三十四羽 主人のセンス


「「「スイマセンデシタ」」」

『ほあー』

「まったく……うさぎさんの可愛さを見習え」

「どうやってですかねぇ……」


 カルナシオンは下僕たちからの報告をそれぞれ聞き届け、襲ってきた全員を庭に呼び出し正座をさせた。

 テリネヴが作り出した安全なかごの中に入り事態を見守るうさぎさん。

 またヤバい人達なんだろうなと、この環境に早速順応していた。


「少し名を考えるまで待っていろ」

「「「……?」」」

「あーら! じゃあわたくしが、カルナシオンと出会った時のことを聞かせてあげるわ!」

「「「!?」」」


 ミララクラはここぞとばかりに名乗りをあげる。


「うわー……絶対うっさいだろうから家入っとこ」

「はあ!?」

「同感だ」

「おだまり! ヴォルカニック・アンダーソン改!!」

「「「……!?!?」」」


 ──炎竜が、……ヴォルカニック・アンダーソン改……?


 アルクァイトが竜化を封じられた炎竜であると説明を受けた三人。

 エレヴォス、マトバ、シルケンタウラは言い知れぬ不安に襲われた。







「────それでね! わたくしの絶冰刃を涼しい顔して折ったカルナシオンが言うの! 『砕いても無駄? だったら、一度にすべて滅却すればいいじゃないか』……ってね! その時のわたくしの顔といったら……もう、この世で最も美しく思えたの!!」

「「「…………はぁ」」」


 一時間。

 正座をさせながらカルナシオンの話を……と言いつつ、自分の美しさを聞かせるミララクラ。

 本来壮絶な炎竜や魔導師との戦いの話であるはずなのに、正座をさせられている三人は聞く価値がある話とは思えなくなっていた。

 確かにこれは【おしおき】に違いない。

 そう三人は油断していた。


「だからね、わたくし──」

「……あの」

「最後まで聞け」

「はい」


 エレヴォスは一応、200年前の基準であるとミララクラより上位である。

 話を聞き入れてもらえるかとわずかな望みに賭けて言葉をさえぎったが、やはり怒りを買った。


 ──苦行だ


 三人は自分たちの行いを後悔し始めていた。


「で、アンダーソンは首、ギルクライス卿は右目、わたくしはここに封印の術式を刻んでもらったの」


 というミララクラは、右の太ももを指していた。


「な、なぜそこなのだ……?」


 マトバは疑問を呈する。話に関係のある質問なら許されるらしい。


「だってぇ、……ほら。熱くなっちゃうじゃなぁい……?」

「「「……」」」


 チラチラとカルナシオンの方を横目で見るミララクラ。

 彼は今、名前を考えるのに夢中でそんな視線には全く気付かない。


『……ハッ!』

「? どうした、うさぎさん」


 うさぎさんは、その視線の意味を自分なりに理解した。


『あしがあつくなるのは、うさぎさんにもおぼえがありますでし!』

「は、はあ?」

「そうなのか?」


 うさぎさんの話には一瞬で食いつくカルナシオン。


『うさぎさんはきんにくはモリモリでしが、ホネはかるいのでし。ゆだんしますとこっせつしてしまうこともありますでしから……』

「うさぎさん、筋肉モリモリなのか!?」


 衝撃の事実。

 カルナシオンはその愛らしい体の秘密を初めて知った。


 余談ではあるが、うさぎさんのルーツにあたるアナウサギは天敵から逃げるために骨を軽量化して体を軽くし、短い前足は穴掘り用、長い後ろ足はジャンプをするように地面を駆け抜けることで生き延びる。


 前足と長さが違う分、後ろ足は常に曲げて収納する必要がある。

 そのため、ゴロンと横になってリラックスする時は足をピーンと伸ばすのだ。

 温度調整の意味もある。

 逆に、寒い時には猫のように手足を体の中に仕舞い込んで、鏡餅のような姿になることもある。


『あしはよくつかれますでし。よくわかりますでし』

「は、はあ!? 一緒にしないでくれる!?」

「さすがうさぎさん。種族の違う他人の気持ちに寄り添うことができるのか」

『えへへ、でし』

「ちょっ、……デリカシーのない人間だこと。……ま、まぁ。そそそそこも、いいんだけど……!」

「「「いいんだ……」」」


 三人はげんなりした。


「ちぃ、可愛いからと油断したわ。……あの子、とんだ伏兵ね……」


 そもそもの問題もあるのだが、ミララクラはうさぎさんを正式にライバル認定した。



 ◆



「『ブリリアント・アクセル』」

「~~~っ、………ッ」


 エレヴォスは、この時ばかりは悔やんでも悔やみきれなかった。

 なぜもっと早めに事を起こさなかったのか。

 まさか、ギルクライスの主人がここまでヤバい人間だとは思いもしなかったのだ。


「おまえは……『ソニック・アシュフォード』」

「! ──悪く、ないッ!」

「初めての反応ね……」

「で、少年は──『レベリオス・アントニオ』」

「!?」


 シルケンタウラは、自分だけコンセプトがよく分からない名前だなと複雑な心境だ。


「私の下僕にも勝てないのだから、これから私に迷惑を掛けるようなことはするなよ」

「「「……はい」」」


 三人は、改めて挑んだタイミングの悪さを自省した。


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