繰り返し
PROJECT:DATE 公式
雨の宵
いろは「やっほー、おっはよー。」
陽奈「…。」
今日は2023年の最後の日。
昨日は気持ちのいいくらい晴れていて
気温も高く暖かい日だったから
今日もそのくらい
陽気な日がやってくると思っていた。
が、今年最後の日は
雨と共にやってきた。
いろは「はい、これおせちの1部ね。お母さんも後ですぐ来るって。」
陽奈「…。」
いろは「お店はもう休業入ってるんだっけ?」
ひとつ頷く。
いろはは「そっかー」と
間の伸びた返事をしていた。
年末年始は毎年
従姉妹のいろはのご家族と
私の家族で過ごしている。
今年も例に漏れず
そのイベントがやってきた。
が、今年はひと味
違うものになるだろうな、なんて。
何せ私の身に色々あったものだから。
変に気を遣われる前に
みんなで夕食を取ったら
眠いとか理由をつけて
さっさと自分の部屋に戻ろう。
いろは「お姉ちゃん。」
陽奈「…?」
いろは「今年はいろいろあったねえ。」
陽奈「…。」
いろは「去年もそうだっけ。」
そうだっけ?
そう思いながら
返事を打つためのスマホを取り出す。
去年…。
今年はとにもかくにも、
去年はそんなに何かあっただろうか。
いろは「ほら、雨鯨ができたのは2022年だよ。」
陽奈「…!」
そうだったっけ。
なんだかもっと昔のような気がしていた。
そっか、今2023年だもんね。
みんなと出会ってから
まだ1年前後の関わりだったんだ。
いろは「まあもうすぐ2024年になるし、ほぼほぼ2年前だけどね。」
陽奈「…。」
いろは「…本当に色々あったね。」
陽奈「…。」
いろは「またみんなで通話しない?」
陽奈「…。」
いろは「お姉ちゃんは自動読み上げ音声とか使ってさ!」
陽奈「…。」
いろは「あ、でもそれするくらいならみんなで集まった方がいいかなぁ。」
陽奈「…。」
いろは「どう思う?」
陽奈『秋ちゃん会ってくれるかな。』
いろは「あー、確かに鉄壁の守りだったよね。リアルではきっかけがなきゃ会わん!みたいな。」
陽奈「…。」
いろは「でも、運命力で私、茉莉ちゃんと学校で出会ったし!きっと秋ちゃんとも会える気がしてるんだー。」
陽奈「…!」
いろは「そしたら4人で集まろう?」
いろはは簡単にそう言って見せるけど、
そもそも茉莉ちゃんとの出会いが
天文学的数字てあろうことを
わかっているのだろうか。
もしわかっていたとしても、
それを自分が起こしたと言わんばかりの
自信を持ってして
言っているのだろうななんて思ってしまう。
なにせ目の前にいるのは
いろはなのだから。
陽奈『うん。じゃあ会うためにも受験頑張らなきゃね。』
いろは「うわー、気が重いー。」
いろはは今年度中学3年生。
受験だ受験だと
ひいひい言いながら顔を出してくれた。
普段は3日間ほど集まって
ご飯に行ったりおみくじ引いたりと
いろいろするのだけど、
今年は31日だけということになった。
一昨年私も同じように
してもらったのを思い出す。
そして次は来年。
私が受験生。
こうしてみると歳をとるに連れて
みんなで集まる回数も
少なくなっていくと気づく。
もし私たちどちらかが結婚とか
海外留学とかしたら、
それこそ集まるのが難しくなる。
そう思えばこの時間も
あと数えられるくらいしか
ないのかもしれない。
きっとその時は急に来る。
雨鯨が解散したあの時のように。
陽奈『いろはなら合格できるよ。』
いろは「えーん、ありがとー。」
困ったように顔を
しわくちゃにしながら、
その後笑って答えていた。
今年1年は本当にいろいろなことがあった。
つい最近まで澪ちゃんのことを
何故か忘れてしまっていたり、
3人でトンネルの先に行っては
迷って謎の扉を潜ったり。
そして雨の中、山道の先に
海のような、浅瀬のような。
一面水が広がっていて
その先に公衆電話があったり。
そして声を失って
雨鯨は解散した。
時々考える。
もしも私が声を失っていなかったら
雨鯨は続いていたのかなって。
それとも、片時ちゃんが
…茉莉ちゃんが雨鯨の記憶を
無くしてしまった時点で
もう駄目だったのかなって。
もし続けられていたら
どんな未来があっただろうって。
私たちの曲が誰かに届くことが
もっとたくさんあったのかなって。
今では口笛すら吹かなくなり、
好きな曲を聞くだけの日を過ごしている。
その時やっぱり歌いたくなって
口を開いてみる。
でも、声は出てくれない。
心の問題ではないと
わかっていたとしても、
もう治らないものであろうと
わかっていたとしても、
諦めきれなくて試してしまう。
どうしても歌いたかった。
どうしてもまだ
雨鯨のみんなと活動していたかった。
けど、その全ては叶わない。
陽奈『来年はどんな年のなるかな。』
いろは「んー、また出会いと別れ盛りだくさんの素敵な1年になるよー。」
陽奈「…。」
そうだよね。
常に前向きないろはらしい言葉だった。
未来を見続けられるいろはだからこそ
掴める選択肢も多いのだろう。
彼女の前では
思わず笑みをこぼすしかできなくなる。
うん。
今年はいろいろあった。
けれど、その全てが悪かったわけじゃない。
澪ちゃんや吉永さん、
悠里ちゃん、結華ちゃん、茉莉ちゃん。
そのみんなと出会えたことは
きっとよかったことのはずだ。
きっと、来年だって
いいことはあるはずだ。
いろは「よし、もうすぐお母さん着くって!準備手伝いに行こー。」
いろはの声に乗せられるように
家の奥へと足を踏み出す。
今日で今年は終わる。
でも、終わったとしても
また新しい日がやってくるだけだった。
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