こっちも「浮気してる?」って聞きたくないけど、聞きたくなるくらいに好きだってことが伝わればいいなって思ってるんだよ。
こっちも「浮気してる?」って聞きたくないけど、聞きたくなるくらいに好きだってことが伝わればいいなって思ってるんだよ。
こっちも「浮気してる?」って聞きたくないけど、聞きたくなるくらいに好きだってことが伝わればいいなって思ってるんだよ。
エリー.ファー
こっちも「浮気してる?」って聞きたくないけど、聞きたくなるくらいに好きだってことが伝わればいいなって思ってるんだよ。
回りくどいかもしれないけれど、それが言葉というものなので。
私は何度も吐き出した言葉に、何の意味もなかったことを知る。
独りである。
川を見ていた。
旅行に来て、特に何もすることはなく、旅館にあった大量の漫画を読み切って、次に何をするかを決められないまま一時間過ぎた。
気が付けば、川である。
光を反射して輝き、時間の経過と共に表情を変え、その中に生命を住まわせる川である。
私は一体、何になりたかったのだろうか。
初めての経験に昂っていたのか。
まさか。
いや、そのまさかだったような気がする。
恥ずかしいという気持ちはなかった。
おそらく、それが足りなかったことがいけない。
恥ずかしさとは、エンタメ性でもある。
提供しなければならなかったようだ。
と、理解したものの、少し冷静になると、恥ずかしさもあったはずだと思ってくる。
どちらが正しいのか。
私にも分からない。
客観的な視点は存在しない。
主観から生み出される客観しか存在しない。
好き、という感情も。
嫌い、という感情も。
浮気している、という事実も。
浮気していない、という事実も。
視点による。
川がうなる。
いや。
うなったような気がした。
雀がいた。
いや。
いたような気がした。
私は川に沿って歩き始める。
仕事をどうするか考えている。
失いたい、何もかも。
肉体と生命は抱えたままであるとしても、身軽になりたいのだ。
夢を見たいのに、その体力がない。
私の目の外には何もかもがあるというのに、私の目の中には何もない。
私の所有物になりそうもないものばかりだ。
いっそ、自殺をしてしまおうか。
このまま、どこにもいない存在となることができれば、哲学に浸って死を迎えることができる。少し離れたところに崖があると聞いていたので、身投げをしようか。いや、この川に入って溺死でもいい。
「溺死は難しい」
どこからか声が聞こえた。
振り向き、あたりを見回す。
誰もいない。
神のお告げか。
まぁ、とにかく溺死はやめよう、転落死で確定。
ただ、崖がどの方向にあるのかも分からない。
迷っているような気がする。
いや。
そう思っている時には既に迷っていると言っていいだろう。
「よくなかったのかな」
言葉が漏れた。
もちろん、口からだった。
「そりゃ、そうか」
ため息が出た。
「だって、浮気してたらどうしようって思ったから。聞いちゃったんだもん」
雨が降ってきた。
「聞かれることって、そんなにウザいかなぁ」
涙が出た。
「確かめたくなるほど、好きだってことがなんで伝わらないのかなぁ」
もう、迷ったままでいいと思った。
当分は、ずっと。
いや。
やっぱり、すぐにここから出たい気もする。
そうか。
好きだ、と言えばよかったのだ。
好きだから離れたくない、と言えばよかったのだ。
好きだから浮気されると悲しくなる、と言えばよかったのだ。
知っている言葉を次から次へと出して、装飾したり、自分の知性を出してみたり。
何一つ、必要なかったのだ。
言葉を知っているのに。
伝え方は何一つ知らなかった。
そして。
気が付いた。
もう、こんな質問をして壊れかける関係に意味なんてないのだ。
そう。
音が聞こえて、指で確かめたら亀裂が入っていた。
ただ、それだけのことではないか。
ただ、とか。
それだけ、とか。
なのだ、とか。
乾いた言い回しを使って、浮気をしているか、していないか、という湿った感情を持った自分をなかったことにしようとしている。
まさに、強がり。
こうやって、自分は強がりであるということを自覚できる、または自虐が可能な大人びた精神状態であるということに浸って無意識のうちにオナニーをするような下劣な思考。
そして、それもまた客観的に言葉にできるという、自分の冷静さに酔おうとする浅ましさ。
浮気してるって聞かなきゃよかったし。
浮気してるのって聞く自分になりたくなかったし。
浮気してるのかなって聞いた過去だけはいらなかった。
「あのさぁ。浮気、してるよね。俺、気付いてるから」
「そう」
こっちも「浮気してる?」って聞きたくないけど、聞きたくなるくらいに好きだってことが伝わればいいなって思ってるんだよ。 エリー.ファー @eri-far-
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