大失敗。大惨敗。
エリー.ファー
大失敗。大惨敗。
「あのぉ、失敗してしまったんですけども」
「何故ですか」
「さぁ、なんでなんですかねぇ」
「考えて下さい」
「考えるのが苦手なんですけど」
「奨学金をもらって、遊んでました」
「大学は卒業したんですか」
「中退です。講義に行くのが面倒臭くてしょうがないんです」
「あぁ、大惨敗ですね」
「大失敗って、どんな味がするんでしょうかね」
「甘いと思いますよ」
「何故ですか」
「だって周りを見渡せば失敗を繰り返してる人ばかりじゃないですか。甘くないのに、失敗続きなら、流石にバカだと思いますよ」
「大失敗してもいい、強い人間になって欲しい」
「大成功して、強い人間になって欲しい」
「それは、確かにそう」
「失敗じゃなくて、大失敗」
「惨敗じゃなくて、大惨敗」
「あのぉ、ここら辺に大失敗って落ちてませんでしたか」
「何もないですよ。見つけたのは、ゴミだけでしたね」
「ゴミってことは、つまり大失敗じゃないですか」
「いやいや、ゴミってたまに大成功になったりしますからね。大失敗って、ゴミにもなれませんから。大失敗は、ただの大失敗です。それ以上でも、それ以下でもありません」
「そうですか。じゃあ、そのゴミは結構です。どこかに捨てて下さい」
「いや、捨てようにも手から離れなくて」
「何か、粘着質のものなのですか」
「いや、こういうゴミって、命に溶けてきませんか」
「意味が分かりません」
「まぁ、そのうち分かってきますよ」
「分かりたくもないです」
「分かりたくなくても、分かってしまうものだ、ということです」
「さようなら」
「はい、さようなら」
「失敗と惨敗って何が違うんですか」
「失敗よりも惨敗の方が悲惨だ。そして、大失敗とは、つまるところ惨敗のことを示している」
「つまり、悲惨さで並び替えると、大惨敗、惨敗もしくは大失敗、失敗、ということですね」
「そう」
「情報のソースを教えて下さい」
「忘れた」
「忘れた、ということは失敗ですね」
「いや、大失敗だ」
「つまり、惨敗と言えますね」
「ここまで根掘り葉掘り聞かれてしまっては大惨敗と言うほかない」
「いつになったら、今、人類に降りかかっている悪夢が大惨敗、惨敗もしくは大失敗、失敗の内のどれかなのかが分かるのでしょうか」
「分からない」
「分からないことは失敗ですね」
「いや、大惨敗だ」
「大失策だ。すまない」
「いや、大失策ではなく、大失敗と言うべきです」
「いや、策を間違えた。本当にすまない」
「その部分の謝罪なんて必要ないんですよ。私が求めているのは、その後の発言の謝罪なんです」
「本当にすまなかった」
「何がすまなかったか分かっていますか」
「本当に、本当に、すまなかった。大変申し訳なかった。謝罪したい。この通りだ。すまなかった」
「大失策ではなく大失敗と言うべきだった、そう言って謝罪して下さい。それが日本語を使う者としての当たり前の礼儀です。絶対に正しい言葉を、絶対に正しい状況で、絶対に正しく使って下さい。いいですか、約束して下さいよ。お願いしましたからね」
「すまなかった」
「だから、何を謝罪するべきなのかを真剣に考えて下さい」
「謝罪一つ満足にできないなんて、自分のことが情けない。大失敗だ」
「言うとしたら、大惨敗ですよ、間違えないで下さい」
「あの人、日本語にうるさいよね」
「でも、指摘したいだけで、あの人が日本語に詳しいわけじゃないからね。実際、時代とか状況とか情報の送信者と受信者の関係と感情によっても変わるものだから、一概に、これが正しいとか、あれが間違ってるとか言えないんだけどね」
「え、じゃあ、あの人の指摘って、失敗してるじゃないですか」
「違う違う。それは失敗じゃなくて間違いだから、ちゃんと日本語を使おうね」
「違う違う。それは、日本語的な表現の正しさよりも会話の流れを重視しただけですから。もう、それも分からなくなっちゃったんですか」
「いやいや。そういう状況でも日本語こそが正しいわけで」
「いやいや。そういう状況で日本語の使い方に依存して正しさを決めつける行為が結果として情報共有という本来の役目を放棄していて」
「いやいや。そうは言っても正しさがそこに存在しない限りは」
「うるさい」
「うるさいっ、そっちこそうるさいっ」
「大失敗うるさいっ」
「大惨敗うるさいっ、ウルトラうるさいっ」
「うるさくないっ」
大失敗。大惨敗。 エリー.ファー @eri-far-
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