第14話 クズは匂う

ネットで調べ物をしていたら0時を過ぎてしまった。

一応、確認してみたがステータスは相変わらず表示されている。

ダンジョンが日本標準時を意識してくれてるかは分からないが、日付が変わってもダンジョン化は継続中だ。


今回の天王星食についてもう少し調べてみたのだが、山形沖の飛島の西から山形・新潟の県境辺り、会津若松、宇都宮の東、千葉、鴨川、八丈島あたりを弧を描くように結んだところを境に西側が皆既食中に天王星食が開始して、東側では皆既食が終わってから天王星食が開始するようだ。


筑波の辺りはぎりぎり東側みたいだな。

決して安否を気遣っていなかったわけではないが、ちょっと連絡してみるか。

「今部屋にいるなら何も聞かずにステータスオープンって言ってみて」と。

ポーン。こんな時間なのに返信早いな。

「言ったけど何させたいの?」

どうやら言ってくれたようだ。

しかも驚いていないってことはアレが見えてないってことだ。

「何も起きなかったんだったら問題ない。ただし、筑波でも西側の方の集合住宅には近寄らないようにね。」

ポーン。

「??よくわかんないけど分かった」

取り敢えずこれで安心だろう。


誰に連絡したかというと娘だ。

娘は大学院を卒業して、二年前の春から筑波の方で働いている。

希望通りの就職先が見つかって喜んでいたので父親としても嬉しい限りだ。

そして娘には私が骨髄腫になったことは話してなかったりする。

昨年の夏休み帰ってきた時は辛うじて発症前だったが、今年の正月も盆も自分のために過ごしなさいと言い包めてコーポ大家に寄り付かないようにさせて事実をひた隠しにしようとしている。

どうしてかって?

無茶苦茶仲が良い親子という訳でもないが、聡くて優しい子なので多分私の世話をすると言い出すだろうからだ。

折角希望通りの仕事に就けたのだからやりたいことをやってほしいと思う。

後、何年生きられるかも分からない私のために時間を割く必要なんかない。

幸いにして今のところは体を動かすことにそれほど不都合はないのだから。

とにかく、気にしなくて済む内は何も知らない方がいいと私としては思っている。


改めてダンジョンの話に戻そう。

娘がいる筑波はダンジョン化が発生していなくて、ここ恵比寿では絶賛ダンジョン化継続中だ。

このことからさっきの境目の話がダンジョン化の条件に加わる線が濃厚だ。

だとすれば1664年の時にダンジョン化が起きなかっただろう説明ができる。


残るは1938年か。

今回と何が違うんだろう。

っていうか皆既月食と天王星食の何が影響してダンジョン化が起こったと考えるべきだろうか。

しかもその順番が関わってくるとなると…?

天王星からは常時何かが放射されていて、それを皆既月食状態の月が遮るかレンズみたいな働きをした結果がダンジョン化をもたらしたと考えるとどうだろう。

もしくは皆既月食がもたらす何かが加わったのかもしれない。

だとすると、太陽光が朝方や夕方に短い波長の青い色を反射して空が赤っぽく見えてしまうように、ある程度の高度からの照射じゃないと大気で反射して効果がないかもしれない。

ニューヨークとかでは月が東の空に上がって来たばかりで皆既月食中の最大高度は20度ぐらいだ。

今回の東京では皆既月食中の高度は30度から50度ぐらい。

一応、今回だけダンジョン化が起こるような条件設定は仮定ができそうだ。


ダンジョン化がいつまで継続するかについてはどうだろうか。

ダンジョン化によって建物や身体に明らかな改変があったので、それに匹敵するような打ち消す力が働かないとスキルとかは無くならない気がする。

それこそ、天王星がダンジョン化を促すような何かを出してるなら、海王星はダンジョン化を無効化するような何かを出しててそれを特殊な条件下で受けないといけないとかね。

とりあえず自分としてはダンジョン化は一時的なものではなく、永続する方に一票を投じようと思う。


ダンジョン化が永続的なものなら、私としては積極的に周囲を攻略していこうと思い始めている。

別に、誰かの下について眷属になってもいいのだけどとにかく私は人との縁があまり良くない。

特に、使われる立場の人間との出会いは碌な奴に会わない。体感で九割がハズレだ。

しかも第一印象でハズレだと思ったやつはもれなくハズレだった。

前に話したくそみたいな課長もだが、ずっとSNSを見て仕事をしない馬鹿リーダー、自分が何の準備もせずに臨んだお客様との打ち合わせの失敗を押し付けてくるなんちゃってコンサル、などなど枚挙に暇がないほどだ。

極めつけは三年前に妻が倒れた時に娘に負担をかけないように休職しようとしたのだが、無理矢理仕事を押し付けてきたクソ課長にはしてやられた。一応言っておくと、前の課長とは別人だ。

当時、そのお客様の仕事は私が開発のリーダーをほとんど務めていたこともあり、新規案件も私に話が廻ってきたのだ。

当然、私は休職するつもりだったので断ったのだが、クソ課長が飾りでいいからいてくれなんて頼み込むので仕方なく引き受けたのが運の尽きだった。

集められた開発メンバーは何故か知らない人ばかりで力量も分からない。

とりあえず要件定義から設計までは私の方で無難にこなして、後はしっかり作ってねとクソ課長に任せたはずが何故か坂を転げ落ちるように失敗しやがった。

碌なテストも実施しないままリリースされてしまったシステムはものの見事に不具合だらけ。当り前だ。

蓋を開けてみれば、何をどう解釈したらそんな造りになるのか訳の分からないコードのオンパレード。

直しても直しても湧き水のように溢れ出す不具合の対応で結局私まで駆り出される始末だ。

お飾り分はしっかり仕事したはずなんですけどね、クソ課長さん。

なんとか不具合を全部直すことはできたのだが、結局私が責任を取らされる形になった。

当然クソ課長は責任を取らなかった。

まあ、前から中身のない贔屓の激しいクソ野郎だとは判っていたのでこれ幸いにと部署替えを受け入れた。


そんな感じなので、クズの匂いには敏感な私だ。

人に迷惑をかけるような人には是非いなくなってほしいと思ってるので、今後は積極的に排除していくことにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る