十三羽 絶対美危うし!テリーの秘密


「ちょっと! テリネヴは近づかないで!!」

「ボクだってミラには近付きたくないんだけど」


 ぎゃいぎゃいと騒ぐ下僕たち。

 テリネヴはペレットをあげるためにうさぎさんの元に行きたいのだが、ミララクラがそれを制する。

 カルナシオンは我関せずの様子でうさぎさんを観察しながら、下僕一号の用意する昼食を待っていた。


「ふんっ! あんたの特性、わたくしは認めていないわ!」

「仕方ないじゃん。街に行くのに人間っぽく成長したら、勝手にああなるんだし」

『? なんでおこってるでしか?』


 うさぎさんは、てっきりカルナシオンに近づくなと言っているように思ったが、どうやらミララクラ自身がテリネヴと距離を置きたいようだ。


「ミラは美しいものが好きだが、自分より美しいものは認めたくないめんど……変わった女だ。テリーがいつも自分をカワイイ枠だと強調するのには、理由があるのだよ」

『ほあー?』


 うさぎさんは疑問符を浮かべながらテリネヴを見る。


 ──うん。おいしそう


 印象は大して変わらなかった。


「テリー、うさぎさんに見せてやってくれ」

「えー……? ダルいんですけど……」


 カルナシオンに乞われると、テリネヴは面倒そうに答えた。


「ちょっ、ダメよ! わたくしがいないとこでやりなさい!!」

「ミラがいなくてもダルいけど……。まあ、他でもないカルナさんが言うなら」


 やれやれ、と言いながらもテリネヴはペレットの入った器を横に置いて、スッとまぶたを閉じた。


『?』

「美しい花が咲くぞ」


 カルナシオンが言うと同時。テリネヴの頭部にあるつぼみが、うっすらと光を帯びた。


『ほあ……』


 徐々にその薄い紫がかった白い花弁が花開くと、六枚の細長い花弁の内側が控えめに顔をのぞかせる。


「はあ、つかれる」

『おはなでし……!』

「ここからだ」


 それだけには留まらない。

 花弁は更に伸びる。伸びて伸びて伸びまくり、テリネヴ自身を守るかのように覆った。

 しかし、その花びらの先端は一向に床に届かない。

 なぜなら花弁と共にテリネヴ自身が大きくなっているからだ。

 ようやく全体をおおいつくしたと思えば再び蕾と化すかのようにぎゅっと閉じる。


 パァッと輝きのあとに見えたのは、一行で最も背の高いアルクァイトよりもさらに高い、細見のすらりとした美青年だった。


『ほあーーーー!?』

「っきいいい!!!!」


 ミララクラはその美しさに嫉妬した。

 自身のように透き通る肌、潤んだ唇。もとの姿を連想させる肩上で揃えられた緑の髪に、気だるげながらも長い睫毛まつげに憂いを帯びた色気ある目元。

 カルナシオンすらすっぽり包み込むほどの伸びた手足。

 ミララクラは自分とはまた異なる造形美に、歯ぎしりする他なかった。


「もー。僕、カワイイ担当だから真花しんかしたくないんだよね」

「何を言う。私の下僕のなかでは、間違いなく美しさ担当だろう」

「ぐぬぬぬぬぬっ!!」

『すごいでしねぇ~』


 うさぎさんは察した。

 そもそも下僕でもないミララクラが、美しさをも担うテリネヴを妬むのは必然であると。


「うさぎさん。テリネヴは体内にある花珠かじゅに魔力をためて、必要に応じて体の成長や再生をコントロールすることに長ける、『花』を持つ森人ドリアスなんだ」

『かじゅ、でし?』


 なんだか美味しそうな名前だとうさぎさんは感じた。


「人間で言えば、心臓みたいなもん?」

「そうだな。それに近いだろう」


 カルナシオンの方を向くとさらりと揺れる、若草色の髪。

 先ほどまで周りの者を見上げていた森人は、すっかり見下ろす側へと変貌を遂げた。


「もーこれダルいんだよね。カルナさん、責任とってよ」

「仕方あるまい」

「!? はぁ!? だっ、ダメよ!! ダメったらダメ!!」

『?』


 うさぎさんは不思議に思う。

 責任をとる、とは何だろうと。ミララクラが慌てるのだから、何か危険なことなのかと少し心配になった。


「はー……、落ち着く」

「どきなさいよおおお!!」


 カルナシオンの方へと近づいたテリネヴ。

 体格差が逆転した二人はソファの元へ行くと、先にテリネヴが腰かけ、次いでそのひざの間にカルナシオンが座った。するとテリネヴは腕の中に主を抱き、頭の上にあごを乗せて何かを堪能たんのうするかのように瞼を閉じた。


「あったかー」

『あったかいでし?』

「うん」


 人肌が温かいだけではない。

 現在、テリネヴは主より魔力を補給しているのだ。

 それが下僕になった条件である。


「こんなに良質な魔力……、ふつうに蓄えるだけじゃ無理……」

「人間でいうところの食事に近いものだ」

『ほあー……』


 うさぎさんは思った。

 確かにテリネヴの口元はいつも衣類に隠れて見えない。

 何かを食べているところも見たことがなかった。


「まあ、嗜好品しこうひんとして料理を食べることもあるけど。花珠かじゅに直接魔力送る方が効率いいし」

『いろいろあるんでしねぇ』


 うさぎさんはテリネヴを食事対象として見ていたことを、ちょっとだけ申し訳なく思う。


『?』


 ミララクラはショックのあまり床に倒れているものの。なんだか背後から、ぞわぞわとした気配がするなとうさぎさんは不思議に思った。


『なんでしかね……』


 ちらりと振り返るとそこには──


「ぐぎぎぎぎぎぎぎッ!!」

『ミエーーーー!?!?』


 廊下からリビングに入る場所。

 壁の合間よりテリネヴを射殺いころしそうな眼で見る炎竜の姿があった。


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