【3-2】キャラクリには時間をかけるタイプ






「ところで、お酒ってそんなに美味しいのですか?」


 美人のエカテリーナを眺めながら酒を飲む、至福の時間が始めって数十分。


 兄のカールに用事があったエカテリーナだが、その兄は疲れと酒に酔ってしまい爆睡してしまっている。


 そのまま退室するかと思われたエカテリーナだが、意外にも彼女は部屋を出ようとせずに俺と雑談をしてくれていた。



「まぁ、俺は美味しいと思いますけど……飲んだ事ないんですか?」

「ないですよ。お酒は二十歳になってから、なんですよ?」


 まるで子供を優しく叱るような表情でそんな事を言うエカテリーナだが、どっかの冒険者は十八だというのにガバガバ飲んでいたが。


 まぁ彼女とは品格も何もかも違うか。比べる事が烏滸がましかったな。


「あれ、でもエカテリーナ様って二十……っと、失礼しました」

「別に私は、歳を聞かれる事に対して何とも思いませんよ? 今年で二十歳になりますね」


「そ、そうですか。でもそれなら、もう少しで飲めるじゃないですか」

「そうですね。ゴノウエ様とお兄様のお顔を見たら、飲める日が楽しみになってきました」


「まぁでも、酒には気を付けないとダメですよ? あんな風になってしまいますから」


 鼾をかき始めたカールを見ながら、エカテリーナに注意喚起を行う。


 俺も初めて飲んだ時はゲロゲロしたっけなぁ。今でこそ自分の限界を知り、飲み方も学んだが……どちらにしろ酔うとアホになるため意味を成していないか。


 エカテリーナは酔うとどうなるのだろう? どっかの冒険者のように暴力的になったりする事はないと思うが、見てみたい気持ちはある。



「酒は飲んでも飲まれるな、ですよね?」

「ですね。あんな風にはなりたくないでしょう?」


 カールを悪い例としてエカテリーナに伝える。酔った女性というものを何度も見た事はあるが、あまり良い記憶はない。


 キス魔になるとか、抱き着き魔になるとか、そういう漫画みたいな女性は見た事ないな。


 精々ガードが少し甘くなる程度、あとは大多数がカールと同じようになる。


「確かにアレは……では、正しい飲み方をご教授頂けるでしょうか?」

「あぁ、もちろん――――」



【A・今度、二人で飲みましょう】

【B・今度、三人で飲みましょう】

【C・今度、四人で飲みましょう】



 久しぶりに恋愛ゲームの選択肢が表示された。


 しかしなんだこの選択肢、どれも人数が違うだけで意味は同じではないか?


 人数が意味する所……二人で飲むというのは、エカテリーナと俺の仲では早いのかもしれない。


 三人というのは俺とエカテリーナ、カールの三人の事だろう。だが四人とはなんだ? このメンバーに追加されるもう一人って誰だろう?


 二人はない、三人か四人だな……そんな事を考えていると、画面端にカウントダウンが現れたため急いで選択を行った。



「――――今度、三人で飲みましょう」


 ここは無難に三人を選択。もう一人が誰の事か分からないが、分からないからこそ迂闊な選択はしない方が良いだろう。


 さて結果はどうだろう? 確認した事があるのは、好感度上昇のハートエフェクトと停滞の横風エフェクトだが……くそ、横風か。


「ありがとうございます。もしよろしければ、お姉様を誘ってもいいでしょうか?」

「……お姉様って、第一王女様ですか?」


「はい。アンジェリーナお姉様です。せっかくですので、家族とも飲んでみたいなと」

「お姉様が良ければ俺は構いませんけど……家族と言うなら、第一王子様は――――」


「――――あっ、あの人はいいです。お忙しいでしょうから」


 楽しそうにしていたエカテリーナから笑顔が消えてしまった。忘れていたが、エカテリーナに第一王子の話は禁句だった。


 何があるのか分からないが、兄の事をあの人呼ばわり。第一王子の話は、選択肢の失敗より好感度が下がってしまいそうな雰囲気になるな。



「では、その時を楽しみにしていますね」


 エカテリーナは再び笑顔に戻ってくれたが、第一王子の話を出したせいなのだろうか? 話を切り上げ部屋を出ようと椅子から立ち上がった。


 彼女を見送るため、俺も椅子から立ち上がり部屋の入口へと向かう。


 部屋の扉を開けようとした瞬間、何かを思い出した様子のエカテリーナは振り返ると、小声で話しかけてきた。


「そういえばゴノウエ様。エルフ酒の件なのですが……」

「あっ……」


「あってなんですか? もしかして、忘れていました?」

「い、いえ! そんな事ないです! 目下捜索中であります!」


 少しだけムスッとした表情と上目遣いは、簡単に俺の心に突き刺さった。これを受けて動揺しない男なんている訳がない。


 話を聞くと、エルフ酒についてはエカテリーナも情報を得られていないらしい。


 こっそりインベントリを開きクエスト一覧を表示させる。サブクエストの第二王女からの依頼、残りの日数は12日。


 王女でも手に入れられない物を、一介の御者が12日で入手できるのか?


