第22話 アイリス劇団の公演 その1
「やったーっ! さすがは座長!」
「ミア。あたしの昨日の活躍の成果でしょ? 褒めるなら、まず、あたしの方でしょ?」
胸を張るイザベラ姉さんを見て、ミアは首をかしげる。
「う~ん。でも、やっぱり、座長!」
「あんた、普段は座長と張り合うくせに、こんな時は何で座長の味方するのよ!」
僕たちが宿屋に戻ると、この騒ぎ。
相変わらず、ミアが関わるとにぎやかだな。
しばらく暴れさせて十分ガス抜きができたと思われたところで、座長は軽く手をたたいてメンバーを注目させる。
「はい。そこまでですわ。当日までにやることは沢山あります。かなり短い時間しかありませんが、これから、みなさまには稽古に励んでいただきます。よろしいですわね?」
「はーい、座長! 質問ですっ!」
元気にミアが手を上げる。
「何ですか、ミア」
「演目は何にするの?」
「演目ですか、そうですね……」
「『憎悪の魔術師』!」
「ダメです! あたしが認めません!」
ミアの発言に、イザベラ姉さんが強い口調で反対する。
「えー、だって、これ、イザベラが面白いもん」
「楽しむのはミアじゃなくて、客の方だ。絶対認めません!」
「えぇー。演者も楽しんでこそのお芝居だよ。一体感だって!」
「その通りだ! 私もミアに賛成!」
「レナ、お前、ふざけんなよ! 次は本当にお仕置きしてやるからな!」
今度は三人で騒ぎだした。
なんだ、この既視感。って、座長は表情が厳しくなってきているのに、なんで気がつかないんだよ。演目なんて、何でもいいじゃないか。
「ミア、レナさん、イザベラ姉さん、もう、止めてくださいよぉ」
いつものように、この騒ぎに割って入る。
だけどダメだ。やはり僕ごときではどうにもならない。
でも、放置するわけにもいかず、結局、僕まで加わり大騒ぎ。
腕を組んで見ていた座長が、大きく咳払いをした。
「み・な・さ・まっ! よ・ろ・し・い・で・す・かっ!」
取っ組み合いのまま、メンバーが座長を見て固まる。
「わたくしも『憎悪の魔術師』は悪くないと思います――」
「座長ぉ……」
イザベラ姉さんが情けない声を出して、座長にすがりつく。
「――ですが、ただ、人気があるというだけで決めてしまうのも面白くありません。せっかくメンヒ公国に来ているのですから、こちらの方がより楽しめる演目を選ぶべきでしょう。ここを治めるアイガー卿は気高き剣士の末裔。アイガー卿自体の悪い噂は聞きませんから、今も人望があるのでしょう。そうであれば『流れ者の剣士』が適切だと考えますが、みなさま、いかがでしょうか」
言葉で同意を求めつつも、有無を言わせぬ座長の圧力。
「いや、それだとレナがカッコよすぎるので、別の演目がいいような――」
不満そうなイザベラ姉さん。
「そうですか。それでは、他に適当なものもありませんから、『憎悪の魔術師』にするしか――」
「分かりました。分かりましたよぉ……」
座長の最後のダメ押しに、イザベラ姉さんが屈した。
そんな様子を見てレナさんがてニヤニヤする。
「座長がおっしゃるなら仕方ないよな。でも、イザベラには『悪』がお似合いだな」
「言ったな! ――フフ、まあ、いいわ。公演当日は楽しみにしてな」
イザベラ姉さんが不敵な笑いを浮かべる。
「そうか、楽しみにしててやるよ」
座長がにらみ合う二人を引き離すと、メンバーに同意をとるように話しかける。
「では、よろしいですわね?」
「「「はい」」」
三人とも座長に答えた。
「それでは、みなさまは台本と衣装の確認をしてください。さっそく、稽古を始めましょう。それから、クリスにはお願いがあります」
「はい、なんでしょうか?」
「大丈夫です。未経験の方でもできる簡単なお仕事です」
座長は笑顔で僕を見た。
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