第12話 初めての制圧
「痛い!痛い!何で手に穴が開いてるんだい?」
「降伏するなら二回目の死を迎えなくて済むかもしれませんよ。降伏しないならその痛みをもっとたくさん味わってもらって死んでもらうだけです。どうしますか?」
「アンタがやったのかい。ひぃ、殺さないでおくれ。助けておくれ。降参でもなんでもするから。」
と、言ってるけど実際に降伏を受理するにはどうするんだろう。
『敵陣を制圧したのでポイントを獲得しました。』
どうやら「天の声」がうまく処理してくれたらしい。
だが降伏したとは言っても、後で反抗されても面倒臭いなあ。
裏切られて寝首を掻かれては堪ったものではない。
『制圧したダンジョンは位階が自動的に下位になります。位階序列は絶対であり下剋上は不可能です。』
ふーん。
眷属がダンジョンマスターに攻撃できないのも位階序列の所為なのかな。
取り敢えず、ババアに念押ししておくか。
「まだ何が起きてるか分かっていないみたいだけど、これからは私の言うことは絶対です。逆らえば死ぬよりつらい体験をさせて差し上げますのでちゃんと覚えておいてくださいね。」
「うぅ~、分かったから医者に連れてっておくれよ。死んじまうよ。」
「樋渡さん、お手数ですが治癒を試してもらえますか。」
「いいですよ。向こうに行っても大丈夫なんですよね。」
「はい、北野ハイツは自領になったので問題ないです。」
樋渡さんが塀を乗り越えるのを手伝って、ババアの治癒を試みてもらう。
「多田さん、コイツどうする?っていうか、何回も言霊使ってたらレベルが上がったみたい。」
「私もです。読心のレベルが上がりました。」
尾茂さんも面近さんもレベルが上がって何よりだ。
何かしら能力が向上したことだろう。
さて、通り抜け男はどうしようか。
ババアが痛がっているのを目の当たりにしていたので一応大人しくはしているようだが居心地が悪そうだ。
「君も分かってるだろうけど、私を含めてうちの住人には絶対服従ですからね。問題を起こしたら酷いよ。」
「はいぃっ!分かりましたぁ!ところでこの変なのとか動けなかったのとか説明してもらえたりしますか?」
通り抜け男は、ゴーレムを指さして恐る恐る疑問をぶつけてくる。
一応、うちの先兵というか盾になってもらわなきゃなので説明というか教育は必要だろうということで簡単に情報を提供しておく。
「マジっすか。そんなことになってたんすか。しっかし、俺のスキルの失念ってなんすかね。」
それぐらい自分で考えろよ、とは思うけど一応私の考えたことぐらいは伝えておく。
「言葉の意味のままなら「忘れる」ことが力じゃないでしょうか。自分が忘れて力を得ることは難しいので、他人に対して何かを忘れさせることでその力を発揮するのだと思います。例えば、今何をしようとしたかを忘れさせることで行動を阻害するとかじゃないでしょうか。」
「へー、頭いいっすね。」
「そちらの住人の誰かが帰ってきたら、お互いにスキルの効果を確かめ合うといいでしょう。ちゃんと自分の能力を把握しておかないと駒にされるだけですよ。」
「了解っす。」
通り抜け男は馬鹿だけど裏表はなさそうだ。
面近さんも特に何も言ってこないのはそういうことだろう。
「多田さん。苦労しましたがレベルも上がったおかげかなんとか元通りに治療できました。」
「それはおつかれさまです。すごいですね、手に空いた穴を治しちゃうなんて。きっとブラッド・ジャックもびっくりですよ。」
「なんです、それ?」
「ご存じなかったですか。凄腕の外科医のお話ですよ。」
「あー、はいはい。言われれば名前は聞いたことあります。読んだことはありませんけど。」
医療界隈では今でも有名作品だと思ったんだけどな。
こういうところで感じるジェネレーションギャップが結構堪える。
まあいい。今はそれどころじゃない。
ババアに全部を説明して理解させるのは難しいと判断し、要点だけ伝えて身を守るように言い聞かせた。
あと、できれば家具を買い足しておくようにとも。
ババアは頷いていたがどれだけ分かっているか怪しいものだ。
とりあえず防壁としてはかなり薄い壁だがないよりマシだろう。
あと、上位者の権限でババアの初期ポイントを使って、うちと同様に郵便受けミミックを設置しておいた。
ここまでで既に23時を過ぎていたので今日のところは解散となった。
皆さんは明日も学校やお勤めがあるからね。
しかし、ダンジョン化一日目の出来事はまだまだ終わっていなかったのだ。
なんてったってこの周辺は一軒家より集合住宅の方が多いのだから。
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