【1ー18】スライム需要がヤバい世界






 四人の冒険者風のパーティーが俺の元へとやってきた。


 俺と護衛の事をジロジロと見るリーダー風の男、大盾を持っている大男に魔法使いっぽい小男、それに随分と軽装な女からなるファンタジーパーティーのようだ。



「なんか変な組み合わせだな? 良いとこの坊ちゃんが傭兵を連れて散歩でもしてたのか?」


 なんて、小馬鹿にするかのような言い方と表情で言葉を発したリーダー風の男。


 まぁ確かに俺の恰好はどう見ても戦闘する者のそれではない。こんな格好で魔物と戦うなんて馬鹿か世間知らずの坊ちゃんくらいだと言いたいのだろう。


 しかし王城のメイドさん達が優秀なので、外着が今の所これだけで間に合っているのだ。


 寝巻に着替えて洗濯籠に服を放り込んでいれば、翌朝には洗濯済みの衣服が部屋前に届けられているのだから。



「ちょっと護衛の力試しに来ていただけだよ」

「力試し……? なんだよそれ? アンタ達も大変だなぁ」


 憐れんだ目で俺の護衛に同情するリーダー。しかし護衛達は反応しないどころか目も合わせる事はなかった。


 世間知らず金持ちお坊ちゃまの道楽に付き合わされる護衛、そんな風に思われているのだろう。当たらずとも遠からずなせいか、なんか申し訳なくなってきた。



「まぁそれよりも、素材は持って帰らないのかよ?」

「素材は……う~ん」


 売って金になるのであれば少しでも稼いでおきたい所だが、労力に見合う額が支払われるだろうか?


 だってゴブリンとスライムから取れる素材なんてたかが知れてるだろ。そのたかが知れている物を取る為に、俺はゴブリンを解体しなきゃないのか?


