第9話 街へ その1
カスターまでの道中、御者台にはミアとイザベラ姉さんが座り、御者としてイザベラ姉さんが幌馬車を操る。座長とレナさん、そして、僕は揺れる荷台に乗り、今後について話し合っていた。
「レナ、カスターの町に来たことはありますの?」
「いえ、ありません」
「では、カスターやメンヒ公国について、何か知っていることはございますか」
「そうですね……。カスターといえば、アイガー卿であるキャンベル家が治めるアイガー地域の中で、最大の商業都市ですね。キャンベル家は、その昔、この地域で大暴れしていた魔獣を封印した剣士の末裔とのこと。なんでも、その魔獣は全ての魔法を跳ね返す鱗を持つと言われ、数々の腕の立つ者や軍隊の攻撃を退け続けたそうです。その気高き剣士の末裔が率いる軍隊とのことで、アルテア軍もかなり苦戦を強いられました。そのため、この周辺はフランクフォート統一戦における激戦地となり、その戦いは熾烈を極めたと聞いています。当時、戦いで疲弊し、アルテア軍も荒れ、嘘か本当か、略奪や虐殺があったような噂も聞きます」
「はい……、国王の次男であるジャック・ダフィールドの率いるアルテア軍が、この地を制圧しました。ですが、まだ若く、無理に攻めたために多くの死傷者を出してしまいます。そんな兵士たちの士気高揚のため、陰で略奪を推奨し、虐殺を黙殺したとさえ言われています」
座長は少し悲しそうな顔をする。
「そんな、誇り高きアルテア軍が……」
レナさんも信じられないと顔をしかめていた。
「ですが、それも戦争。その狂気は人の心を簡単に破壊し、誇りも失わせてしまいますの。そのため、カスターの民は今でもアルテアの統治に反抗的なところがあると言われ、治安が良くならないとも言われていますわ」
「それでは、今回の誘拐事件は――」
「力で服従させても人の心はついてきません。アイガー卿はもちろん、その民の末端に至るまで、カスターには何かを企てる人がいたとしても不思議ではないのです」
「それじゃ、妹のクレアは、アルテア統一王国の戦争が原因でさらわれたってことじゃないですか!」
急に会話に入ってきた僕の言葉に、座長が目を逸らせた。
「クリス、落ち着けよ。別に国王が誘拐を命じたわけじゃないだろう」
「それは、そうだけど……」
確かに今の国王が戦争を終わらせたのかもしれない。それは爺ちゃんが話してくれたことだ。嘘だとは思いたくない。だけど、安心して暮らせないなら、何のために戦争を終わらせたんだよ。もう少し上手く軍を率いてくれたなら、略奪や虐殺を抑えてくれていれば、クレアはこんなことにはならなかったかもしれないのに。
「国王の望みは――」
座長は悲しそうに言葉を飲み込む。
「いえ、戦争は多くの悲劇を引き起こします。何を望んだとしても、戦争の決断をした者がそれらの責任を負い、これからの統治に生かしていくべきでしょう」
そうであれば、盗賊が出てくるような国を変えてほしい。
国王ができないというなら、それなら――。
「座長! カスターの町が見えてきたよ! もうすぐ到着だよ!」
御者台から、ミアの元気な声が聞こえてきた。
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