うさぎガチ勢の引きこもり魔導師は、今日もうさぎさんのために伝説を残す~なに?寝床が寒い?ならばコカトリスの羽毛で巣作りだ!~
蒼乃ロゼ
一羽 あやまるうさぎ、喜ぶ主人
『ごっ、ごめんなさいでし~!』
ちまっとした存在感。
丸みを帯びたフォルム。
ミルク多めなカフェオレのように、白とクリーム色のまだら模様が特徴のブロークン・リンクスと呼ばれるその毛色。
毛流れに沿えばつるりとした、逆らえばふわっとした体毛。
頼りない二本の脚を震わせて立ち、垂れた耳をきゅーっと手で押さえ、どうしたものかと怯える小さな生き物。
「…………?」
その存在を見下ろす男は、心底不思議そうな表情を見せながら顎に手を当て唸る。
「なんだ……? この生き物は」
うさぎさん。
中でも、垂れた長いお耳を持つホーランドロップという種。
艶やかな金の長い髪を右耳に掛けた、見目麗しい男は悩む。
彼にとって、目の前で震える生物は初めて目にする存在だった。
というのも、この世界におけるうさぎさんはほぼ野生のもの。
警戒心の強い彼らは、少なくともこの圧倒的な魔力を持つ男の前には姿を現さない。
森によくいるのは遠くまで音を拾える立ち耳のうさぎ。
まして魔物もいる森の中だ。
目の前のうさぎさんのように、俊敏性、ジャンプ力、嗅覚などが多少優れているだけではとても生きてはいけない。
この世界の『うさぎ』さんは、随分と
中には人の手に負えないほど凶暴な個体もいるので、男はこの目の前の存在をそれらと結びつけることができなかった。
『こ、こわいでし……』
そんな男の疑問など知る由もないうさぎさんは、ただただ怯える。
それもそのはず。
ただでさえ警戒心の強いうさぎさん。
ペットショップで買われた人間に、数か月後『引っ越し先では飼えないから』と無情にも山中に捨てられてしまったうさぎさん。
訳も分からず不安だけが募る中、いきなり魔法陣に引っ張られ異世界に呼び出されれば人間ですら驚くというもの。うさぎさんの胸中など人間に計り知ることはできない。
「おい」
『ピャッ!?』
ふいに男が手を差し伸べる。
うさぎさんにとって、男はとても大きな存在。
真上から迫る大きな手に、大きな声。
すべてに対して敏感なうさぎさんは、驚きのあまり足をダンッと床に叩きつけ飛び跳ねた。
「あ……」
怖がらせてしまったか、と男は慌てて手を引っ込めた。
『……』
「……」
互いに見合う。
互いに思う。
──どうしたらいいんだ、と。
「と、とりあえずだ。私はカルナシオン。好きに呼ぶといい」
『……?』
「おまえは? 名はなんという」
右耳の元で輝く真っ赤な耳飾りと同じ、紅の
『? ……おはなし、できるでしか?』
ちろり、とうさぎさんの大きな黒い瞳が男を向く。
本来地球出身のうさぎさんに声帯はない。
時折聞こえる『ぷうぷう』『くうくう』という音は、鼻を鳴らしたり、食道を狭めて出す音だ。
鳴き声が聞こえているというよりは、従魔の契約による魔法効果で直接カルナシオンにうさぎさんの心の声が届いた。
うさぎさんもまた、カルナシオンのおかげで人間の言葉を即座に理解した。
「あぁ。私は従魔としておまえを召喚したんだ」
『じゅうま……?』
「? ……もしや、異世界から呼ばれたのか? 従魔とは、召喚者、あるいは契約者に力を貸す者」
『??』
「つまり、私はおまえの力を貸して欲しいのだよ」
『ミ、ミエ……』
うさぎさんは困った。
なにせうさぎさんには何の力もない。
まして、つい先ほど人間に捨てられたところなのだ。
仮に力があったとしてもきっと役立たずなのだろう。
目の前の男にまた捨てられるのではないか。
うさぎさんには、そんな不安がよぎった。
「……? そうか。もしや、魔力のない世界から来たのか」
うさぎさんはただ震えることしかできなかった。
審判の時を待つかのように。
「ふむ。これはまた意外だな。この私の初めての従魔が魔力なしとは」
『ミ……』
「下僕は多くいるのだがな、従魔と契約するのは初めてのこと。私を楽しませる者をと願ったところであったが……」
男は癖のように顎に手を当てると数秒考えこんだ。
うさぎさんは怯えて動くこともままならない。
こわい。
魔力とやらがないのであれば、自分は果たしてどうなるのか──
そんな気持ちでいっぱいだった。
「魔力はともかく……その姿」
男は怯えるうさぎさんをじっと見つめて、言った。
「す……」
『す……?』
カルナシオンは大きく息を吸い込んで言った。
「……素晴らしい──!!」
『ミエーー!?!?』
よかったらしい。
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初めての神視点で不慣れな部分もあるかと思いますが、なるべく主語を明確にして分かりやすくを心掛けつつ、いつものように好き勝手書いております。
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