後悔で先(明日)に進めなくなったんだけど
Mostazin
第1話 後悔で先(明日)に進めなくなったんだけど
「おい、それはどういうことだよ!?」
俺は目の前で大きな肘掛け椅子に座っている自称
(彼女の恰好は赤い色の民族衣装のような服装をしていて、首には真珠のようなものでできたネックレスを首に巻いていて、左手には水色のミサンガを着けている。顔はスカーフのようなものを身に着けているせいかよく見えない)
「何度同じことを説明させるんですか? だから、人間誰しもミスすることあるじゃないですかー」
「お前、神様なんだろ!?」
俺はすぐにそうツッコミをいれた。
もうこの自称死女神に対してのムカつきが止まらない。何でかって?
それはこの目の前にいる自称死女神に手違いで殺されたからだよ。
まあ、実際は赤信号にも関わらず突っ込んできたトラックに轢かれて死んでしまったのだが、そのトラックは本来、別のヤマモトハジメさんを轢くはずだったとのことだ。
『俺のおかげで別のヤマモトハジメさんが生きることができたと考えれば悪くないのかも』と性格のいい人ならそう考えるのだろうが、生憎俺はそんなに人間ができている訳ではないから、ただ殺された現実にムカついていた。
ってか、死女神ってなに?
色々と混ざりすぎだろ!
そんな平行線の会話をコイツとしていたからか、机と椅子一つずつしかないあの世かこの世かもよく分からない真っ暗な場所で5分くらいしか経ってないのに一生分くらいツッコミを入れた気がする。
「すみませんでしたー。これでいいですかー」
目の前にいる死女神は面倒くさそうに言った。
こいつ、俺を間違えて殺したんだよな? なのに、俺を馬鹿にするかのように笑っているような気がした。
「いやね、間違えて殺しちゃいましたで許せる人なんていないから。マジでどうしてくれるんだよ」
「……じゃあ、エンマ君と話してくるんでちょっと待っててくださいー」
自称死女神はこの真っ暗な部屋にポツンと置いてある固定電話からエンマという人に電話しに行った。
ん、エンマ……? えっ、閻魔大王のこと?
「エンマ君、悪いんだけど前言ってた人を生き返らせてほしいんだけど。うん、手続きとかは私がやっておくから」
コイツ、閻魔大王と会話してるっぽい。しかも、エンマ君って馴れ馴れしく呼んでる。もしかすると、彼女は本当に死女神というやつなのかもしれないな。
……にしてもおっちょこちょいで人を殺すのはヤバすぎるから、本当にそうだとしても絶対に認めないけどな。
「はい、じゃあ、生き返れますー。よかったですねー」
「え? マジで?」
「でも、軽く山本さんの過去見たんですけど、後悔ばっかりの人生だったみたいですねー」
コイツ、自分のミスで人一人殺しといて、まだ煽るとは根性があるのか、性根が腐ってるのか……。
「だから、なんだ。俺には確かに友達はいませんよ」
「だから、高校生から生き返らせてあげますよー」
「は?」
「だって、山本さんが1番後悔してるの高校生の時ですから。では、生き返ってらっしゃいー」
「お……おい! 俺は……うわあああああ!」
急に地面に穴ができて、そこに俺の体は吸い込まれていった。このクソ死女神に何も言い返すこともできずに……。
☆☆☆
「山本さんー。起きてくださいー」
あの俺を殺した嫌な奴の声が聞こえてきた。
「起きないと、また殺しちゃいますよー?」
「はいはい、起きてますよー」
こいつ、死はついてるけど、一応女神なんだろ? その癖に、この脅し文句を使うのは神としてどうかと思う。
「生き返りおめでとうございますー」
「殺された相手にそう言われるの嫌なんだが」
「私と話したい時は私の名前、アケミって上に向かって大声で叫んで下さいねー。地上の声聞こえにくいのでー」
この言葉を聞いた時に絶対にこいつの名前は呼んでやるもんかと固く誓った。その後、無視をするかのように何も答えないでいると、死女神が続けて話し始めた。
「あ、一つ言い忘れてたのですが、山本さんの人生後悔ばっかだったので、後悔したら人生をやり直せるようにしときましたー」
「え?」
コイツは何を言ってるんだ?
