三杯目 レド

サヤの1日は自分で煎れるコーヒーから始まる…

自慢のコーヒーは、朝の眠気覚ましにぴったりである。

今日の始まりを示すコーヒー…ということだ。


「よし!仕事行く準備しよ~っと…サングラスさん、今日も来てくれるかな…って、一人のことを考えちゃ駄目駄目!お客様皆のことを考えないと…」


今日も、頭からあの言葉が離れない。


「君は少々、男たらしがすぎる。」


「サヤさんが心配だ…」


ボーッと、そんなことを考えていると…

やかんからお湯が吹き出していた。


「やだっ!沸騰してた…」


急いで拭き取って、コーヒーを煎れる。

でも、今日のコーヒーは何だかすっきりしない味わいだった。


「もう出勤時間だ。行かないと…」


準備をして、サヤはアパートから出ていった…



「やっぱりうまくいかないな…あの味わいはどうやって出すんだ…?」


サングラスさんは、サヤのコーヒーの入れ方を模索していた。

家でも飲みたいほど美味しいし、何より愛しい人のコーヒーというのがいい。


「もうカフェの開店時間か。本と…パソコンと…サングラスは必須だな。」


サングラスさんも、マンションから出てカフェに向かった…

そのとき、サヤはすでに店頭に立ち、店の準備と接客をしていた。


「あ、ダグラスさん!おはようございます。今日も来てくださったんですね!嬉しいです。昨日は…」


「あ、昨日のことは忘れてくれ…!迷惑かけちゃったから…」


「いいんですよ~。私ってばモテモテなんです!なーんて、冗談ですよぅ。お席、ご案内いたしますね~。」


今日も、朝からたくさんのファンが集まった。

サヤを目当てに来る客はかなり多く、それは若い男性からマダムまで、幅広い年代層からなる。


「サヤちゃん、コーヒーお願~い!」


「サヤちゃん、話したいことがあって…」


「コーヒーおかわり、かしこまりました!すみません、後ででもいいですか?今こみ合っているので…」


厨房に居るときが安らぎの時間。

誰にも邪魔されず、コーヒーとだけ向き合う時間が、サヤは好きだった。


「あの人は甘めで…こっちはブラックの甘めで…」


客の顔と名前をほぼ暗記しているサヤは、客の好みに合ったコーヒーを全て同時に煎れている。並々ならぬ努力の賜物だ。


昼時になると、他の従業員も来るので余裕ができる。

存分に男を口説けるというわけだ。


カランカランッ…


誰かが店に入ってきた。


「あっ…サングラスさん!」


「…サヤさんか。今日も忙しいか?」


「はい~…そうなんです…毎日がこうですが、これも楽しいものですよ!窓際のお席へどうぞ~!」


コーヒーをすする客皆が目を光らせる。

またサヤを狙う男が来たのかと。男性客は、新しい男が来るたびにライバルとして目を光らせている。


「今日も同じ本ですか?」


「ああ、そうだが…何かあるのか?」


「いえ、本がお好きなんですね!と思っただけですよ~。」


「まぁ…小説家だからな。カフェに来るのはいい気分転換になるんだ。」


サヤは目を輝かせる。

小説家の男性には今まで出会ったことがなかった。


「私、小説大好きなんです!どんな小説を書いているんですか?」


「…内緒だよ。それに、俺はスランプ中だ。期待してもいいことなんてないぞ。」


「やっぱりスランプってあるんですね…私、絶対サングラスさんのファンになりますから、応援させてください!」


少し困ったサングラスさん。

自分の小説を読まれる、というのは結構恥ずかしいものだ。

とりあえず話題を反らす。


「それより…サングラスさんって名前、変えないか?長いし、呼びづらいんじゃないか?」


「そうですね…じゃあペンネームでいいですか?一部分だけでもいいので…」


「…レドと呼んでくれ。本名だ。」


「本名…いいんですか?ありがとうございます!ではレドさん、これからよろしくお願いしますね!」


(…いいのかな…私、男たらしなのに。それか偽名だったり?)


少し不思議な印象を覚えながらも、レドという名前を頭に刻んだ。


「それより…誰かが呼んでるぞ。サヤさん。」


「え、またですか!?すみません、コーヒーのおかわりが入ったので…」


「俺は執筆に入るから、気にしないでくれ…また後で。」


サヤは再び接客に戻った…

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