二十一羽 うさじと辺境都市
「じゃあ、うさぎさん。ちょっと出かけてく──る!?」
『?』
翌日。
人間の街に行くためにカルナシオンは後姿のうさぎさんへと声を掛けた。
ら、困惑した。
「うなじ……?」
『どうしましたでしか?』
うさぎさんの首元。
後ろから見ると、何やら毛の感じが違うのである。
体の部分は見た感じふわふわしているものの、毛流れに統一感があるために触ってみると意外につるっとした感覚。
顔回りの毛は短めなので、触るとふにっとしていそうな感じ。
だが、うなじの部分はまた違う毛流れが展開されている。
うさぎさんが首を回すからだろうか。
真ん中から左右上下に分かれて毛が立ち、なんだか掴めるようになっている。
──口づけたい
カルナシオンは、
「まさか、魅了魔法……!?」
『?』
「バカ言ってないで早く行ってくださいねぇ」
カルナシオンはうさぎさんと僅かでも離れることに胸を痛めながら、なんとか出立した。
◆
辺境の森にはエルフ達の結界があるので徒歩で移動したものの、そこさえ出れば干渉されるものは何もない。
カルナシオンは転移魔法で街の近くまで移動すると、アルクァイトに諸注意を言いつけた。
「無駄なケンカはだめだぞ」
「ああ」
アルクァイトの『無駄』の基準と主の基準が同じかどうかはともかく、主と二人でお出掛けもずいぶんと久しぶりというもの。
身が震えるほどの歓喜に沸きながらも、なんとか平静を保ってアルクァイトは了承した。
「さて。ミラは市場だろうか」
「人通りの多い場所でやっているだろうな」
辺境都市ハンテック。
近隣で一番大きい街だ。一帯は元々広大な平原や森、渓谷なんかを有するだけの土地だったが、その豊かな資源にあやかろうと冒険者たちが遠征し、徐々に集落が形成されていった。
結果、わりと大きな都市と化す。
高台に建つ立派な城は領主のもの。
その眼下に広がるように街は広がっており、街を囲むように外壁が作られている。
賑やかな音に惹かれるよう街の門へと差し掛かれば、二人を見た門番はギョッとした顔で見送った。顔パスである。
「ふむ……手土産」
「奴の能力は本人を映さねばならないからな……。果たして奴自身の意見が本当に参考になるのか……」
カルナシオンは『手土産』といいつつ、全く違うことを考えていた。
そう。うさぎさんへのお土産である。
「食べ物はもう間に合っているだろうが……おやつもいいな」
「ああ、そうだな」
「少し寒いとは言っていたが、暑い時のことも考えなければならないか……」
「? さすがはカルナ。用意周到だな」
本来の目的を見失いかけながら、カルナシオンとアルクァイトは市場を目指した。
と、そこへ一人の男がカルナシオンへと肩をぶつける。
「おおっと、こりゃしつれ──!?!?」
実際のところ彼はスリなのだが、盗み以前にカルナシオンに触れたことへの怒りから、とんでもない形相をした炎竜が男を睨みつけた。
忘れがちだが彼は冒険者。それもS級なので、けっこう顔は売れている。
獄炎のように鋭い視線が射抜くと、身を震わせて男は叫んだ。
「しっ、失礼しやしたーーーーッ!!!!」
「まったく。人が集まるとああいう輩も集まるか」
「俺すら滅多に触れられないというのに……許さん……ッ」
「?」
アルクァイトは元々人間より遥かに大きな存在。それも、破壊にも似た力を誇示してきた人物。
何かを大切にするという経験が
それに触れるのは、例え自分であっても恐れ多い。そう感じさせるからこそ逆鱗を授けたのであるが、人は尊みを我慢しすぎるとよく分からない行動を起こすこともあるので、適度に発散して欲しいものだ。
余談だがアルクァイトは火力を誤りそうになるので、料理だけは苦手の模様。
我慢を覚える──つまり、下僕度が最高潮に達した時には、作れるようになるのかもしれない。
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