第38話 決勝戦④「反撃開始」

「……メインキャラじゃないとはいえ、最強神さんに負けるとはね。少し舐め過ぎてたよ」


『今大会で初めてアルフィス選手が試合を落としました。最強神選手によって彼の全勝優勝が阻止されましたね』


「ここから二連勝して逆転優勝だ」


 余裕の笑みを浮かべていた表情ではなく、紗音は眉間に皺を寄せて春雪を睨んでいた。


「もう油断はしない。さっきみたいな間違いは二度と起こさないから」


 紗音が選んだキャラはジャバウォックであった。アルビオンに並ぶ彼のメインキャラだ。

 

(紗音の奴、ようやく俺を敵だと認めたか。勝負はここからだな)


(春雪さん、アルフィスの雰囲気が今までと違います。気を引き締めてください)


『アルフィス選手はここでもう一つのメインキャラを出してきました。どんな戦い方を見せてくれるのでしょうか』


 試合開始直後、ジャバウォックが前進して尻尾を振るう。接近戦が不得意なキャラにも関わらず、ジャバウォックの方から攻め始めたのだ。これは春雪も想定外であった。


(何だと……)


 まさかの攻めにギルスはガードを固めて、後退するしかなかった。


(CPUと全然動きが違う! 全く別物じゃん!)


 彁がかつて観戦していたCPUのジャバウォックは、待ちの戦い方であった。だが、紗音の戦い方はCPUとは真逆だ。


(まずいな。先手を取られた) 


 セオリー無視のインファイトに出鼻を挫かれたのが原因だが、春雪はいきなり紗音にペースを奪われていた。


(予想外の動きに遅れを取ったが、いつまでもやられるつもりはない)


 ジャバウォックの攻撃の後隙を突いて、ギルスは刺突で敵を押し出す。


「開幕の不意打ちでもう少し削りたかったところだけど、まあ十分かな」


 ギルスとの距離が離れると、ジャバウォックは足下に地雷を埋める。


(春雪さん。地雷を踏むか爆発に巻き込まれると、即死コンボが始動するので注意してください)


 地雷爆発、相手の吹き飛んだ方向に合わせて弱攻撃、弱攻撃を途中で止めた後に強攻撃、強攻撃で吹き飛ばした相手をミサイルと超必殺技で追撃する。

 ブラストで脱出は可能だが、地雷を絡めた即死コンボの一つだ。


(即死コンボに関しては俺も把握してる。簡単に食らってやるつもりはないぞ)


 ジャバウォックは火球やレーザーを打ち分けて、ギルスを遠距離から攻める。


(飛び道具持ちのジャバウォックに待ち合いでは勝てない。こっちから動くしかないな)


 何発かは被弾覚悟で、ギルスはジャバウォックへダッシュする。


(近づく時に吹っ飛ばされて、地雷に当たらないように注意しないとな)


 ジャバウォックが地面に向けて尻尾を振るうと、地雷がギルスへ投擲される。

 埋めている地雷は爆発する前ならば、威力の低い攻撃で飛ばすことができる。だが、威力の高い攻撃では地雷が爆発するし、技によって地雷の飛距離が異なるため地雷の投擲はあまり実戦では使われない技であった。

 投げ飛ばされた地雷をギルスがガードしようとすると、ギルスに当たる直前に爆発した。紗音は地雷が爆発する時間を計算し、タイミング良く爆発する瞬間を狙っていたのだ。 


(さっきの爆発狙っていたのか!?)


「最強神さんが地雷を警戒しているのは分かっているからね。無理矢理当てさせてもらったよ」


 爆発で吹き飛んだギルスにジャバウォックは弱攻撃で追撃を始める。ジャバウォックは弱攻撃を二段で中断し、強攻撃でギルスを吹き飛ばそうとするとブラストで即死コンボに割り込む。


「即死コンボは囮だよ。本命はーー」


 ブラストで弾き飛ばされたジャバウォックをギルスが追いかける。


「超必殺技を使った暴れだろ」


 ジャバウォックが全身の武装を一斉掃射しようと構える。超必殺技の前兆であった。

 春雪は紗音の戦術を読み切り、カウンターを合わせる。ギルスは超必殺技を受け切り、カウンターの槍の一撃でジャバウォックを倒す。


「……僕の狙いを読んで、冷静に最適解を選ぶとはね」


「お前の方こそえげつない手を使うな」


 ジャバウォックの超必殺技にはスーパーアーマーが付いている。

 スーパーアーマーは一定以下のダメージの攻撃に怯まない仕様のことだ。ギルスがジャバウォックに追撃した場合、超必殺技を阻止できず、技の餌食になっていただろう。

 ブラストを使用した直後で威力の高い必殺技は使えないため、カウンター以外の技を使用した場合、春雪の敗北が確定していたのだ。


(マスターが美少年の戦術を上回ったよ! マスターに勝利の流れが来ているね!)


 二連勝に彁は浮かれているが、春雪はまだ気を緩めていなかった。


『最強神選手が二勝したことで、勝負は最終セットまでもつれ込みました。次の勝負で新旧最強対決も完全決着です』


「予想外の展開だよ。この僕が最強神さんに二敗するなんてね」


「俺を格下だと舐めない方がいいぞ」


「認めたくないけどそうみたいだね。だけど、最後に勝つのは僕だ」


 二対二の接戦で紗音が選択したのは、彼の切り札であるアルビオンだ。

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