八杯目 決意

「じゃあ、俺は執筆に戻るから…サヤさんも接客に戻った方がいい。」


「はい!ありがとうございます…では。」


一礼して、サヤは接客に戻っていった。

少しだけ本音を出せた二人は、いつもより仕事が捗ったのだった…

もう、外が暗くなり始めた頃…


「…腰が痛い。伸びた方がいいか…」


レドはぶっ通しで小説を執筆していたので、腰を痛めたようだ。

伸び~としていると…


「レドさん、今日は小説進みましたか~?」


「ああ、そこそこ進んだよ。おかげさまでね。このコーヒーは魔法の飲み物だよ。魔法は信じていない方だったんだが…」


「うふふ…嬉しいお言葉ありがとうございます!こっちも仕事がサクサクでしたよ~。明日、楽しみにしてますね。じゃあ、私は店長に有給とってもらうのでちょっと抜けます!」


レドは内心…


(有給とってないのにデート決めてたのか…)


と思っていたが、黙っておくことにした。

バックヤードにて…


「店長~!明日有給ください。」


「直球だねぇ…いつも早く来てくれるからいいけど…明日は他の子に入ってもらうから、存分にデート楽しんできてね。」


「え、なんでデートだってわかったんですか…?店長怖いですよ。」


「言い方言い方…なんでかは、その顔に書いてあるよ。幸せそうな顔してるからね。」


急いで鏡で顔を確認すると…


「なんでこんなニヤケてるの!?」


頬は少し赤く、自然と口角も上がっていた。

これで接客していたとなれば、常連の男性客たちに大サービスしていたことになる。


「あのお客様でしょ?彼、かっこいいよね~…お似合いだと思うよ。頑張ってね!」

 

「……頑張ります!それと店長、いつもありがとうございます。これからも働かせてくださいね?」


少々圧をかけて、サヤは店内に戻った。

店に戻ると、レドがおかわりを待っていた。


「あ、レドさんコーヒー煎れます?」


「お願いしてもいいかい?」


笑顔で頷いて、コーヒーカップ片手にキッチンへ向かった。

少し急ぎめで煎れて、レドの元へ向かうと…


「あのさぁ…サヤちゃんに絡むのやめてくれない?今はあんたのこと落とそうとしてるけど、普通は違うからね。そこはわきまえてもらわないと!」


「別に絡んでいるわけではないが…そもそも、サヤさんが俺に落ちると思ってるのか?誰を好きになるかは彼女次第だろう。決めるのは俺たちじゃない。」


「いちいち腹立つ言い方するねぇ…こんな無駄な言い合いしたくないんだけど。とにかく、サヤちゃんに近づくなよ!」


レドと常連の男が、言い争いをしているようだ。

一方的にふっかけられている感じだが…


「なぜ、あなたの言うことを聞かないといけないんだ?同じ常連同士、仲良くするのが筋だろう?」


「あんたと同じにするな。俺はサヤちゃんのこと、本気で想ってるんだからね!」


ガタッ


レドが立ち上がった。


「言っておくが…俺もサヤさんのことを本気で好いている。あまり軽視しないでもらいたい。」


「じゃあライバルだね。絶っ対、あんたの前に落としてやるから!こっちは年数が違…」


「ちょ…ちょっと!言い争いは駄目ですよ!落ち着いてください…」


サヤが間に割って入った。

周りもざわざわしていたので、これは見逃せない。


「あ…サヤちゃん…」


「すまない…熱くなってしまって…」


「お二人とも、他のお客様に迷惑ですので気をつけてくださいね!」


サヤのおかげで、その場は丸く収まった。

その後はいつも通り閉店の時間になり、レドもお会計に向かった。


「サヤさん、今日はすまなかった…無視すればよかったものを…」


「気をつけてくださいね!あのお客様にも言っておきましたが、周りの方に迷惑がかかるので…」


「言葉が出ないよ…」


少し叱られたレドは、心なしかしょんぼりとしている。

しかし、最後にサヤは笑顔で…


「明日、六時半ですからね!楽しみにしてます!」


「…ありがとう。それと…甘いものは好きか?」


「大好きですよ!期待して待ってますから…」


そして、二人とも家に帰ったのだった…



「やっぱり、あのお客様困るな…これで諦めてくれればいいんだけど…でも、それより…」


(俺もサヤさんのことを本気で好いている。)


「あれ…本当なのかな…コーヒーが美味しいとか、接客の態度とかのことで言ったんだよね?そうじゃないと…おかしいもん。」


レドが自分を本気で好きになるなんてあり得ない。そう思っていた。

それはレドも同じで…


「サヤさんに悪いことした…やらかしたな…」


家で悶々としていた。


「明日のデート…どうとるべきか…素直に好意なのか、遊びなのかわからない…」


いつ、サヤに気持ちを伝えるか。ずっと考えていたことだった。


「決めた…明日プロポーズする…!砕けてもそれでいい。このままでいるのは良くないからな。頑張れ俺…!」


ついに明日プロポーズすることを決めたレド。

絶対にうまくいくと信じたいが…どうなる?

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