第14話 剣技
翌朝、俺たちは再び死界樹海へと戻ってきた。
座標は昨日
「……っと」
転移した瞬間に
「進もうか。方角はどっちだ?」
「……こっち」
「了解」
俺はレティシアが指差した方角へと進む。
その後ろにレティシアが続いた。
そうして進むこと約半日。陽が沈んだ頃、死界樹海の様子が一変した。と言うよりも樹海を抜けたと言った方が正しいだろうか。
巨樹の数が目に見えて減り、空が見えるようになった。
そしてそこには――。
「……
巨樹の陰から上空へと視線を向けると、黒い影が飛んでいた。
アンデット系統に属する竜種であり、死界樹海のみに存在する固有種だ。
空高くを飛んでいるのにも関わらず、その影は大きく見える。おそらくその体高は俺の三倍以上はあるだろう。
しかし厄介なのはその巨躯だけではない。
瘴気とは汚染された魔力。触れるだけで身体を蝕む猛毒である。
近接戦闘が得意な俺とはとことん相性が悪い。
王城にあった書物には、「遭遇したら迷わず逃げろ」と書いてあった程の魔物だ。
しかし俺たちが目指しているのは
……まあなんとかなるか。レティシアもいるしな。
「……レティシア。瘴気を防ぐ結界って張れたりするか?」
「……ん。……任せて」
レティシアは頷くと、魔術式を記述した。
――光属性結界魔術:聖浄結界。
魔術式が光輝くと、俺の身体の表面を覆うようにして薄い膜が張られた。
凄まじく高度な結界だ。
普通、結界という物は四角形や球形になる。それはその方が簡単だからだ。
しかし剣士にとってそれはデメリットになる。なにせ敵の攻撃を避ける時に結界を考慮しなければならないからだ。そうしなければ敵の攻撃を受けて砕けてしまう。
だがレティシアの結界にはそのデメリットがない。俺の表面に沿うようにして結界が構築されている為、俺が攻撃を喰らわなければ結界が砕かれる事もない。
剣士としては非常にありがたい結果だ。
しかし驚くべき事は他にもある。
「……驚いた。光属性も使えるんだな」
魔術師というものはあまり自分の属性以外の魔術を習得しようとしない。それは他の属性魔術を習得したところで威力が目に見えて下がるからだ。
ならば自身の属性で扱える魔術を増やす方が理に適っている。
レティシアがここに来るまで使用していたのは闇属性魔術だけだ。だから光属性魔術を使えるなんて思いもしなかった。
「……あまり得意じゃ無いけど」
レティシアはそう言って苦笑したが、俺にとっては十分すぎる。
きっと十人、いや百人の騎士に聞いても俺と同じ返答を返すだろう。
「十分すぎるよ。ありがとな。じゃあ俺は……墜とすか」
空を飛ぶ魔物は剣士にとって天敵だ。
だけどそれは普通の剣士ならの話。
俺には剣技がある。そして見つかっていない今なら使える。
俺は
敵は前方上空。飛んではいるが、動きは多くない。ほとんど滞空していると言っていいだろう。
ならば外す道理はない。
――我流剣技、
俺は鋭い呼気と共に、
音すら置き去りにする速度で振り下ろされた剣は、空を断つ。
次の瞬間、遥か上空にいた
姿勢を崩した
「……えっ?」
後ろでレティシアが小さく声を漏らした。
「……やっぱり良い剣だな」
それがいくら丈夫な剣だろうと、魔剣だろうとその結末は変わらない。
これが、俺が愛剣に
「……何が、起きたの?」
「斬撃の衝撃波で斬っただけだよ」
「………………だけ? ……わたし、シンも大概だと思う」
レティシアは呆れたように呟いた。
「グゥオオオオオオ!!!」
その時、遠方から凄まじい咆哮が轟いた。そして魔力反応が増大していく。
「怒ってるな」
「……これは、
「ああ」
俺はレティシアの言葉に従い、後ろへと下がる。
するとレティシアは凄まじく巨大な立体魔術式を記述した。
――闇属性防御魔術:
前方の空間が歪み、黒き帳を降ろす。次の瞬間、遥か遠方から熱線が放たれた。
凄まじい熱量が大地を抉り、巨樹を消し飛ばしながら迫る。
直後、轟音。
だが突き破る事叶わず。黒き
「道が出来たな」
目の前にはごっそりと抉れた地面があった。
その先には片翼をもがれた
「援護は任せた」
「……ん」
レティシアが頷き、数多の魔術式を空中に記述する。
そんな中、俺は一歩踏み込み縮地を使った。
彼我の距離、およそ三百メートル。それを一瞬の内にゼロにする。
その瞳ははっきりと俺を捉えていた。
俺は縮地の勢いをそのままに剣を叩きつける。しかし、
……硬いな。
竜鱗だ。魔力を纏った天然の装甲。これを突破するのは少し骨が折れる。
だが出来ないわけではない。
「グゥオオオオオオ!!!」
そして
……やっぱり魔術も使うよな。
想定内だ。だから問題ない。
直後、背後から飛来した黒き槍が魔術式に命中。その全てを霧散させる。
最高のタイミングだ。
故に、死纏飛竜が一瞬の隙を晒す。
「スゥ――」
その隙を見逃さずに俺は息を吐き、腕に力を溜める。
――我流剣技、
俺は力いっぱいに
それが俺の狙いだとも知らずに。
竜鱗に阻まれた腕と
そして、竜鱗が粉々に砕け散った。
「グァァァアアア!!!」
我流剣技、
それは斬撃ではなく打撃だ。
斬るのでは無く、壊す事を目的とした一振り。
硬くて刃が通らないのであれば通るようにすればいい。それだけだ。
俺はすぐさま竜鱗の剥がれた腕に剣を振るう。
竜鱗に阻まれていなければ斬り飛ばすのも容易い。
俺は
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