第24話 To be or not to be, that is the question;

蕎麦屋を出た後はスーパーに寄ってみた。

ここも、いくらまだ昼過ぎで間もないとは言え、人が少ないと思う。

レジも常時人がいることができずに、呼び鈴を置いて鳴らしてもらっているようだ。


これは都市部では流通とかが機能しなくなって大手スーパーとかコンビニに並ぶ商品数も激減しそうだね。

ならばということで、二人にも手伝ってもらっていろいろと買いだめしておくことにした。

幸い、異次元収納は時間経過しないので足がはやいものでも気にすることなく買い放題だ。


だけど、だんだん円安も進行して物価も上がってきてるからついつい特売品に目がいってしまうのは仕方ないよね。

昨年末は115円ぐらいだったのに、先月にはついにバブル期以来の150円超えたのには驚いたね。

ちなみに昨日時点で146円台にまでは下がってきているけど、今後どうなることやら。

今年の2月にロシアがウクライナに侵攻した影響も大きかったみたいだね。

ウクライナの小麦が輸送できなくなったり、エネルギー資源問題とかいろいろ浮き彫りになってしまったものね。

私としては早くロシアの大統領が諦めてくれることを祈るばかりだが、実際の働きかけは政治家に頑張ってもらうとしよう。

このダンジョン問題が世の中に広まったらさらに円安が進行しちゃうかもね。

それなりに給料もらってるんだから危機的状況でこそちゃんと働いてくれよ、議員さん。


そう言えば、地方選出の国会議員って確か赤坂とかの都心の一等地にある議員宿舎に周囲の相場とはかけ離れた家賃の安さで住んでるんじゃなかったか。

赤坂の場合、近隣の同じぐらいの賃貸が月額50万ぐらいだけど10万以下で入れるらしい。

って、家賃のことは問題だけどそうじゃなくて議員宿舎ってダンジョン化しているのか、ダンジョン化しているならダンジョンマスターは誰なのかって話だ。

もし出られないのをいいことに働かなくていいや、とか思ってるなら全員駒にして世代交代させてやろうか。

今、臨時国会中だったはずだからこの後の情報番組やニュース辺りで何か取り扱われるかもしれない。要チェックだ。


樋渡さん、伴さんには全体の備蓄品ということで水や食料、生活用品など幅広く買い集めてもらって会計を済ませると憚るような人目はそれほどないが、一応監視カメラの死角で異次元収納へと格納する。

傍から見るとひとつの段ボール箱に大量の物資が消えていくのは異常な光景だったことだろう。


「こんなに大量に買うの初めてです。よくわからないけど楽しいですね。」


「私もこんなの初めてです。すごく気持ちよかった。もう一回していいですか。」


字面だけ見るとなんかアレだな。

っていうか、この子は表情も作ってるし、わざと言っている節があるな。


「手伝っていただいたお礼に自分用に好きな物を買ってくださって結構ですよ。」


「やったあ、さすが多田さん太っ腹。でも節度は守ります。殿、上限は如何程でしょう。」


「じゃあ、キリのいいところで一万でどうですか。」


「ははぁ、ありがたき幸せ。」


樋渡さんはお酒の棚の方に飛んで行った。


「伴さんは行かないんですか。」


「私もいいんですか?大してお役に立ってないですよ。寧ろ獣人になっちゃうのを助けてもらって私がお礼したいくらいです。」


そう言って私の腕にしがみついてくるので、けしからん柔らかさが腕に伝わってくる。

な、なんてことをするんだ。


「梨ー香ーさーん。」


プレミアムビールの500ml六缶パックと、ワインボトルを二本抱えた樋渡さんが5m先から睨みを利かせてくれたので、伴さんが慌てて私の腕から離れてくれた。


「あはは、5カウント以内です。」


「勝手にプロレスルールにしないでください。一発レッドカードでもいいくらいですよ。」


「はーい、次はちゃんと二人きりの時にします。」


「そういうこと言ってるんじゃありませんからね。多田さんも気を付けてくださいね。何かあったら恵理ちゃんに申し訳が立ちません。」


「はぁ…。」


一体、何に気を付ければいいんだろう。

樋渡さんの抱えていたお酒の会計を済ませて帰途につく。


「それはそうとして、102号室にある家具って使わせていただいていいんですか?」


そうなのだ。

実は、娘が来た時に宿泊所代わりに使ってもらおうか、もしくは今私が使ってる部屋を娘に使わせて私が102号室を使おうかと思って、新しい借主を募集しないで私が以前使っていたものは大体残してあったりする。


「私が以前使ってたものですが、嫌じゃなければ使ってくださって構いませんよ。」


「そうなんですか、多田さんが使ってたものなんですね。道理で、ムフ。ありがたく使わせていただきます。」


「えー、いーなー。あの60インチのテレビそのまま残してたの?」


「テレビぐらいなら譲りますよ。その代わり、判ってますよね。」


「うーん、テレビか、友情か、それが問題だ。」


なんだ、そのハムレットの出来損ないみたいなの。

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