任もって多田さんを連れてきてくださいね。」
「はいはい。私、こういうの好きだからよろしくね。」
そう言って、さっきスーパーで買ったワインボトルを伴さんに見せている。
そんな流れで、伴さんの働いているバーに今晩お邪魔することになりそうだ。
伴さんと別れて獣人賃貸に向かうと最初に二階の様子を動画に収めておいた。
当然、ガーゴイルが映り込まないようにしたが、熱光線で攻撃しないとこっちの身が危ないのでそこは編集で誤魔化すことにした。
この熱光線がうまい具合にできているのか、壁とかに当たっても特に影響を及ぼさない優れもので編集がしやすくて助かる。
ちなみに私の射撃で試したところ目に見えて穴が開いたり凹んだので、ガーゴイルを止めて私が攻撃する撮影パターンはやめておいた。
もちろん私の射撃でできた穴やへこみは、しばらく時間が経つと自分の部屋に穴を開けた時のように自動修復されてしまった。
さて、これから何を検証するかというと「スキルガチャ」だ。
「さて、樋渡さん。人間をやめる気はありますか?」
「多田さん、何言ってくれちゃってるんですか。アホなんですか。」
「あぁ、ごめんなさい。説明が足りないですよね。」
スキルガチャというものが入手できるようになり、新たにスキルを獲得できそうなこと。
今のところ、私以外に攻撃的なスキルを持っている眷属がいないこと。
当然、最初は私が実験台になることなどを順番に説明する。
人間をやめる云々はイニシャルがJ.J.の主人公が活躍する漫画で宿敵が石仮面を使って新しい能力を手に入れる場面を思い出したからだ。
「ふーん、でもガチャってことは狙ったものを得るのは難しそうですね。」
「そうなんですよ。とりあえず一回試してみますね。」
ポイント交換でスキルガチャを入手すると使用する眷属を選択するように促された。
なんと、自分には使えないみたいだ。
眷属専用なのか?それとも他に条件がある?
うーん、残念。
スキルガチャでスキル取りまくって無双する夢はあえなく潰えた。
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