「グリーンゴブリンはまだしも、グリーンスライムは勿体ないだろ」

「もしかして高く売れるのか?」


「売れるさ! スライム素材は色々な物に使われるし、スライム専門の冒険者がいるくらい……ってアンタ、本当に知らないのか?」


 どうやら常識らしい。強い魔物から取れる素材が高額だという、偏ったインフレ異世界知識しかなかったせいか。


 よくよく考えれば、強い魔物の素材だから高額って事はないだろう。需要がなければ売れないのだから。


 逆に弱い魔物の素材でも需要があれば高く売れると。



「運よく倒せたんだから取っとけよ。いらねぇなら俺達がもらうけど?」

「運よく倒せた? どういう事だ?」


「どういう事って、スライムは人前にほとんど姿を見せないだろ? 人を見るとすぐ逃げるし」


 それはなんていうメタルなスライムだ? しかし奴を倒しても経験値はゴブリン以下だった気がするが。


 というかすぐ逃げるって、全く逃げなかったし向こうから向かってきたぞ。


「グリーンゴブリンとつるむってのは珍しいな。というか初めて見たぜ」

「あ~、そういう事ならきっと……」


 バトルシステムに強制されてしまったのだろう。それもターン制コマンドバトルの特性なのかもしれない。


 戦闘の意思があったのはゴブリンだけで、スライムは戦闘を行うつもりなどなくその場に居合わせてしまっただけだと。


 よくよく考えればメタルなスライムってすぐ逃げるじゃん? ならなんで現れるのって思うが、あれはシステムに拉致られたんだな。


 つまりスライムを狩るのに最適なのはターン制コマンドバトルという事か。



「そんでどうすんだ? 素材、いらねぇのか?」

「いや、高く売れるなら持って帰るよ」


「そうか。まぁアンタらの獲物だ、横取りはしねぇよ」


 その後、少し雑談のようなものをして彼らと別れた。


 彼らは青銅級パーティーの冒険者で、この森にある初級ダンジョンに向かう途中だったそうだ。


 踏破済みのダンジョンに潜るなんて意味なくね? と思ったが、どうやら定期的に宝箱が復活するらしいので実入りはあるらしい。絶対に遊戯神の遊び心だと思う。



「しかし、面白い話も聞けたな」


 彼らは言っていた、ダンジョンに向かう道中が面倒だと。


 面倒で済めばいいが、道中で魔物の横やりが入ると疲弊するし物資も消耗する。行動が遅れてしまえば予定になかった野営を行う必要性も出てくると。


 実際にダンジョンに到着した時には満身創痍……なんて低級の冒険者パーティーにはよくある話だそうだ。



「護衛馬車……いけるかもな」


 そこで俺は思った。そんな冒険者パーティーを疲弊させる事なくダンジョンまで連れて行く馬車、護衛馬車の需要があるのではないかと。


 もちろん値段は重要だ。ダンジョンでの儲けに対して馬車代が高ければ使われないだろう。


 観光馬車や定期馬車のついでにダンジョンに寄るとかすればコストが抑えられるかも……なんて事を考えつつ、俺はスライムの回収を行った。



 ――――



「いらっしゃいませ、商業ギルドにようこそ」


 スライムを護衛に担がせ、俺は魔物の素材が売れるという商業ギルドへとやってきた。


 ほんと便利で優秀な護衛である。スライムの解体など出来ないので全てを持ち帰るしかなかったのだが、正直触るのが嫌だった。


 そこでオッサン護衛に持ってくれないかと頼んだところ、快く(無表情)承諾してくれたので担いでもらったのだ。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 ご用件も何も、後ろにいる無表情でスライムを担いでいる大男の姿が目に入らんのかね? といっても関係者だとは思わないか、傍から見たら本当に異色だし。


 最初、スライムを担いで冒険ギルドに行ったのだが、フリーの素材買取は行っていないとかで追い返された。


 基本的に冒険者登録を行ってないと売れないとか。更に依頼などで素材の納品があった場合は問題ないが、依頼になかった魔物の素材は安く買い叩かれるっぽい。


 だから俺は傭兵ギルドに向かった。傭兵ギルドは登録なしでも売れるらしいが、買い取り額は冒険ギルドと差ほど変わらないらしい。


 そして傭兵ギルドで商業ギルドの事を教わったのだ。ほんといい奴らだよ。俺、現時点では間違いなく冒険者より傭兵の方が好きだわ。



「スライムを売りに来ました」

「あぁ後ろの……それでは見せてもらっても宜しいですか?」


「――――」

「……? あの、スライムを見せてもらっても……?」


 なぜかスライムを降ろそうとしないオッサン護衛。なにやってんだコイツはと思ったが、奴らの仕様を思い出した。


 召喚者の命令しか聞かないとあったので、俺が指示しない限り動かないのだろう。戦闘では有能なのに、こういう所は面倒だな。


 オッサン護衛に降ろす様に言うと、あっさりと降ろして見せた。微妙に受付さんが苦笑いをしたが、気にしないでくれると助かる。



「グリーンスライムですね。状態が良いですし中々大きいですので、15万ゴルドでお譲り頂けないでしょうか?」

「15万!? スライムが!? いいんですか!?」


「えぇもちろんです。その価値はありますので」


 金だ、スライムは金になる。スライムバブル、バブル○ライムだ。


 確かに少し大きい気がしたスライムだが、大人であれば片腕で運べるサイズ。それを1ターンで倒してここに持ってきただけで15万。


 御者なんてやらずにスライムハンターになった方が良い気が……と思ったが、そう上手くはいかないようだ。



「スライムは本当に見つけるのが難しいですからね。運よくスライムを討伐し、買い取り額に味をしめた者がスライム討伐専門家になったりしますが……8割は失業してますので、おススメはしませんよ」

「な、なるほど」


 スライムバブル弾ける。そりゃそんな簡単に討伐できるならスライムハンターで溢れかえってるわな。


 スライム自体はさほど強くないので討伐は簡単だが、そもそも出会えないとなると強い弱いなど関係ない。


 しかし見つけたら積極的に狩っていく事にしよう。



「ちなみにスライムって何に使われるんですか?」

「そうですねぇ。スライムには独特な弾力性がありますので、緩衝目的で使われる事が多いです」


「なるほど、馬車のクッションはスライムで決まりだな……」

「後は熱を通しにくいので家屋の断熱に使われたり、防具にも使われたりしますね」


「スライムは万能ですねぇ」

「あとはそうですね。私も大きな声で言うのは恥ずかしいのですが……」


 なんとスライム、避妊具になるらしい。


「ちなみに受付さんは使った事ありますか?」

「まぁ……はい」


 ちなみに受付さん、美人です。

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