第8話 魔剣

 レティシアに付いて階段を下っていく。

 一階、二階と下って辿り着いたのは地下室だった。


「……ここが死塔の宝物庫」

「……なんか綺麗だな」


 目の前には豪奢な装飾を施された両開きの扉があった。

 華美な装飾だが決して下品ではない。王城で多くの美術品を見たことがあるが、どれもこの扉の前には霞むだろう。


「……魔術で綺麗にしてるから」

「……そういう綺麗じゃないんだけどな」


 俺は苦笑を浮かべてそう言ったがレティシアは首を傾げるだけだった。


「……まあいい。入ってもいいか?」

「……ん」


 レティシアに断りを入れてから俺は扉を開く。

 そして目に飛び込んできた光景に感嘆の声を漏らした。


「……凄いな。……これは」


 そこにあったのは武具の数々。

 騎士が使う一般的な長剣から短剣、弓や槍、巨大な戦斧など。種類も数もかなりの数があった。

 それも、全ての武具が業物だと一目でわかる。ハイルエルダーという大国で騎士団長を務めていた俺でもこのレベルの武具は見たことがない。


「……でしょ」


 そう言ったレティシアはどこか誇らしげだった。


「しっかしこんな数、どうやって集めたんだ?」


 呪いのせいでレティシアは街に出ることができない。

 だからこれほどの武具をどうやって集めたのかが気になった。買うとなれば凄まじい金額になるだろう。

 それこそ城が何個も建つほどに。

 

「………………わからない。……わたしが物心ついた時からここにあった」

「レティシアが生まれた時には死塔は既にあったのか?」

「……ん」


 レティシアは頷く。

 誰がどんな目的で死塔を作ったのか。

 そしてこの武具の数々は何のためにあるのか。

 わからないことだらけだ。


 ……いやそもそもレティシアはどうやって育ったんだ?


 そんな疑問が頭をよぎった。

 レティシアは生まれた時には既に死の呪いに侵されていたと言った。ならば生まれた瞬間、母親が死の呪いで亡くなっていてもおかしくはない。


 ……というよりもそうなんだろうな。


 レティシアは俺の「ずっと一人なのか?」と言う質問に頷いた。だからその可能性は高い。


 ……でも聞けないよな。


 友人になったとは言え、俺とレティシアは出会ってから一日も経っていない。そんな人物が気になったからと言う理由だけで踏み込んでいい領域ではないだろう。

 だから俺は敢えて話を変えた。


「……そうか。入ってもいいか?」

「……ん」


 レティシアが頷いたので俺は宝物庫に足を踏み入れた。

 色々な武具があって目移りしそうになるが、俺が一番得意なのは剣だ。だから剣が並べられている場所へと歩を進める。


 ……どれもいい剣なのは間違いないが。


 とにかく数が多い。

 きっとどの剣を使っても以前の俺とは比べ物にならないほどの実力が出せるだろう。

 しかしどうせなら自分に合うものを選びたい。


「レティシア。この中だとどれが魔剣だ?」

「……全部」


 魔剣とは特殊な能力が付与された剣のことを言う。

 魔剣というだけで高値がつけられて、良い能力だと一振りで一等地に豪邸が立つほどの金額になる。


「……全部? ……相変わらず凄まじいな」

「……ん。……ちょっと待ってて。……たしか目録があったはず」


 レティシアが棚を漁ると一冊の本が出てきた。やけに古い本で装丁が所々剥げている。


「……はいこれ。……ここら辺の剣は全部載ってる思う」

「ああ。助かる」


 俺はレティシアから本を受け取り、ぱらぱらとページを捲る。

 そこには魔剣の絵と付与された能力が詳しく記述されていた。

 炎を纏う剣やら、冷気を発する短剣。重量を変えられる大剣など、本当にさまざまな魔剣があった。


 ……これは。


 その中でも俺の目を引いたのは、一つの長剣だった。

 俺は並べられている武具から特徴の合う剣を探す。しかしどこを探しても見つからない。


「……どれを探しているの?」

「これなんだが、どこにあるかわかるか?」

「……これは」


 レティシアが息を呑んだ。


「もしかして不味かったりするか?」

「……ううん。……大丈夫。……ちょっと待ってて」


 そう言うとレティシアは宝物庫から出ていった。

 少し待つと小柄なレティシアでは重そうな長剣を抱えて戻ってきた。


「……はい」

「ありがとう」


 ……宝物庫以外にもあるのか。

 

 そんな事を思いながらレティシアから剣を受け取り、鞘から抜き放つ。

 無骨な剣だ。余計な装飾はなく、剣という役割を全うするために造られたという印象を受ける。


 レティシアから少し離れ、軽く剣を振るう。


 ……うん。重さも刃渡りも俺の身体にピッタリだ。


「……良い剣だな」

「……ん。……最高の剣」


 レティシアは僅かに微笑むと、頷いた。

 

 銘は不壊剣ふえけんレスティオン。その能力はたった一つ。不壊コワレズ

 どんな攻撃をしても壊れず、どんな攻撃を受けても壊れない。いくら敵を斬ろうとも刃溢れ一つしないのだとか。


 俺は今まで何本もの剣を駄目にしてきた。

 どれほど丈夫な剣でも俺の力に耐えきれなかったのだ。それは魔剣であっても、例外ではなかった。

 だから俺は愛剣と呼ばるものを持っていない。しかしこの剣、不壊剣レスティオンならば心配ないだろう。そんな確信があった。


「これにするよ」

「……ん。……わたしもそれが良いと思う」

「ありがとな。レティシア」

「……ん!」

 

 こうして不壊剣レスティオンは俺の愛剣となった。

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