全く理解できない。
「意味わかんないんだけど」
「後悔したらそこからやり直しできるってことですー。最高じゃないですかー」
もう一度聞いてもよく分からない。そんな中、死女神は説明を続けた。
「山本さんは高校時代で合計10個の後悔をしているみたいなんです。だから、もう後悔しないように気をつけて下さいねー。あ、でも、死ぬのは勘弁です。汚職がバレますのでー。まあ、後悔の内容がわからないときは私を呼んでください。では、またー」
「お……おい、ちょっと待て!」
そう呼びかけたが、死女神の声は聞こえなくなってしまった。こうして特別条件ありの高校生活が突如として始まった。
ってか、俺の生き返りってやっちゃいけないことだったのかよ……。そんな事を考えていると、下からお母さんと思われる声が聞こえてきた。
「ハジメ! あんた誰かと話してるのー? 朝ごはんできてるわよ!」
最近家に帰ってなかったからお母さんの声を聞くのは久しぶりだな。でも、過去に戻ったからなのか、ここでいう未来でのお母さんと比べると大分声の張りが違う気がした。
「わかってる。今行く!」
俺は大きめの声でそう言ってベッドから起き上がる。もう4月になるというのに、少し肌寒い。
体を軽く摩りながら、階段の一段目に足をつけた。
その瞬間、ある嫌なことを思い出した。
それは入学式の日、つまり今日、今まさに降りているこの階段で躓き、流れるように階段を滑り落ち、右足首を骨折。
そのせいで入学式を欠席、一週間遅れで初登校という考えうる中で割と最悪な高校入学のムーブの一つをしてしまったのだ。
だが、気づいた時には俺は階段の一段目に右足をつけていて、既にもう片方の左足を無意識にも二段目につこうとしていた。
「や……やばい! この二段目で滑って転んだんだ。止まってくれ!」
そう願ったが、体は言うことを聞かずに、ゆっくりと階段に足を乗せてしまった。そして、前の人生の時と同じように少し踏み外してしまい、重力に従い階段を滑り落ちていった。
全身が痛い。特に右足首が痛すぎて、涙が染み出てきた。その滑り落ちた音を聞いてすぐに、お母さんが走ってきて、俺の体をゆすった。
……お母さん、未来より随分とスリムだな。
「ハジメ、大丈夫?」
お母さんは俺にそう聞いた。が、痛みが凄すぎて意識が朦朧としているから、何も答えられない。それに気づいたお母さんはお父さんに救急車を呼ぶように大声で伝えた。
「も……もうすぐ救急車来るからね!」
お母さんのこの言葉に安心したのか、痛みの我慢が超えてしまったのか、はたまた両方によるものか分からないが、その言葉を最後に俺は気絶してしまった。まるで、前回の人生と同じように。
☆☆☆
「はぁ……山本さんー。やまもとさーん!」
またあのやかましい声が真っ白な天井から聞こえてきた。
「殺しますよー」
「あいあい。俺はちゃんと起きてますけど?」
そう言って起き上がったが、前回の時のような病院のベットではなく、俺が生き返った時と同じ自分の部屋にいた。
「何で早速後悔してるんですか? 後悔したいんですかー?」
「はあ?」
この死女神の言い方がいちいちムカつくな。ってか、この状況が意味分からなすぎる。本来なら病院にいるはずなんだけどな。
そんな事を考えていると、死女神が続けて話す。
「いきなり後悔しないでください。後悔した日に気絶とか、寝る行為とかすると最新の後悔後に戻るって言ったじゃないですかー」
「は?」
……やっとこの死女神がしでかしてくれたことを理解することができた。と同時に、とてつもない恐怖を体中で感じた。
だって、俺の後悔を超えない限り永遠に明日に行けないんだぜ?
それこそ同じことを何度も何度も。想像しただけで頭がおかしくなる。
このクソ死女神め……。
俺はただただ絶望し、この死女神をより嫌いになった。
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