二十二羽 拗らせた下僕の逆鱗


「みーつけたっ」

「「?」」


 時折視線を集めつつ、人混みに沿って大通りを歩いていると、二人は冒険者ギルドの近くへと差し掛かった。


 するとそこへ、何かを捕まえたとでもいいそうな甘い声が二人の耳に届いた。


「やあ」


 オレンジ色の癖のある髪をかき上げながら言う。

 なんだか大人の色香を漂わせた、背の高い男であった。


「……」

「知り合いか? アル」

「! あの気難しい男を愛称で……!?」


 男は驚いた様子でカルナシオンを凝視した。


「カルナ、こいつは──」

「あー!? 君がカルナシオン? 噂はかねがね」

「ほう?」

「……ハイネ、少し黙れ」

「いいじゃないの。あんたがなつくなんて、相当な人物だろ? オレもぜひ、お近づきになりたいね」


 ウインクをしながらハイネが言うと、アルクァイトのけわしい表情が一層深くなる。


「初めまして、オレはハイネ。A級冒険者で、お宅のアルクァイトくんとはハンテックで名の売れている冒険者仲間……ってところか?」

「誰が仲間だ、一緒にするな」

「ヒドイなぁ~! 一緒に依頼受けた仲じゃないの!」

「ハイネというのか。アルが世話になっているな」


 下僕が世話になっているというので、ハイネを見上げながら礼を述べるカルナシオン。

 『普通』ではないが、常識は一応あるらしい。


「いやいや! オレこそ、お宅のアルクァイトくんには世話になってますよ」

「気色悪いことを言うな」

「なるほど、アルの冒険者仲間なのだな。これからもよくしてやってくれ」

「!?」

「もっちろん」


 常識はあるが普通ではないので、カルナシオンは度々場の雰囲気を読み間違える。

 アルクァイトは訂正したい気持ちをなんとか抑えながら、ハイネにたずねた。


「っ……と、ところで、見つけたとはなんだ」

「ん? ああ、そうそう。依頼、一緒に受けてくれないかなって」

「誰が貴様と──」

「どういう依頼なのだ?」

「!?」

「いや~カルナくん、話が早くて助かる~。えっとね──」


 アルクァイトは悟った。

 元々ミララクラが絡む以上、平穏なお出掛けになるとは思っていなかったものの。

 せめて彼女に会うまでは二人でのお出掛けを満喫しようと思っていたのだが、それは叶わないだろうと人知れず心の中で泣いた。


 それはそれとして、ちゃっかり『カルナくん』と呼び始めたハイネにどう制裁を加えてやろうかと思考を巡らせ始めた模様。


「ふむ。なるほど……清麗せいれいの実か」


 カルナシオンは文献でしか読んだことのない実をなんとなく想像する。


「それが俺とカルナになんの関係が?」

「いやさあ、この実って若返りの薬だの、美容にいいだの、昔から女性に人気なわけよ。ただ、最近は数も減ってきて、森人ドリアスが人知れず守ってるんだと。深い森の中にひっそりと……ってなわけで難易度S級の納品依頼なんだよねぇ~。王都の貴族相手に薬でも作るんだろーけど。オレ一人じゃ見つけるの無理そうっていうか~助けてほしいな~って」

「「!」」


 カルナシオンとアルクァイトは顔を見合わせる。

 そう、二人は気付いてしまった。

 友人という存在が乏しい二人。女性向けの手土産の意見をつのるためミララクラを訪ねてきたわけだが……。何も、破天荒な魔族の女性に意見を求めずとも、パッと見で人当たりの良さそうな男に意見を求めるのもアリなんじゃないか……と。


「……しかも、清麗せいれいの実か」


 誰が森で一番美しいかを競う自称三女神たち。彼女らへの手土産にはぴったりではないだろうか。


「ん? 興味あるぅ~?」


 ハイネはにやりと笑みを浮かべながらじーっとカルナシオンを見つめる。

 ふと気づくと、その横より視線を感じた。


「──ちょ、アルクァイトくん!? オレ、まだ何もしてないよね!?」

?」


 もはやいつもの光景ではあるが、アルクァイトは主に馴れ馴れしい態度で接するハイネに、嫉妬とも怒りともとれる鋭い視線を向けていた。


「いやぁ、カルナくん。よかったね」

「? なにがだ」

「こーんな頼りになる用心棒がいてさぁ」

「……」


 そこは否定できないアルクァイト。

 喜びたいやら、気に食わないやら。なんだか変な表情だ。


「いくら強いとはいえ、こんなに美人なお兄さん……ボーっとしてたら、悪い人に捕まっちゃうよ~?」


 カルナシオンの肩に右腕を回すハイネ。

 その際にカルナシオンの右耳に光る従属の証に触れてしまう。

 どうやら彼は、知らず知らずのうちに炎竜の逆鱗に触れてしまったようだ。


「──ハイネ、殺す」

「えっ、……えーー!? じょっ、ジョーダンじゃん!?」

「アル、ケンカは駄目だぞ」


 周りの視線を気にすることもなく騒ぐ三人。

 カルナシオンとアルクァイトの頭の中からは、すっかりミララクラのことなど消え失せていたのだった。


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