 ……まぁ、ゲームなんだしクリアーできそうだな。難易度は高めでもクリアー不可のクエストなんてないだろうし。



「何人ものエルフ族の方に聞いてみたのですが、全くと言って良いほど……」

「な、なるほど……その、なんとかします! でも過度な期待しないでもらえると……」


「ごめんなさい、期待しちゃいますね?」


 お願いします、そう可愛らしい声で言ったエカテリーナは部屋を後にした。


 失敗したら相当に落胆させてしまう事だろう。安請け合いしたように聞こえただろうが、俺はこのサブクエストに全力を注いでやるつもりだった。


 メインクエストよりサブクラスとかおかしいだろうか? だってさぁ……可愛いんだもん。


 男にとったら女性の願いを叶えてやるのはメインもメインだろうよ。


 まぁとりあえず、エカテリーナの乱入で保留していたギフトを取得しようか。




 ――――




【ジョブギフト】

【御者Lv5】


【スキルギフト】

【護衛召喚LvMAX】【眠々打破Lv1】【馬車結界Lv1】【従馬召喚Lv2】


【ユニークギフト】

【守護者召喚Lv1】


【オリジナルギフト】

【ゲーム化LvMAX】【カスタマーサポートLvMAX】



 まぁご覧の通り、ユニークギフトの守護者召喚を取得した。


 というか馬車改造ギフトだが、そもそも改造する馬車を所持していない事に気が付いたのだ。


 ちなみに守護者召喚をレベル2にするにはGIpが55ポイントも必要。レベルマックスまでは果てしなく遠いな。


「さて、せっかくだし呼んでみようか」


 ここは王城で、これから寝るだけなので護衛だろうが守護者だろうが必要はないのだが、やはり新しい物というのには心が躍る。


 どんな見た目なのだろう? どんな風に言葉を発するのだろう? ランダム生成だろうが何だろうが、会話できるというのは素晴らしい。


「よし……守護者召喚ッ!」



【守護者が登録されていません】


【新しい守護者を作成しますか?】


【はい】

【いいえ】



「……なぬ? 守護者を……作成?」


 急にそんな表示がされて戸惑う。もしかして、ランダム生成じゃないのだろうか?


 なにはともあれ【はい】を選択。するとまさかの画面が目の前に表示された。



【名前】 <名前を入力してください>

【性別】 ………………

【年齢】 ………………

【種族】 ………………

【職業】 ………………

【性格】 ………………

【口調】 ………………

【語尾】 ………………

【呼称】 ………………

【造形】 ………………



「キャ、キャラクリだと……!?」


 キャラクリ。またの名をキャラメイク、キャラクタークリエイトとも言っただろうか?


 ともあれそれは、自分でキャラクターを好きに作成できるゲームの一種。好きな人はこれだけで何十時間も遊べると言う、時間を奪うゲームである。


 目の前に表示されたのは紛れもなくキャラクリの画面。右側に3Dキャラが表示されており、左側にある項目を弄ってキャラを作り上げていく王道タイプのようだ。


「マジかよ……自分で作った守護者を呼べて、会話できる……!?」


 震える手で性別、女を選択する……反応しない、なぜだ? そうだった、念じるだけでいいんだったな。


 職業など、比較的簡単に選択できる項目を選び終わり、いよいよキャラの造形に手を入れる。


 ……めちゃくちゃ弄れるぞ!? たまに物凄く細かい所まで弄れるキャラクリがあるけど、そのタイプだとは。


 頭の中には一つの姿が思い浮かんでいる。忘れないようにと必死に記憶した、あの美しい姿はハッキリと覚えている。


 気が付けば酒を飲む事もトイレに行く事も寝る事も忘れ、キャラメイクに没頭した。


 ――――そして気が付けば朝に。


 起きたカールが驚きの叫び声を上げ、その声に反応したメイドさんと騎士達が雪崩れ込んできた瞬間に、俺の初キャラクリは終了した。


 造形に夢中で他の設定を見返すのを忘れていたが、大丈夫だよな……?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る