第40話 最強VS最強
俺は縮地を使用して、一気に懐へと入り込む。そして
ヴィクターも反応し、真正面から迎撃してくる。
凄まじい勢いで
「……な……に?」
ヴィクターの顔に驚愕の表情が浮かぶ。
そのまま俺は下段から
――我流剣技:
俺は即座に追撃を行う。
――我流剣技:
空を断つ斬撃が飛翔し、ヴィクターに襲いかかる。
ヴィクターはなんとか体勢を立て直すと腕に闘気を集中させて防御した。しかし空断は闘気を貫通し、腕に大きな斬傷を残す。
俺は再び縮地を使い、ヴィクターを追った。
「その程度か? 帝国最強」
腕に傷を負ったヴィクターは碌に防ぐことが出来ないはずだ。しかしヴィクターは大太刀を振るった。
「なんの……!」
驚くべきことに怪我をした状態で、俺の斬撃を受け止めた。そして傷付いた腕に魔術式が記述され、瞬く間に治癒していく。
……回復魔術も使えるのか。面倒だな。
そんなことを考えているとヴィクターが口を開いた。
「……今の技は天恵か?」
「そんなわけないだろ。これはただの剣技だ。俺の天恵は非戦闘系だよ」
その言葉にヴィクターは驚愕を露わにする。
「そんな……バカな。ただの剣技でオレの闘気を貫いたと言うのか?」
「何言ってんだ? 闘気ぐらい貫けないわけがないだ……ろっ!」
俺は
「そんなに自分の闘気に自信があるなら防ぎ切ってみせろよ?」
俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、縮地を使う。
そして大きく踏み込み、
剣技でもなんでもないただの斬撃だ。
それがヴィクターの闘気を易々と斬り裂いた。そして腹にまで到達する。
「がっ!」
ヴィクターは血を撒き散らしながら吹き飛んでいく。
いくら回復魔術があれど、あの傷はすぐには治らない。追撃すれば勝負は付く。
だが俺はしなかった。
「……これが帝国最強か」
俺はため息を吐いた。正直落胆を隠せない。
最強と呼ばれる者同士の戦いだ。なにか得る物があると思っていた。しかし蓋を開けてみれば得る物が何もない。
俺がやったのはただの力押しだ。
そこには技巧なんて存在しない。使うまでもなかった。
しかし、それだけで圧倒してしまえている。
遠くでヴィクターが立ち上がるが、俺の興は既に醒めていた。
俺は縮地を使って姫様の元へと戻る。
すると姫様は苦笑を浮かべていた。
「相変わらずですね。シン」
「興醒めですよ。殺さない方が良かったりしますか?」
「そうですね。できるなら捕虜にした――」
「うぉぉぉおおお!!!」
姫様の言葉を掻き消すような雄叫びを上げ、ヴィクターが突っ込んでくる。そして大太刀を振った。
「……
それは冷静さを欠いた斬撃だ。最強が聞いて呆れる。
俺は今一度ため息を吐くと、
そして左手を握り大太刀を横から殴り付ける。
流石の業物だ。加えて闘気を纏っている為、折れることはなかった。しかし、ヴィクターは大太刀を手から離した。
これで本人は無防備だ。俺は右拳を握り、ヴィクターの顎を打ち抜く。
「がっ!」
脳を揺らす一撃だ。
ヴィクターの膝の力が抜け地面に沈む。
しばらくは起き上がれないだろう。
戦闘終了だ。幕引きはあっけない物だった。
「ふぅ」
俺は一息つくと、姫様に向き直った。
そして聞かなければならないことを聞く。
「姫様。一つ教えてください」
「なんでしょう?」
「……まだ、王になる気はありませんか?」
姫様は王位に固執していない。
前に聞いた時は「私は騎士です」と、そう言った。
その言葉が本心だというのは長年の付き合いでわかっている。だから今回も十中八九「ない」と言われると思っていた。
しかし姫様は俺の予想に反して首を振った。
「シン。私は決意したのです。兄は貴方を嵌め、王国から排除しました。その結果、戦争が起きた。それは戦争を引き起こしたと言っても過言ではありません。……兄は王に相応しくない。だから私はなりますよ。王に。それに私にもやるべき事があります」
「驚きました。まさか
「
姫様は不機嫌そうに目を細め、頬を膨らませた。
「失礼。失言でした。でもよかったです。リヒトが王になれば最悪国が滅びる」
「辛辣ですね。ですが、その意見には私も同意です」
「……よかったです。本当に」
これで不安要素は消えた。王国は大丈夫だろう。
俺は安心して復讐への道を進める。
「姫様! ご無……事……。……シン?」
そこへ一人の騎士が走り寄ってきた。
俺はその人物、
「久しぶりシェスタ」
「やっぱりシンだ。え? 姫様……。もしかして仮面の男って……」
「ええ。シンでした」
シェスタが大きなため息を吐いた。
「……エルクスの予想は合っていたのですね」
「もしかしてエルクスにもバレてたんですか?」
「そうですよ」
姫様が笑みを溢した。
まさか知り合い全員にバレてるなんて、思いもしなかった。
……これは後でレティシアに文句を言わないとな。
そんなことを考えながら、俺はシェスタに向き直る。そして表情を引き締めた。
俺はシェスタに言わなければならないことがある。
「シェスタ。……俺はキミに謝らなければならないことがある」
「……なに?」
俺の真剣な様子が伝わったのか、シェスタも緊張した面持ちで頷いた。
「言い訳はしない。シュバインを殺したのは俺だ。謝って許される事ではないと分かっている。だけど……ごめん」
俺はシェスタに頭を下げる。
するとシェスタはすたすたと俺の前まで歩いてきた。
そして拳を握りしめ、俺の顔面をぶん殴る。
しかし魔力の篭っていない拳だ。痛みはあまりない。
「……理由。ちゃんと聞かせてもらうから。だけどもし、納得できる理由がないなら私がシン、貴方を殺す」
「ああ。そうしてくれ。キミに殺されるならなんの文句もない」
シェスタに殺されるのならば本望だ。
しかしシェスタは呆れたような視線を向けてきた。
「まったく真面目と言うかなんというか。……まあそれはいい。シン。貴方はまた姫様を救ってくれた。心から感謝する」
「姫様は俺の恩人だからな。当然のことをしたまでだ」
「それでも、だ。……では姫様。捕虜を連れて一度本陣へ行きましょう。元帥の身柄です。終戦の交渉ができるかもしれません」
「そうですね。シンはどうしま――」
その瞬間、俺は魔力の揺らぎを感知して
俺が異変の起きている場所に目を向けると、空間がぐにゃりと歪んでいた。
「……これは! 転移魔術!」
姫様が空間の歪みを見て叫ぶ。これは転移魔術の前兆だ。
「おやおや。やはり元帥でもダメでしたか」
そして現れたのは漆黒の長髪を持ち、蛇のような目をした不気味な男だった。
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