第8話どいつもこいつも鈍すぎる!

放課後、学園を出た俺は急いで校門へと向かっていた。

目的はただ一つ、カードショップに行って例の白地のカードを買う為だ。

カード生成はデッキの強化に必須、それにとても楽しい。

もっともっと試してみたいと思うのは当然だろう。何せカードゲームの醍醐味はなんと言っても開封だ。

ビニールを開けると漂う中のインクの匂い、指先を撫でる新鮮なカードの手触り、それを一枚一枚めくるたびに喜んだり嘆いたり、そして最後に狙いのレアが出た時の高揚感は何物にも変え難いものな。


そして時代は変わり、この手の射幸感を煽る商売は今ではソシャゲのガチャへと進化した。

ちなみにこのゲームでは1ガチャ3000ジュエル。リアルマネー換算で1500円。

まぁイベントとかで結構ジュエルは配られるし、他のソシャゲに比べると良心的な方ではある。

最近は1ガチャ3000円とか平気であるからなぁ。しかも碌に石も配らないし、やっぱりある程度気軽にガチャできる方がゲームは楽しいものだ。

……ただカード種類が多すぎるからってピックアップがないのは許さんけどな。


「何をブツブツ言っているのかしら。バルス様?」

「ゲェッ!? ローズ!?」


突然横から話しかけられ、思わず飛び上がる。

見つからないようこっそり教室から抜け出してきたのに、いつの間にか俺の横にいたとは……突然出てこられたら心臓に悪いだろ。

そんな俺を見てくすくすと笑うローズ。やだ、この子怖いんですけど。


「ゲェッ、とは酷いですわね。許嫁を前にして言うセリフとしては到底相応しくありませんわ。ふふっ、でも潰れたカエルのような鳴き声でチャーミングで素敵でしたけれどもね」

「は、はははははー……」


値踏みするように俺をじっと見つめるローズに、俺はどうにか愛想笑いを返す。

マズいなぁ。既に一緒に帰るような仲だったとは……ゆっくり時間をかけて距離を取っていくつもりだったが、これじゃ余程嫌われるようなことをしなければ難しそうだ。

だが決定的に嫌われてしまうと破滅ルートに突入してしまう。……くっ、どうすればいいんだ。


「いい紅茶を出す店を見つけましたの。お茶を奢って差し上げますから、一緒に行きませんこと?」

「う、うーん……そうだなぁー……」


正直言ってお茶とか興味ないんだが。というか俺はカードショップに行きたいんだが。

流石にバッサリ断ると角が立つし、やんわり断る方法を思案していたその時である。


「よー、バルス! 一緒に帰ろうぜ!」


大きく手を振りながら現れたのはアルフォンスだ。

おいおい、関わり合いになりたくないトップツーに囲まれるなんて、今日は厄日か?


「や、やぁアルフォンス君、奇遇だね……」

「おーよ! つか待ってたんだけどな! いやー、折角仲良くなれたんだから一緒に帰ろうと思ってよ! これから一緒にカードショップ行かねーか? ……っと、もしかしてお邪魔だった、か?」


ようやく俺の隣にいたローズに気づいたようだ。

こほんと咳払いしながら、ローズは優雅に会釈する。


「ごきげんよう」

「あー、ははは……初めましてー……」


軽く挨拶を交わした後、アルフォンスは勢いよく頭を下げた。


「すまねー! まさか彼女と帰ってるとは思わなかったんだ! わりーわりー、迷惑かけちまったな。俺はもう行くから、俺のことは忘れて遠慮せず仲良く帰ってくれ!」

「い、いやいや! 全然迷惑じゃないって! 俺もカードショップ行きたかったし!」


これは俺にとって、迷惑どころか幸運だ。

アルフォンスとローズは俺にとって最も警戒すべき人物だが、二人きりになることさえ防げば好感度は極端に上がり下がりせず、一定の距離が保たれるに違いない。

特に俺は転生前、三人でいたら大抵ハブられるという悲しい性質を持っていたからな。コミュ力ありそうな二人が仲良くなってくれればそれはそれでありがたい。……というかいっそのこと、この二人がくっついてしまえば話が早いんじゃないか?

そうとも。そうなれば二人が構ってくることはなくなるだろうし、俺も晴れて自由の身になるじゃないか。

二人は原作では恋仲になるパターンもあるくらいだし、これこそ俺が狙うべき手だろう。


「な、いいよなローズ? 一緒に行こう!」


そうと決まれば二人の仲を取り持つキューピット作戦発動である。

一緒に買い物に行けば仲も深まるに違いない。


「……まぁ、構いませんが」


ローズはすごく不機嫌そうな顔をした後、渋々といった様子で頷く。

あら、もしかして悪印象だったかな?


「……ま、いいでしょう。バルス様との逢瀬を邪魔されたのは業腹ですが、未来の夫の友人関係を把握しておくのは悪いことではありませんしね。アルフォンスとか言いましたか。確かど田舎からやってきた農民の子供のはず。大した魔術師ではないと軽く見ていましたが、バルス様に目を付けるということはそれなりの才をお持ちなのかもしれませんね。……ふふふ、見極めてあげようじゃありませんか。私の未来の旦那様の友人としてふさわしいかどうかを……!」


案じる俺を他所に、ローズは何やらブツブツと呟いている。

うーむ、そこまで好感はないかもだが、少なくとも興味は持っていそうだな。

好きの反対は無関心というし、興味があるなら上手くいけば恋愛関係に発展する可能性もゼロではない、といったところかな。

多分、恐らく、だったらいいな。


「それにしても何故今頃になってご友人を……? バルス様のことですし何か目的が? しかし彼の考えを読むのは私では力不足かも知れませんわね……」


自分の世界に入ってるローズを見て、アルフォンスが俺に耳打ちをしてくる。


「なんかよ……あの子、ローズだっけ? ちょっと変わった子だよな?」

「あー……うん、でもいい子だよ……?」

「ぶはっ! なんで疑問系なんだよ! そこは言い切ってやれよ! 彼氏だろうが!」


大笑いながらバシバシと俺の背を叩いてくる。

残念ながらアルフォンスの評価は『変な女』らしい。

これだから不人気ヒロインは。俺が頑張ってどうにかするしかなさそうだ。

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