彼女は今日も生きている

降矢あめ

エピソード1 彼と恋愛の話


「ごめんなさい」

「え、」

「だから、ごめんなさい」


突然のことで頭がくらくらする。もしかして僕は今、失恋したのだろうか。


「え、えと、僕たち今すごくいい感じじゃなかった?」

「そうですね、今というか最近?すごくいい感じだったと思います」


間違いない。彼女は僕にそういう話をしているのだ。


「じゃあ僕は君にとってそういう対象じゃなかったってことかな」

「大まかに言えばそうですね」

「大まかに、、、細かく言えば違うってこと?」

「はい」


そこで彼女はコーヒーを一口。


「少し長くなりますが、構いませんか?」

「はあ」


このため息ともとれるよくわからない返事を彼女は肯定と受け取ったようだ。


「私にとってあなたがそういう対象ではないというだけでなく、そういう対象そのものがいません」


ここが漫画の中だったら僕の頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいるだろう。


それは、どういうことだ?


「私は人と人が付き合う、つまり恋人になるというのは目的があるからだと考えています。


まず、一つ目に結婚するため。結婚を前提としてお付き合いするという場合ですね。


次に二つ目、お互い、またはどちらかが特に相手に好意を持っておりその関係を明確にするため。


最後に、孤独を埋めるため。


私は結婚願望というものがありませんし、一人でいて寂しいと思うことも極端に少ない方かと思います。

ごくたまに『キュンッ』とするときめきが欲しくなれば少女漫画を読むなり、恋愛映画を見るなりして欲求を満たします。より刺激を求める場合は純文学やAV、ホラーからサスペンスまでいろいろあります。

むしろ一人でいる自由を放棄してまで一緒にいたいという人がいません。

なので恋人という関係を誰かと築くことが全く有意義でないという結論にたどり着くのです」


ただでさえ整理できていない僕の頭の中は彼女のこの説明によってさらに整理されていない状態となった。


というか、僕は彼女に好きのすの字も言えずに今こうしているのだけれど。


「それに、恋人になるということはとても大変なことです」


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