安寧の日々?

――――――――――――――――


163 名無しの探索者

【悲報】配信停止から一日以上経過



165 名無しの探索者

やっぱ死んだんかね

結局あれがどこのダンジョンなのか分かったん?



166 名無しの探索者

専用スレできたその日に死んだら伝説だろw



170 名無しの探索者

別に死んでも配信はとまらんくない?

ツールズ壊れると止まるっけ?



173 名無しの探索者

そもそもツールズは壊れない定期

最近海外の配信者が耐久実験やってたけどノーダメだったの見たな



177 名無しの探索者

前回の不審点↓

・瑠璃蜘蛛は石斧で死なない

・動きがおかしい

・姉を助けに駆けつけるとかいう出来すぎた展開

今回↓

・出てくるモンスターのモデリングが実際のものと微妙に違う

・「透明な弾で攻撃してまぁす!」(実在のスキルのエフェクトを編集で再現できないだけw)

・そもそもユウキとかいう配信ネームがユウタくんに次ぐ小学生ネームでダサい

・突然切れる配信(ダンジョンで回線不調は起こりえないw)


瑠 璃 蜘 蛛 は 石 斧 で 死 な な い


ユウキとかいう詐欺師本気で信じてる奴wwwwwwwwww



180 名無しの探索者

長文コピペあって草



181 名無しの探索者

アンチは人気の裏返しってそれ一番言われてるから



183 名無しの探索者

ユウキが本物かどうかはともかく連投コピペ死ね



186 名無しの探索者

>>そもそもユウキとかいう配信ネームがユウタくんに次ぐ小学生ネーム

ここすき



192 名無しの探索者

おれ小学生だけど普通に本名でゲーム配信してるよ

理由は、親にもらった名前を大事にしているから



194 名無しの探索者

親思いの小学生も見てます、と



198 名無しの探索者

言うほど親思いか?



202 名無しの探索者

さやちさあ、普通弟が生きて帰ったら発信するよなあ

死んでてバタバタして書き込めないとか?それか忘れてるとか?



204 名無しの探索者

お前らがSNSに突撃しまくるからビビってんだろ

瑠璃蜘蛛騒動のときも一日くらいダンマリだったし



205 名無しの探索者

やっぱ死んでる可能性が高いかね

こうしてユウキは伝説になったのであった・・・



――――――――――――――――





***



「――は? ネットで俺が死んだことになってる?

 あ、そう……」



 我ながらひどい生返事をすると、通話相手である妹のチハルが案の定、『あっそうってなに!?』と憤慨しはじめる。



 ……土曜日。

 俺が例のダンジョンから帰ってきてから、丸一日が過ぎようとしていた。



 ダンジョン内でも危惧していた通り……俺の配信は、瑠璃蜘蛛討伐と同じような騒ぎになっているようだ。

 その騒ぎのなりようと言ったら、海を越えてフィンランドに住むチハルの耳にも届いたほどである。



 ……というのは、まあ普通に過言なわけだが。



 俺のアカウントを元々フォローしていたチハルは、久々に配信している兄の配信を冷やかしで開き――そのとんでもない視聴者数にまず、「可哀想に……とうとうbotで自作自演し始めたのね……」と思ったそうだ。



『――それが、まさかユウ兄が瑠璃蜘蛛の人だったなんてねえ……。

 ってか、サヤ姉もすごくない!? めっちゃ登録者いてビビるんだけど!」


「そうだな、すごいよな」


『……ねえ、聞いてる? さっきから返事が適当じゃない?』


 ……実のところ、あまり聞いていなかった。


 今、俺の周りでいろいろなことが起きすぎていて、配信がどうとかネットがどうとか、もうそれどころではないのだ。




 ……そう、いろいろなことが起きた数日間だった。


 なぜか俺をダンジョンに行かせようとするバイト先の社長と、謎のダンジョン。

 ついでに、桜彩に弟扱いされた衝撃。


 いくらなんでも過酷すぎた連戦。

 あまりにも不利な状況で始まった強敵との戦い。



 そして……そんな状況に振り回された先に、それに見合う――。

 たとえば、簡潔で明瞭な答えのようなものを……俺は、心のどこかで求めていたのかもしれない。

 

 

 ……ところが、だ。

 強敵を撃破した、ダンジョンの終点。


 そこで俺を待っていたのは、答えなどではなく。

 むしろ、より一層の――。




「ねえ。なんかこれ、光らなくなっちゃったんだけど」




 上の空だった俺の意識に――突然、少女の声が割り込んできて。


 ……俺は反射的に、チハルとの通話を切っていた。

 

 

 ――タブレット端末を片手に持った少女が、そこに立っていた。



 着ている薄手のパーカーはオーバーサイズで、履いているスウェットも全体的に緩い……が、顔立ちの良さのせいでそれなりのファッションに見えなくもない。


「え、なに……?

 きゅ、急にこうなったの。私は壊してない……と、思う、けど……たぶん……」


 その顔をじっと見つめている俺が、よほど憮然としたような顔をしているせいか、だんだん不安そうになっていく少女の手からタブレットを受け取って……。

 


 俺は無言で、それを充電コードに接続した。

 

 

 より一層、混沌としていくこの状況を……。

 ひとまずは『ユウ兄、女の人連れ込んでるの!?』というチハルからのメッセージを、どう躱そうか考えながら。



***




 ――少女は何者で、俺とはどんな関係なのか。

 

 

 なにが起きて、どうなっているのか。

 

 

 俺が置かれているこの状況を説明するためには、あのとき――。

 

 ダンジョンで、例の“生きている”魔法陣もどきを見つけたところまで、時間を遡らなくてはならないだろう。




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